14. ふつー!
フワリフワリと空を飛ぶベバムたち。
「ベバムさんベバムさん」
シソがベバムへ声を掛ける。
「どうした?」
「今僕たちって当たり前のように空を飛んでますけど、これってちゃんと”仕掛け”があるんですよね?」
「なぜそう思う?」
ベバムが聞き返してくる。
「ベバムさんを見た限り、翼みたいなのは生えてないし、ふつーに考えて、人間が空を飛ぶ事なんて出来ないはずです」
「俺に第三の目があるとして、この世の全てを掌握出来る能力を手に入れて、空を飛べてる可能性もあるぞ」
「第三の目って、例えが無茶苦茶すぎますよ……」
「仕掛けがあろうと無かろうと、実際に空を飛んでるんだし、シソが感動した事実は変わらないだろ?」
ここであの時の感動を持ってこられてもなぁ。感動したのは事実だけど……
「でもさでもさ!シソ君!私はベバムみたいに空飛べないよ!」
フナがそう話すが、そりゃシソだって空を飛ぶ事は出来ない。ん?フナだって、ベバムと同じく空飛ぶ芸人なのに、空を飛ぶ事が出来ないのか?
「それに空を飛ぶことに仕掛けなんか無いよね!ね?ベバム!」
「あ、ああ。そうだな。仕掛けなんてない。これは俺の能力だ」
あっさりとベバム自身の能力だと認めてしまった。最初からそう言えば、良かったのに、シソに知られたく無かったのだろうか?だけど、見たところ、ベバムには翼のようなものは生えていないし、左手は鞄を抱えるのに使っているし、右手にも、何かを持っているようには見えない。 本当に空を飛ぶ能力を持っているのだろか。ハイスピードモードは、明らかに常人に出来ることでは無い。そもそも空を飛ぶ事自体が常人には出来ないことだ。でも、ベバムとフナの二人は、”空飛ぶ芸人”自称している。
空を飛ぶ芸人なのだから、当然空を飛ぶ事が出来るのだけれども、空を飛べるのはベバムだけで、フナは空を飛ぶ事が出来ないと言っていた。
うーん。何なんだろうなぁ。
「私もベバムに頼るんじゃなくて、自分で空を飛んでみたいなぁ!ね?シソくん!」
「え?あ、はい!僕も飛んでみたいです」
フナに同意を求められて、反射的に同意してしまった。空を飛びたいか。確かに、思った事はあるけれども。
「私だって本当は……はっ!……やっぱり何でもない!私飛びたくないよ!空怖いし!……シソ君は立派だね!空を飛びたいだなんて!」
「え……ええ!?」
いやいやいや、考えが180°変わってるんですけど!?
「まあ、そういう事だシソ。空を飛びたいだなんて、思わない方がいいぞ」
「えぇ……」
飛びたいなんて思わない方が良いと言われても……よく分からないなぁ。
とりあえずシソは今一番気になる事をベバムに尋ねた。
「それで、ベバムさん。今はどこに向かってるんですか?」
「……」
ベバムは何も答えない。
「……え?ベバムさん?」
ここで、フナがベバムの肩をポンポンと叩く。
「シソ君。人生に目的地なんて無いんだよ!私達は永遠に彷徨い続ける魂のような存在。つまりね、今どこに向かってるのとか、次どこに行くのとか、そういう質問はしちゃダメなんだよ!」
「ええ!?ちょっと意味がわからないんですけど!?」
「意味なんてわからなくていいんだよ!人生に目的地なんて無いんだから!」
「人生に目的地が無いのは分かりますけど!目的地を設定しないと、進まないじゃないですか!」
「進むよ!目的地なんて無いんだから!」
そっか、空飛ぶ芸人だから目的地を決めず、フラフラ移動しながら、旅をしているのか……と勝手な解釈をするシソ。
「次の目的地は”マチ”という町だ」
ベバムがあっさりと言ってしまう。結局言ってくれるのか、何だったんだ、今までのやり取りは。
「はあ、町というマチですか」
「違う、”マチ”という町だ」
「別にどっちでもいいじゃ無いですか。一緒なんですから」
「お前って几帳面真面目キャラかと思いきや、変なところで緩いよな。いい加減キャラを安定させてくれ。こっちも反応に困る」
