8. はいすぴーど!

「はぁ……はぁ……!」


「おい、待つんだ!待て!」


「待てと言われて待つ人がいますか!?待ちません!」


 私は全力で走りながら、森の出口を目指す。木々に囲まれた森だが、走れない程覆われている訳では無い。ぶつからないように、慎重に、だけど追いつかれない速さで逃げれば大丈夫なはず……!


「ぶほっ!?」


 と、思ったのも束の間、勢い余ってそのまま木に顔をぶつけてしまう。


「いてて……」


 幸いちょっと擦りむいた程度で、たいした怪我にはならなかったが、やっぱり痛い。


「全く……森に慣れている俺たちから逃げれる訳無いだろ。大人しくしていれば、怪我もしなかっただろうに」


 追ってきた男たちが私に近づいてくる。

 私は男たちと距離を取りつつ、いつでも逃げられるような体勢を維持する。


「大人しく捕まったら私に危害は加えなかったんですか?」


「いや、悪いがそうはいかない。掟を破った者には、外部の人間であろうと、相応の罰を受けてもらわないといけない」


「ほら!やっぱり怪我じゃ済まない!嘘つき!」


「嘘つきと言われてもな。掟を破ったのは君だし、何故こんな事をしたのか、問いただす必要がある」


 この言い方、まさか拷問でもするつもりなんだろうか?村長宅の地下には拷問部屋があって、ルールを破った者を拷問している……なーんて、まさか……ね。

 そんな訳ないよね。いくらなんでも、そんな事する訳ない……よね?


「村長宅の地下にある拷問部屋で、たっぷりと罰を受けるがいい。村には拷問のスペシャリストが沢山いるからな。安心しろ」


「安心出来るわけないよ!私には待っている人がいる!行くべき場所がある!絶対にこんな所で負ける訳にはいかないんです!」


「おお……かっこいいセリフだな。物語の主人公みたいなセリフだ」


  ふふん。私の圧倒的迫力に怖気付いたようだ。


「というわけで……私は逃げる!さらばっ!」


 びゅーーんと私は全力逃亡。

 木々をかき分け、ぐんぐん進む。


「あっ待て!」


 一人の男が呼び止めるが、もう一人の男が制止する。


「無駄だ。この森を抜ける事は出来ん」


「まあ、確かにそうなんですが……」


 男は右手で、頭をポリポリと掻くと、小さくため息をつく。


「全く……また厄介な事に」


 すると、男たちの元へ一人の女性が走ってくる。酷く息を乱しており、慌てている様子だ。


「はぁ……はぁ……大変です!」


「どうしたんだ?」


「はぁ……はぁ……シソロスがいません!」


「な、何だと……!?まさか……!」


 男は嫌な予感がした。男自身がショーを直接見た訳では無いのだが、確か村長が招いた芸人は、先程の少女と、もう一人いたと記憶していた。

 シソロスは反乱分子として、警戒人物に指定されていた。シソロスが二人の芸人に干渉し、村からの脱出を企んでいるとすれば……


「まずい!オヌルラ緊急宣言を発動させるんだ!村中の住民を掻き集めて、シソロスと芸人を探させるんだ!」


「りょ、了解です!」



オヌルラ緊急宣言、発動っ!


 ***


「はぁ……はぁ……」


 私は走りながら、追っての様子を確認しようとする。


「ぶぼっほおっ!??」


 また顔をぶつけてしまった。頬がヒリヒリする。痛い。


「くぅぅ……痛い。でも負けない!」


 気を取り直して、再び森の外を目指して、進む。


「はぁ……はぁ……」


 幸い、森全体が月の明かりに照らされているので、視界が悪くて困る事は無かった。 森を走るのにも慣れてきた。このままのスピードならば、森を抜ける事が出来るはず……


 その時だった。突如、けたたましい金属音のような音が鳴り響いた。耳をつんざくような激しい音に、私は耳を塞ぎ、蹲ってしまう。


「な、何が……!?」


 その後、聞こえてきたのは、鐘のようなものを叩く音だった。カーン、カーンと美しい神秘的な音が鳴り響いている。まるで、危機を知らせるような、そんな……


「はっ、これってまさか村中に危機を知らせるやつ!?」


 だとしたらマズイ!早い事抜けないと!私はスピードを早めて、先へ……


「ぶぼっ!?うぅ……」


またまたぶつけてしまう。ああ、学習しない……


 ***


「ん?なんだ今の音は」


 同時刻、フナを助ける為、森へと戻るベバムたちも、オヌルラ緊急宣言発動の音を聞いていた。


「ま、マズイです!今のはオヌルラ緊急宣言が発動された音です!」


「オヌルラ緊急宣言?何だそれは」


「オヌルラの村の住民には、いくつかの義務があって、その内の一つに、有事の際に、兵士として戦う義務を負うというのがあるんです。オヌルラ緊急宣言が発動された段階で、全ての村人が兵士として、命をかけて脅威と戦わないといけないのです」


「その脅威ってのが、俺たちって事か」


「その通りです!事実上村全体が一つの軍みたいになるんです。最高指揮権は勿論村長にあります。村長の命に背いた者は、当然処罰の対象になります」


「ここまで徹底した体制を作り上げるのは、ある意味尊敬に値するな。村長が何を目指しているのかは、この際触れないが……」


「あの森はそこまで難しい構造では無いんです。抜ける事は十分可能で、僕も監視が少ない場所を狙ったつもりなんですが……オヌルラ緊急宣言が発動されたということは、フナさんが監視に見つかった、もしくは僕の失踪がバレた……この二つが考えれます」


「どちらにせよ、フナが危ないという事は変わらないだろ?」


「そうです」

 

「なら、急がないとな。これより、ハイスピードモードに移行する!」


 突如ベバムが訳の分からない事を言い出す。


「へ?今なんて??ハイスピードモード??」


「シソ、しっかり捕まっていろ!ハイスピードモードは、エネルギーを大量に消費するし、金もかかる!だが、緊急事態だ!止むを得まい!いくぞ!」


「ちょ、ちょっとま……」


シソの理解が追いつかないまま……


「ハイスピードモード!!!」


 ベバムがそう言った瞬間、最初に飛んだ時よりも遥かに強いドンとした衝撃が、シソの体を襲う。


「うぐっ……!?うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!????」


 凄まじいスピードで、ベバムとシソは飛行していた。


「うぐっ!?うごぉぉ!?」


 あまりにも早すぎて、言葉を発する事も出来ない。てか、早い!早すぎるよ!?何これ!?


「くぅ……!」


 懸命にベバムにしがみつくも、少し力を緩めただけで、振り落とされてしまいそうだ。力を緩めたら確実に死ぬ。まだ死にたく無い!だから耐えた!


「ふんぬぅぅぅぅぅ!!!はっ!?」


 すると、徐々にスピードが弱まっていき、ようやくまともに息が出来る様になった。


「ふ、ふわぁぁぁぁ……!はぁ……!はぁ……」


 す、すごい……疲れた。体の体力を一気に持っていかれたみたいだったら、力が上手く入らない。


「お疲れのようだな」


スピードが落ちたところで、ベバムが声をかけてくる。


「はぁ……はぁ……」


「どうだ?奥の手である、ハイスピードモード、感動したか?」


「はぁ……はぁ……いろんな意味で感動しましたよ」


「さて、フナはどこに……」


 プカプカと空中に浮きながら、フナを探す。

 この場所は森の丁度真ん中あたりのようで、前方には、村の家屋が見えている。


「あっ!ベバムさん!あそこ!」


「ん?」


 ベバムは、シソが指差す方向を確認する。


「な、なんだあれは……」


 そこには、全力で走っている(逃げている) フナと、松明やら(危ない)槍やら剣やらを持ち、鬼のような形相でフナを追いかける村人たちの姿があった。


「ベバムぅぅ!!シソくぅぅぅん!助けてぇぇ!!」




















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