12. みんなでいくよ!

「ベバム、行きます!」


 フナが、ベバムの声色を真似しながら叫ぶ。


「何だその死に行く兵士みたいなセリフは」


 ベバムが困惑した表情で話す。


「こーゆー時はかっこいいセリフを言うのが定番なんだよ!ほら、シソ君も!」


今度はシソに同じ事をやるように促す。


「え!?えっと……シソ、行きます!」


 シソが元気の良い大きな声で叫ぶ。


「何なんだ、この儀式みたいなヤツは」


「さあ、次はベバムの番だよ!!」


 フナがベバムにも同じ事をやるよう促してくる。


「はぁ……はぁ……ぼ、僕もやったんですから、ベバムさん!お願いしますよ!」


「”自分もやったんだからお前もやれ”理論は好きじゃないな」


「いえ、こーゆー時はかっこいいセリフを言うのが定番なんです。さあ、次はベバムさんです。どうぞ」


 シソも困惑して無かったか?

 シソの”僕もやったんだから、お前も早くやれよ”的な瞳に苛立ちを覚えつつ、フナの期待を込めた瞳に圧倒されてしまい、仕方なくベバムは……


「はぁ……全く……」


 ワクワクワクワク。


「……ベバム行きます!」


ベバムは、ギリギリ叫ぶと呼べるか微妙なレベルの声を発した。


「「おおおおおおおおお!!」


 ベバムが要求通りに事を済ませると、喝采が起こる。

 一体何が”おおお!”なんだ……。


 はい、という訳で、行きます。フナとシソの拍手を浴びながら、ようやく空を飛ぶことにした。


 ***


 オヌルラ三人衆を退け、ようやく村から出れそうなベバム、フナ、シソの三人。元の計画では、ベバムとシソが警備の村人を引き付けて、その後にフナと合流する予定だったが、(不注意で)失敗。そのせいで、フナが警備の村人に見つかってしまい、オヌルラ三人衆とかいう訳の分からない連中を呼び寄せる事になってしまった。おまけに、シソのキャラ付けも酷くなる一方で、散々な目にあった。


「ちょっと!僕のキャラ付けは関係ないですよね!?」


 シソが野暮なツッコミを入れてくるが、無視する事にした。

 これ以上新たなキャラを作りだして、黒歴史を生ませるのはかわいそうだし。


「別に黒歴史じゃ無いですって!もう!」


 ともかく、まずはオヌルラの村、というよりこの森から出るのが第一だ。もたもたしていては、村人たちに追い付かれてしまう。折角試練に打ち勝ち、”なんでもボックス”から煙幕を取り出し、追手を妨害してくれた、シソの懸命な努力が無駄になってしまう。

 だから、ベバムがフナとシソの三人を乗せて、飛行すれば良い話なのだが。


「本当に大丈夫なんですか?ベバムさん」


「何をそんなに心配する?ハイスピードモードの力は身をもって経験したはずだろう?」


確かに、ベバムの言うハイスピードモードの力は素直に凄いと思ったけれど……シソとフナを乗せて、空を飛ぶ事なんて出来るんだろうか。


「でも、僕とフナさんも乗るんですよ?いくらハイスピードモードのベバムさんでも……」


「安心しろ。以前、道で迷子になっていた子供を近くの町まで空を飛んで、送り届けた事があった」


 ベバムがフナと子供を乗せて飛んだのだ。すると、フナが思い出したようで……


「あ、私思い出したよ!複雑な家庭に生まれて、母親や父親から酷い仕打ちを受けて、嫌になって、家出して、町から離れた森へ来たのはいいものの、道が全然分からなくて、迷子になって、わんわん泣いてたあの子を助けた時だね!その子と一緒にビューンッ!って飛んで、町まで連れて行ってあげたんだよね!」


 フナがスラスラととんでもない事を喋る。中々に複雑な事情を抱えた子供を助けたようだ。


「色んな意味で凄い子供を助けましたね……」


果たして本当の意味で助けた事になるのかは疑問だけど。


 すると、今度がベバムが思い出したようで……


「ああ、俺も思い出したよ。折角送り届けたのに、あの子供も両親もどこか不満そうな顔してたヤツだな。何だったんだろうな、アレ」


うん、実際に子供にとっても両親にとっても不満だったのだろう。


 