「ええ……僕って結構確立したキャラを持ってると思うんですけど、そんなに不安定ですかね?」
「ツッコミに関しては、褒めるに値するが、それ以外はまだまだだな。俺もフナもしっかりとしたキャラを持ってるんだから、お前も頑張れよ、シソ」
な、何故か応援されてしまった……
ここでフナがマチの町について説明してくれる。
「マチの町はね!オヌルラの村に行く前に私達がいた町だよ!」
村から一度も出た事がないシソだが、マチの町(名前は知らなかったけど)の存在はうっすらと聞いていた。オヌルラから一番近い町なので、物資の調達などの為に、村人が足を運んでいると聞いたことがある。
「マチの町ってどんな町なんですか?うっすら聞いた話だと、オヌルラの何倍も発展している大都市って聞いたんですけど」
「マチの町は大都市とまではいかないが、それなりに建物があってそれなりに人がいて、それなりに発展しているふつーの町だな。見かけは」
含みを持たせるような言い方をするベバム。見かけはふつーの町。はて、何かに似ているような……
「その……見かけはふつーっていうのは……?」
「つまりふつーの町では無いってことだな」
まあ、そりゃそうだろうな、納得。
「ふつーじゃないオヌルラの村の住民と交流がある町なんて、ふつーじゃ無いんだろうなぁとは思ってたので」
「なるほど。よく考えたら、ふつーじゃないマチの町の住民に教えてもらったオヌルラの村がふつーの村なはずが無いよな」
それは言い過ぎじゃ無いか……と一瞬思ったものの、あながち間違いでは無い気がした。
「それで、マチの町は具体的にはどんな町なんですか?」
「居場所を追われた荒くれ者が集まる町だな。当然治安が悪い。フナと滞在していた時は、鞄は盗まれるし、いきなり殴られるし、ぼったくられるし、大変だったよ」
盗みに暴力に詐欺って……オヌルラの村よりも酷いじゃ無いか。オヌルラの村は、部外者が許可なく村に立ち入ったり、出て行ったりさえしなければ、何もされることは無い。そんな怖い町が近くにあったとは……
「でもさでもさ!悪い人ばかりじゃ無かったよ!”お金に困ってるの?貸してあげるよ”って言ってくれる優しい人もいたよ!」
心優しいフナがマチの町を擁護しているが、怪しさマックスで全然擁護になっていない。
「それって詐欺なんじゃ……フナさんまさかとは思いますが、そのお金、借りたりしてませんよね?」
「別に私はお金に困ってないからね!勿論断ったよ!その人がね、紙にサインをしただけで、お金を貸してくれるって!しかも返さなくていいって言ってたよ!」
うーん、ますます怪しい。
「貸したお金を返さなくていいって……それって”貸した”ことになるんですかね?」
「それでね!お金は返さなくてもいいけど、紙にサインをした時点で、契約を結んだ事になって、その人の命令に何でも従う義務を負うらしいよ!」
「いやいや!何ですか、その契約は!?」
「命令の内容は教えてくれなかったけど……」
怖い、怖すぎるよ!マチの町!
「マチにはマチ自治会というものがあるらしくてな。今はこの会がマチを支配している。オヌルラの村長と、自治会の会長がお互いによく交流しているらしい」
つまり、オヌルラのリーダーとマチのリーダーが仲良しで、お互い距離も近いから、オヌルラはマチから物資などを調達していたのか。
「それに今は……お、マチの町が見えてきたぞ」
見えてきたのは、家々が並ぶ綺麗な町だった。
「あれ?荒くれ者の集まる町と聞いたので、もっと汚くて、どんよりとした町だと思ったんですが、意外と綺麗な街並みですね」
「元々はそこそこの金持ちが住んでいた町らしいが、そこへやって来たのが……まあ、そういう事だな」
オヌルラの村でずっと暮らしてきたシソにとっては、初めて訪れる町だ。
一体何が待ち受けているんだろうか……??
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