11. ナイフ使い!
という訳で、次なる敵は何と味方だと思っていた、シソだった。
いやいや、こんな展開あり得るか?
シソが何と言ったか、もう一度振り返ってみよう。
何何?オヌルラ三人衆の一人はあの棘鉄球使いのバアさん、二人目はスマートジイさん、で、三人目は何だって?ナイフ使いシソロス?いやいやいや。あり得ない。一旦落ち着こう。とりあえず、落ち着いて、本人に聞いてみよう。うん、それが一番だ。
「なあ、ナイフ使いシソロス」
「な、何ですか!ベバムさん……じゃ無くて反逆者!」
反逆者と言われてしまった。こりゃ重症だな。もうどうしようも出来ない。
「いやいや、これ以上無謀なキャラ付けしなくていいから。え?まだ足りないのか?それはさすがに……」
「キャラ付けではありません!」
シソが過剰キャラ付け疑惑をきっぱりと否定する。
「そもそもだな、俺とフナが反逆者になる原因になったのは、シソ、お前のせいなんだぞ」
「うっ……」
シソは嫌なところを突かれたような表情をする。これに関しては言い逃れできない、真実だ。
「お前が来なければ、俺たちは平和に村から出れたんだ。何がオヌルラ三人衆だ。何がナイフ使いシソロスだ。お前だって、村長に逆らう反逆者じゃないか!」
ベバムは強い口調でシソに詰め寄る。
「ううう、それは……!」
「俺はお前が何をやりたいのかさっぱり分からない。俺もフナも、シソの真摯な想いを受け止めたから、お前に協力する事にしたんだ。ジイさんに追われるフナの姿を見ただろ?」
「……」
「頼む、ナイフをしまってくれ。一緒にフナを助けに行こう」
「……分かりました」
「……」
シソは素直にベバムの要求を受け入れ、持っていたナイフをしまってくれた。ベバムは、ハイスピードモードでは無く、ノーマルスピードモードでフナを探しながら、ゆっくり進んだ。
「結局、何がしたかったんだ?」
「さっき、ジイさんとの会話を回想しましたよね?ちょっと懐かしくなってしまって……」
オヌルラの村に対して悪い記憶しかないと思っていたシソだったが、ほん僅かだが、良い思い出もあったのかもしれない。
「懐かしいって……お前は懐かしむ程の年齢じゃ無いだろ」
「もう!そういう問題じゃ無いです!ベバムさんは全然分かってない!」
全然分かってないと言われても、ベバムは全然分からない。
「分かってないと言われてもな。俺はナイフ使いシソロスの方が分からないぞ。お前はいつも他人に”僕はオヌルラ三人衆の一人、ナイフ使いシソロスだ!”って名乗っているのか?」
自分では何とも思っていなくても、他人から言われると恥ずかしく感じてしまうのは何故だろうか?
「ナイフ使いシソロスは、ナイフ使いニイさんが付けてくれた名前です!」
ナイフ使いシソロスの次は、ナイフ使いニイさんか。また厄介そうな名前が出てきた。
「ナイフ使いニイさん?」
「はい!ナイフ使いニイさんは、オヌルラ三人衆の三人目です。持ち前のナイフを巧みに扱い、相手を切り裂いていきます」
「また物騒な野郎だな。何だよ相手を切り裂くって。どうなってるんだオヌルラの村は。まともな人間はいないのか?」
「僕は村の中では、まだまともな人間ですよ」
まともな人間が、”ナイフ使いシソロス”なんて名乗って、首元へ刃を当ててくるとは思えないがな。ベバムはそう思った。
「ナイフ使いニイさんは不幸な事故によって、亡くなってしまいました。僕はニイさんからナイフの使い方を教わっていましたから、僕がニイさんの意志を継いで、ナイフ使いシソロスになったんです!」
「なるほど、つまりお前もオヌルラ三人衆の一人として、持ち前のナイフを巧みに扱い、相手を切り裂いていくのか。怖っ」
「いやいや!僕はそんな事しませんよ!!あくまでナイフの使い方を教えて貰っただけで……そもそも村のやり方には反対する立場ですし」
村のやり方に反対して、村の事を嫌っている割には、フナを殺そうとしているジイさんには同情しちゃう……か。
「なあ、お前やっぱり村に残った方がいいと思うぞ」
「……え?」
その時だった。
「ベバムーー!シソくーん!!」
下の方から、二人の名を呼ぶ声が聞こえた。
「ベバムさん、下です!」
声のした方へ目を向けると、無邪気に手を振りながら、「おーい!ここだよー!」と呼びかけるフナの姿が見えた。
とりあえず怪我も無さそうで、安心したのだが、それよりも気になったのが、フナの横で倒れている男の姿だった。ベバムとシソはそのままフナのいる場所に着地する。
「フナ!大丈夫か??」
ベバムの問いかけにフナが応じる。
「うん!私は大丈夫なんだけど……このおじいちゃんが……」
「ん?あれ!?この人、ジイさんじゃ無いですか!?」
シソが直ぐに、ジイさんのもとへ駆け寄る。ジイさんは気を失っているようだが、息はある。額に傷があるが、木にぶつかってしまったのだろうか。
「フナさん、ジイさんを倒しちゃったんですか!?」
「うーん。倒しちゃったというより、勝手に倒れたという方が正しいのかも」
フナも困惑気味のようだ。フナを仕留めようとしたところ、木に思いっきりぶつかってしまったようだ。スマートジイさんの名は一体どこに行ってしまったんだ。全く。
「ごめんシソ君。もしかして、シソ君の大切な人だったかな……?」
「フナさんが謝る必要は全くありませんよ。悪いのはジイさんの方ですから。フナさんが無事でよかったです」
シソはそう言うが、横からベバムが
「無事で良かった……か。悪いのはジイさんなのに、俺は殺されそうになったんだが」
ベバムが皮肉気味に言うと、シソは素直に謝った。
「す、すいませんでした。もっと冷静になります。反省します」
ジイさんに関しては、煙幕がそろそろ切れる為、他の村人が駆けつけてくれるだろう。
これでオヌルラ三人衆は全員倒したわけだし、ようやく村から出ることが出来そうだ。ベバムはハイスピードモードを使って、この場から逃げ出そうと考えた。
「ベバムさん。ハイスピードモードを使ったとして、僕とフナさんを乗せて飛ぶ事なんて出来るんですか?」
ベバムはシソの質問には答えずに、
「何だ、結構行くのか、シソ。行かないと思って安心してたのに」
と冷たい回答。
「勿論行きますよ!その為にここまで来たんですから!」
「大好きなジイさんともう会えないかもしれないぞ」
「全然大丈夫です!」
シソははっきりとそう答えた。
「そうか……ならどうするか……」
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