13. よかったね!

 ***


「お、おい!?今の見たか?」


「ああ、何かビューンって飛んでったよな??」


「すげえ、どうやったんだろ……」


 ベバムたちがハイスピードモードで飛び去った後、彼らを追っていた村人たちは、なす術もなく立ち尽くしていた。それだけで無く、追っていた反逆者たちが、月の明かりに照らされながら、夜空を飛んで逃げていったのだ。


 一人の村人(村人A)がじっと空を見つめていた。そういえば、村長から村に来る芸人について聞いた時、”空飛ぶ芸人”を自称していた事を聞いた。村人Aは、娘がショーを見学していた事もあり、盛り上がる子供たちの後ろでショーを見ていた。年若い小柄な少女が、元気に芸を見せていた。村人Aは芸人というモノを見たことが無かったので、どんなものかと思っていたら、中々に面白かったのを覚えている。村の中での平和な日常、悪く言えば窮屈で退屈な日々に飽きていた村人Aにとっては、新鮮な体験だった。村から出ようとする者、村に入ろうとする者を迫害する、そんな仕事をし続け、自分にも他者にも、息子にも村に留まる事を強要し続けてきた村人Aの人生。飛びゆくシソロスと芸人たちを見て、村人A は何を思ったのだろうか。


 取り残された村人たちで、こんな会話がされていた。



「どーすんだよ、反逆者は村から逃がしちまうし、シソロスも村から連れてかれちまうしよ」


「村長怒るかなぁ。やだなぁ。よりにもよって、一番厄介なヤツを逃がしちまったしなぁ」


「そもそもどうして芸人たちは、シソロスを連れて行ったんだ?俺、村長に言われてあいつらの事監視してたけど、そんな素振り見せなかったけどなぁ」


「最初からシソロスを連れ出すのが目的だったとか。だけど、シソロスが外部の人間と接触する機会なんてないよな?」


「そういえば、あの芸人たち、村の外れにテント張ってたよな?誰か監視してたか?」


「一応監視はしてたが、ショーをやってたのは、女の子のほうで、中にいたのは男だけだった気がする。ああ、でも、夜の間は、村の巡回があったから見れなかったけど」


「え、つまり、夜の間は誰も見てなかったって事か?そん時に逃げたんだろ?俺たちやばくね?」


「まあ、やばいっちゃやばいが、適当な嘘で、適当に騙しとけば大丈夫だろ。シソロスに関しては、あいつの両親のせいにしとけばいいんだし」


「まっ、そっか。ちゃんと監視してなかった両親のミスだしな」


「だけどなあ、空飛んで逃げるとかなぁ。どうなってんだか」


「いいなぁ。俺も空飛んでみてぇよぉ」


 ***


「へえ!シソ君”なんでもボックス”の試練に打ち勝ったんだ!凄いね!」


 ハイスピードモードでありながらも、若干落ち着いたスピードで、ベバムたちは飛行していた。


「あれって試練といえるんですかね?眩しい光に耐えながら、箱を開けただけじゃ無いですか」


 確かに眩しかったが、試練といわれる程難しいものでは無い。なんでもボックスはあれでシソの何を見極めていたのだろうか。


「いやいや、お前は適応者だから良かったものの、不適応者があの眩い光を間近で見ていたら、失明してたぞ」


 ベバムがさらりと恐ろしい事を話す。


「え、ええ!?失明って……!それがわかってて、僕にあんな事やらせたんですか!?」


「お前なら何となく出来る気がしてな」


「何となくって……僕たちまだ会ったばかりじゃ無いですか!」


 恐ろしい……ただ、なぜなんでもボックスが自分の事を認めてくれたのかは不思議に思っていた。


「でもでも!結果としてシソ君なんでもボックスに認められたんだからね!良かったね!シソ君!」


「良かったん……ですかね?」


 シソが疑問に思っているところへ、ベバムが冷徹な一言。


「死ななかっただけでも有り難いと思うんだな」


「そりゃその通りですけど!うーん。何かしっくりこないなぁ」


「考えてもわからないことや、どうにもならない事は、きっぱり忘れた方がいいぞ。俺はそうやって生きてきた」


 ベバムが自慢げに話すが、それはそれで心配だ。


「ベバムは大切な事も忘れちゃうけどね!」


「うむ……」


 フナのさりげない一言に、ベバムは言葉を失ってしまう。都合が悪かったのか、的を得た発言だったのか。フナは良くも悪くも、純粋で、悪意は無くとも、思った事をはっきり言うタイプのようだ。ベバムの性格と、ある意味相性が良いのかもしれない。


「なんでもボックスの試練……か。……あれ?」


 シソは何かを忘れている気がした。ベバムは考えてもわからない事や、どうにもならない事はきっぱり忘れた方が良いと言っていたが、シソはそうにもいかない。抱え込んだモヤモヤは渦を巻くように広がっていき、残り続ける。きっぱり忘れるのでは無く、きっぱり解決するのが、シソの生き方だった。


「ベバムさん、僕さっき”ヒカリ”について話しましたよね?」


「”ヒカリ”?何だそれは」


 もう忘れているのか……。フナの言った事はやはり正しかったようだ。


「ああ、あの意味深なセリフか。何だっけ?『暗くて悲しい日常を明るく照らしてくれるような、”ヒカリ”』だっけ?もう無かった事にしたのかと思ってた」


「何でセリフは、ばっちり覚えてるんですか……」


ほんとによくわからない。


「私もシソくんのセリフ覚えてるよ!”えぇ。何すかぁぁぁぁ今のぉぉぉ!ちょっとよく見せて下さいよぉぉぉぉ!”」


 フナがシソの口調を真似て話す。


「あああああ!そ、それはやめて下さい!!ちょっと誇張してますよね!?それ!?」


「お前がどれだけ後悔しようが、一度発言した内容は、一生残り続ける。後悔するなら最初からそんな発言するな。これからは後悔しないよう気をつけるんだな」


 はい、ベバムの言う通りです。大正論です。


「はい……」


 シソは何も言い返せなかった。


「まあ、ナイフ使いシソロスに関しては、事情を配慮して、言及しないでおこう」


 や、優しい……!流石ベバム!ちゃんと分かっていらっしゃる。


「ナイフ使いシソロス??シソ君ナイフ使いだったの!?ナイフ使えるの?!ねぇねぇ!」


 ああ、フナさんは無理か……

 興味津々なフナの輝く瞳を頭上に感じつつ、シソはベバムに助けを求める。


「あははっ。はは……ベバムさん、助けて下さい……」


「俺にはどうする事も出来ん。諦めろ、ナイフ使いシソロス」


 が、あっさりと見捨てられてしまう。


***



「うーん……」


 やはり気になるのは、ジイさんが言っていた”ヒカリ”だった。


「……あれ?」


 なんでもボックスの試練、眩い光の中、箱からモノを取り出す。

 眩い光……ヒカリ!!


「……いや、あり得ませんよね。まさか」


「俺も同じ事考えてた」


「……え?」


同じ事って、まさかなんでもボックスの事だろうか。


「なんでもボックスは俺の師匠から貰ったモノだ」


「ベバムさんの師匠から……?」


芸人の師匠という事だろうか。


「今回の試練もそうだが、俺たちの常識をはるかに超えた力を、なんでもボックスは持っている。何が起きたって不思議じゃ無い」


 意味深なセリフをベバムは話す。


「それってつまり……」


なんでもボックスの話が出てきたっいう事は、シソが考えている事と、ベバムが考えている事は、恐らく一致しているのだろう。


「真実は分からないがな」


「うーん。もやもやしますねぇ」


「だから言っただろ。考えてもわからないことや、どうにもならない事は、きっぱり忘れた方がいいって」


「そうですかねぇ……」


 暗くて悲しい日常を明るく照らしてくれるような光……。ジイさんは何を思って、シソにこの言葉を投げかけたのだろうか。


 ***


「久しぶりじゃの、村長」


「何じゃ、ジイさんか。てっきり死んだかと思ってたよ」


「ふぉっふおっふおっ。オヌルラ三人衆の一人であるワシが死んだらこの村は保たないわい」


「どうかの。今度村に最新鋭の兵器を配備する予定じゃ。ジイさんはもう必要ない」


「最新鋭の兵器とはまた凄いのを出してきたのぉ。その金はどっから出てくるのかのぉ……」


「ジイさんは何も知らなくていい。それより、こんな所にきて一体何のようじゃ?ワシは忙しいんじゃが」


「ふおっふおっふおっ!聞いてくれ!ワシはついに見つけたんじゃ!暗くて悲しい日常を明るく照らしてくれるような、”ヒカリ”をな!」


「”ヒカリ”……?」


 ***


 オヌルラの村は、村から出る者、村に入ろうとする者を阻む以外は、普通の長閑な村だった。……かのように見えるが、もう一つ別の面で、大きな特徴があった。が、それはまた別の話だ。







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