10. ひかり!
またまた上空のベバムとシソへ。
「何とか妨害出来たようだな。助かった。ありがとう、シソ」
「え……あっはい……!」
いきなりベバムが礼なんて言うもんだから、シソは驚いてしまう。
「どうしたんだ?そんなオドオドして……何か後ろめたいことでもあるのか?」
「いえ、ベバムさんが急に”ありがとう”なんて言うから……驚いてしまったんです」
「なぜ俺が”ありがとう”と言っただけで、驚くんだ?」
「ベバムさんって”フン……くだらない”みたいな感じのキャラで、常に人を見下して、人に”ありがとう”なんて絶対に言わないキャラだと思ってました」
「前にも言ったが、俺はそこまで捻くれてないぞ。話を聞く限りだと、お前の方が捻くれてる気がするがな」
嫌いな相手にははっきり言うだけで、人を見下したりだとか、そんな事はしていないつもりだ。
「そうですかねぇ。そうだ、ベバムさん。”フン……くだらない”って言ってみて下さいよ」
「フン、くだらない……」
ベバムは見事に冷笑系キャラクターを体現していた。凄い、ピッタリだ!
「めっちゃ似合ってますね!ぴったりですよ、ベバムさん!」
シソは褒めるが、ベバムは不満そうだ。
「全然嬉しくないな。全く……くだらない」
「おお、早速使いこなしてる!流石です、ベバムさん!」
冷笑系空飛ぶ芸人として、ベバムにはこれからも頑張って貰おう。
「……とにかく、これで足止めは出来たわけだ。後は、その……何だっけ?」
「オヌルラ三人衆が一人、スマートジイさんです!」
えっへんといった感じで、シソが誇らしげに話す。
「そう。その商品名みたいなジイさんを止めるだけだな。シソ、何か手はあるか?」
「そうですね……スマートジイさんとまともにやり合っても、勝てる見込みなんてありませんから、交渉するのが一番かと」
「交渉?そんなものでいいのか?」
すると、シソは呆れた表情で返答する。
「ベバムさん!暴力しか解決方法がないわけじゃないんです!時には、相手としっかり対話、交渉して、平和的に解決する事も大切なんです!」
シソが力説する。
「平和的……ねぇ。棘鉄球を振り回すバアさんを見た後だと、説得力が無いな」
「バアさんに関してはどうしようもありません!狙われたら”死”を受け入れるしかありません!」
受け入れるしか無いのかよ、とベバムは思った。
「ですが、ジイさんなら大丈夫です!バアさんと比較すれば、まだマシな人なので、交渉に応じてくれるはずです!多分!」
「バアさんだとかジイさんだとかよく分からんが、どう交渉すればいいんだ?」
「ジイさんは明るいモノが好きです。暗くて悲しい日常を明るく照らしてくれるような、”ヒカリ”を欲しがっています」
暗くて悲しい日常を明るく照らしてくれる”ヒカリ”。意味がわからない。
「日常を明るく照らす”ヒカリ”?何だそれは」
「僕もよく分かりません。ジイさんがこの前言ってたんです。ヒカリが欲しいって……」
***
ほわほわほわほわーん。
シソの家族は、ジイさんバアさん夫婦と一緒にご飯を食べたりする程親交が深かった。ジイさんの家の本棚にはシソの家には無い、面白い本が沢山あった。シソはよく、ジイさんの家の中で本を読まして貰っていた。ジイさんは本当の孫のように、シソを可愛がってくれた。お菓子を作ってあげたり、バアさんが棘鉄球で狩ってきた獲物を料理してくれたりした。
シソがジイさんの書庫の日当たりが良い窓際の席で、椅子に腰掛け、本を読んでいた時だった。
「シソや」
ジイさんがシソに話しかけてきたのだ。
「ん?何ですか、ジイさん」
ジイさんが読書中のシソに声をかけてくる時は、大抵飲み物や、おやつを持ってきてくれる。しかし、どうやら今日は違うようだ。何やら神妙な顔をしている。何かあったのだろうか、シソは少し心配してしまう。
「ワシはな、ヒカリが欲しいんじゃ」
また訳の分からない事を言い出した……もう年だから仕方がない部分もあるかもしれないが、唐突に訳の分からないことを言うのはやめてほしい。
「ヒカリ?まさか希望の光、平和の光なんて言わないでしょうね?いつもバアさんと楽しそうに盗賊を拷問してるくせに」
シソが嫌味たらしくジイさんに言う。
「フォッフォッフォッ。違うわい。ワシは平和なんて求めとらんよ。殺しも拷問も争いも大好きじゃからの、フォッフォッフォッ!」
「それはそれで、どうかとは思いますけどね」
「ワシの欲しい”ヒカリ”はな。美しい”ヒカリ”なんじゃ。暗くて悲しい日常を明るく照らしてくれるような、”ヒカリ”が欲しいんじゃ」
ますます悪化している。困ったな。こういう時、どう対応すればいいんだ。
「何を急に言い出すんですか。ジイさん。もう良い年なんですから、心配させないで下さい」
「ヒャッヒャッヒャッ。シソに心配されるとはのぉ。ヒャッヒャッヒャッ。嬉しいのぉ……」
「ジイさん、一体どうしたんですか?様子がおかしいですよ」
「ワシが欲しいのはな……やっぱ言わない」
「言わなくていいです。聞きたくありませんから」
回想終わり。
***
再びベバムとシソへ。
「おい、なんだ今の回想は。シソとジイさんのよく分からないやりとりを見せられただけじゃ無いか」
「だから言ったじゃ無いですか!僕もよく分からないって!」
「お前が分からない事を、俺が理解出来るはずが無いだろ?お手上げだな。これ以上待っていたら、らちがあかない。どんな手を使ってでも、ジイさんを止めるぞ」
ベバムは、再び”ハイスピードモード”に移行しようとしている。
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
シソは慌てて、ベバムを止める。
「今度は何だ?」
「……ジイさんは良い人何です。あんな村の中でも、僕に優しくしてくれた人なんです!だから……!」
「だから何だ?お前が言う”良い人”のジイさんは、フナを殺そうとしているんだぞ?どんな手を使ってでも、止めないといけない。それを邪魔するというのなら……ここでお別れだ、シソ」
「……っ!?」
ここで、ベバムの雰囲気が一気に変わったのを感じた。フナを助けようとするベバム、それを妨害するシソ。
ベバムの怒りは当然シソに向けられる。当たり前の事だった。
「ベバムさん」
「……何だ?」
「さっき、オヌルラ三人衆の話をしましたよね?一人目は、棘鉄球使いのバアさん、もう一人はスマートジイさん。三人目の話をまだしてませんでしたね」
「……」
「ふふふっ。実はですね、オヌルラ三人衆の三人目は僕なんですよ!!!」
シソはそう言い放った。
「……は?」
「いや、何ですか、その微妙な反応は」
「いやいや、展開が急すぎて理解出来なかった。え、つまりシソはオヌルラ三人衆の一人って事か?」
「その通りです!その名も、ナイフ使いシソロス!」
シソは懐から小型のナイフを取り出し、刃との先をベバムの首元に当てる。
「まさかこんなありがちな展開になるとは。どうりで、気色悪い奴だと思った。仲間になんてするんじゃ無かった」
「いや、それは単なる悪口ですよね?じゃなくて!ベバムさんがジイさんを倒すというなら、ナイフ使いシソロスがベバムさんを止めます!」
いやいやいや!俺たちはそもそもシソを助ける為に動いてるんだ。なのに、どうして俺がシソに命を狙われないといけないんだ?
くそ、また厄介な事に……!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます