9. しょうぶっ!

「ベバムぅぅ!!シソくぅぅぅん!助けてぇぇ!!」


「フナ!待ってろ!」


 必死に助けを求めるフナ。ベバムがフナの元へと急ぐ。

 ああ、なんて素晴らしい友情、信頼関係なんだ。フナのベバムを信頼する想い、ベバムのフナを救いたい気持ち。本当に二人は信頼し合っているのだと感じた。

 そんな事をシソが考えていると


「このガキャァァァ!!」

ものすごい形相をしたおばちゃんが、痛くて重そうな棘鉄球を鎖でブンブンと振り回していた。その度に、周りの木々が粉々に破壊されていく。


「うひゃあ!?そんな物騒な武器を使うなんて卑怯だよ!!」


「反逆者に卑怯なんて言われる筋合いは無いんじゃぁぁぁぁ!!ウギャァァァァァァァァァ!!??」


「ひゃああああ!?」


 逃げるフナと、村人たちの群れを追い抜き、奇声を上げ、棘鉄球を振り回しながら、フナを追うおばちゃんがいた。


「おい、シソ。なんだアレは」


 ベバムは唖然とした様子でシソに尋ねる。


「棘鉄球使いのオバさんですね。棘鉄球を使った狩りが本業です。凄いですよ、オバさんの棘鉄球使いは」


「狩りが本業で、副業が人殺しか。恐ろしい婆さんだな」


「別に副業ってわけでも無いんですけどね。彼女がオヌルラ三人衆の一人、棘鉄球使いのオバさんです」


「オヌルラ三人衆?」


聞いた事の無いワードにベバムが反応する。


「オヌルラ三人衆は、オヌルラの村の中でも、特に強い三人の戦士の事を言います」


「つまり、あの化け物婆さんに匹敵する人間が、あと二人いるって事か……どうなってるんだこの村は……」


「あっ!ベバムさん!あそこに!」


シソが何かに反応し、指を指す。


「今度は何だ……」


 ***


「ひゃあ……ひゃあ……やっぱり年には敵わんのう。ちと疲れたわい」


 棘鉄球を振り回していたオバさんだが、やはり疲れが溜まっているようで、その場に座り込んでしまう。ドスンという強烈な音と共に、棘鉄球が地面に着地する。


「何じゃ、情けないのう、オバは……」


 オバさんの横に一人の男が現れる。男というより、オバさんと同じくかなりの高齢の男だ。


「ひゃははっ……ひゃぁ……久しぶりに骨のある娘じゃった。ひゃあ……殺すには惜しい娘じゃわい……ひゃあ……」


「息が上がっとるじゃ無いか。いい年して、あんな奇声を上げてのぉ……まあいいわい。ゆっくり休んどけ。ワシがマートに始末してやるからの。ふぉっ。ふぉっ。ふおっ」


「ジイさん!我々はどうすれば!?」


 ようやく追いついた村人たちが、オバさんの周りへ集まってきた。


「後はワシに任せい。お前らは、バアさんを診療所へ連れて行くんじゃ。残りは、黙ってみておけい。スマートなワシの仕事を見せてやるわい。ふぉっ。ふおっ。ふおっ」


 ***


 再び上空にいるベバムとシソへ。


「な、何だ。あのジイさん……!早すぎる!」


 バアさんを退け、結構な距離を取っていたフナであったが、そんな彼女を謎の爺さんが信じられないスピードで、追いかけていく。


「彼はオヌルラ三人衆の一人、スマートジイさんです。スマートに仕事をするスマートジイさんです」


「スマートジイさんって、商品名みたいな名前だな」


「スマートジイさんは、無駄な動きを一切削ぎ落とし、スマートに相手を仕留めます」


よく分からないが、とんでも無く早く殺す爺さんとベバムは認識した。


「くそっ。早く助けないと……とりあえず他の村人の足止めだ!シソ、俺の鞄から”なんでもボックス”を取り出すんだ!」


「なんでもボックスって、フナさんがショーの時に使っていた箱ですか?」


「そうだ。鞄の中には、なんでもボックスしか入っていない。俺は両手が塞がって使えない。なんでもボックスから、相手の視界を妨げれそうなモノを取り出してくれ」


 シソは言われたようにベバムの鞄を確認する。鞄一杯に詰められていたのは、丁度鞄にギリ収まる程度の大きさの箱だった。

 シソは箱を取り出してみるのだが、思いの外、重たかった。


「お、重い!?ベバムさん!これ何が入ってるんですか??」


「俺たちに必要なモノ全てだ。いいから、相手の視界を妨げれそうなモノを取り出すんだ!欲しいなぁって願いながら取り出すと、多分出てくるから」


「そんなファンタスティックな箱だったんですか!?これ!?」


「いいから、開けるんだ!早く!」


「わ、分かりました!」


 ベバムの言う通り、相手の視界を妨げれるモノが出てきてくれたら嬉しいなぁ、なんて思いながら恐る恐る箱を開けてみる。すると、箱の中から眩い光が放たれる。


「うう!?眩しい!?何ですか、この光は!?」


 箱から放たれている眩い光のせいで、箱を直視する事が出来ない。


「開けれたか?」


「な、何か光が出て……!眩しくて見れません!!」


「大丈夫だ。これは試練なんだ!」


「試練?」


ベバムがこれは試験だと言い出した。


「大体の位置でいい。手を伸ばして、ゆっくり取り出すんだ……」


「……分かりました。やってみます!」


 眩い光に耐えつつ、手を伸ばして、箱から取り出そうとする。

 すると、指先に何かが触れた感触が現れた。


「こ、これは……?えいっ!」


 シソはそのままの勢いで、箱から何かを取り出す。出てきたのは、右手だけで持てるモノ。球?のような形をしているモノだった。

 シソはそのまま箱を閉じる。同時に、箱から放たれていた光が無くなり、シソの視界が戻った。


「はぁ……はぁ……何なんですか、今のは」


ハイスピードモードの時のような疲労がシソを襲う。


「初見さん専用の”試練”みたいなモノだな」


「そういうのは最初に……はぁ……」


最初に言って欲しかった。もう少し対策が出来たはずだった。


「それで、何が取れたんだ?」


 シソがなんでもボックスから取り出したのは、掌サイズのボールのようなモノだった。試しにコツコツと軽く叩いてみたが、かなり硬い。一体何なんだろうか。


「とりあえず、投げてみろ」


「ええ!?ええ、でも何かあったら……」


「あのバアさんは、棘鉄球をぶん回してたんだぞ。正当防衛だ」


「わ、わかりました」


 シソは森の方を再び見る。

 フナを追うジイさんの後方に、松明やらを持った村人たちがいた。待機を命じられているのか、今のところ動きを見せる気配は無いが……


「よ、よし……えいっ!」


 シソは村人たちのいる場所へ、ボールを投げ込む。

 すると、ボールが着弾した事を知らせるボンッという軽い破裂音が鳴り響く。と、同時に白色の煙がモクモクと上がり、村人たちのいた場所へ蔓延して行く。


「うわぁ!なんだ、これは!?」

「前が見えねぇぞ!やべぇよ!?」


村人たちの悲鳴が下から聞こえてくる。


「これは……煙幕ですかね?」


「そうだな。俺たちも場を盛り上げる為によく使っているが……なるほど、これで目を眩ませようと考えたのか……」


「考えたって、”なんでもボックス” が煙幕を使うべきだと判断したって事ですか?」


「正確には少し違うが……まあその通りだ。詳しく知りたいならまた後で話す。今はフナを助けないとな」


 このなんでもボックスについては、説明する事が出来ない。謎が多すぎる。どうなってるんだ……。


「未知なる体験……か」


 ***


「はぁ……はぁ……どうやら追いかけて来ていないみたいだけど……」


 フナは上空を見上げる。さっき見たのは確かに、ベバムとシソの姿だった。バアさんに追われていたせいで、はっきりと確認する事は出来なかったが、ベバムが「フナ!待ってろ!」と叫んだのは聞こえた。ただ、待つといっても、後方には恐ろしい面をした村人たちがいるしなぁ……。


「どうしよ……ここで待った方が……」


《待つ必要は無い》


「……っ?!ひゃあ!!??」


どこからともなく声が聞こえてきた。


《お前は既に……ぶごおっ!?》


 突然変な声が聞こえたかと思ったら、

 目の前におじいちゃんが倒れていました。


「……あの……大丈夫ですか??」


「ふぉほぉっ……ワシともあろう者が木にぶつかるとはな……ふぉほぉっ。お前さんは運がいいわい」


 運が良い人間が、棘鉄球を振りまわすおばあちゃんに追いかけられるはずが無いのだが。


「スマートに始末する筈が……ふぉふぉ。情けない。悔しいが、お前さんの勝ちじゃ。ワシは……ここで……ぐはっ……」


「…………」


 どうやら、私の勝ちのようだ。



 ***


 オヌルラ三人衆のオバとジイを倒したフナ!そして、遂に、オヌルラ三人衆最後の一人が立ちはだかる……!

 その正体とは……!?




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