「三人とも喜ぶと思ったのになぁ。家出した子供は両親の大切さに気づいて涙を流し、両親は子供の大切さに気づく。感動の再会、家族の再出発、幸せの始まり!みたいな!」


「そんなご都合主義お涙頂戴みたいな展開になる訳ないじゃ無いですか……」


 そんな複雑な家庭に育った子と、家出させるぐらい子供を追い込んだ親が一緒に暮らして、幸せになれるはずもないのに。

 複雑な家庭……か。

 シソの家庭。両親は比較的普通だったし、普通の家庭に生まれたといえるだろう。それが、どうしてこんな事になってしまったのだろうか?うーん。分からない。


そんな雑談(長い)を終えて、ようやく飛ぶ準備をする事に。


「じゃあ、ハイスピードモードを起動するから、フナ、シソ、準備してくれ」


「了解!」


 フナが元気に返事をする。


「ハイスピードモードを起動って中々かっこいい言葉ですね」


「かっこいい言葉じゃ無い。ハイスピードモードはかっこいいんだよ」


ベバムがかっこいいセリフを話したその時だった。


「っ!?」


 遠くの方で、人の話す声、足音がはっきりと聞こえた。


「ベバムさん……!」


「ベバム……!」


 フナとシソが不安そうな目でベバムを見つめる。

 これだけ雑談していれば、追いつかれるのは仕方ないか。


「シソが俺の上に乗って、フナはシソの上に乗るんだ」


「えっ!僕が……?」


「男だろ、頑張れ。それに、フナは信じられないぐらい軽いから安心しろ」


 シソの不満を一瞬で振り払い、ベバムはハイスピードモードの準備をする。


「ごめんね、シソくん」


「い、いえ!全然大丈夫です」


ベバムがしゃがんで、シソを乗せる体勢を作る。シソがベバムの背中に乗り、ベバムの腹部をしっかりと持つ。この更に上にフナが乗る。

フナの重さに耐える為、シソが身構えていると……


「あれ、全然重たくない……」


 小柄なフナとはいえ、シソの方が年下なのだ。自分より年下の村の子供を背負って歩いた時も、今以上のどっしりとした重さを感じたのを覚えている。なのに、今は全然重さを感じない。意識しなければ、何かを持っているという感覚さえ、感じない程だった。何なんだ、この大きな違和感は。

 フナがシソを抱きしめるように、シソの胸元に手を当てて、体をしっかり持つ。


「ん?シソ君、どうかしたの??」


「い、いえ!何でも無いです!」


 不意にフナが聞いてきたので、シソは思わず動揺してしまった。

 思えば、フナもベバムも”空飛ぶ芸人”を自称していたのだ。二人がどのように出会い、どれぐらい芸人を続けているのかは分からないが、その間ベバムはフナを乗せて、空を飛び続けていたのだ。”空飛ぶ芸人”と、”フナの違和感”の正体、この二つはうまく結びつきそうな気がしたが、考えが全て頭から吹っ飛んでしまった。仕方ない。



「ベバムいきます!」


 ベバムが大きな声で例のセリフを叫ぶ。


「結構、使うんですか……それ……」


 ドンという強い衝撃と、体が宙に浮かぶフワリとした感覚を受けて、再びシソは空を飛んだ。

 強い衝撃に耐えつつ、下を見ると、唖然とした表情で、上を見上げる村人たちの姿が見えた。驚きの正体は、シソが芸人たちと一緒に逃げようとしている事か、空を飛んでいる事か、その両方だろうか。フナが上にいるおかげか、さっきよりは衝撃も軽減されており、苦しさは無かった。グングンとスピードを上げて、森の上を抜けていく。


“さよなら、オヌルラの村。僕の故郷。”


 ***


 心地良い風を浴びながら、シソは考えていた。





 ベバムとフナ。

 偶然村にやってきた二人の空飛ぶ芸人。まだ、二人については分からない事も多いけど、この二人には何か大きな秘密がある、そんな気がした。


 それも、いずれ分かる事だろう。


“「なあ、お前やっぱり村に残った方がいいと思うぞ」”


 ベバムの言葉がシソの頭の中で浮かび上がってきた。

 自分の生き方は、自分で決める。

 そう決意した。









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