7. にげるよ!

「す、凄い……!」


 初めての体験にシソは興奮していた。空を飛ぶなんて空想上に過ぎないと思っていたのに、実際に空を飛んでいるんだ。冷たくて心地良い風を浴びるこの爽快感。何て気持ち良いんだろう!

 と、シソが無邪気に感動していると……


「そういえば、フナから聞いたが、お前もの凄いヤジを飛ばしたらしいな」


「え……も、ものす、すごい……ヤジ……で、ですか……?」


「露骨に動揺するなお前」


 分かりやすいリアクションをするシソ。


 ほわほわほわほわーん!


『えぇ。何ですか、今の。ちょっとよく見せて下さいよ!絶対何か仕掛けがあるはずです。みんな!騙されちゃだめっすよ!これはインチキなんです!』


「ちょっ、ベバムさん!?」


『へぇ、鳩出せるんですね。ふ、ふぅん。ですが、小細工しようと思えば、いくらでも小細工出来るはずです。結局は小細工しないとこんな事出来るはずが無いんです!こんな下らないショー見てるだけ無駄ですよ!僕は帰ります!』


「何でベバムさんがフナさんの記憶を回想してるんですか!?」


 シソが何やら言っているが、思ったよりも酷いヤジだったので、ベバムはドン引きしていた。


「うわぁ……これは酷いな。最低だなお前」


「これは違うんです!違うんですって!」


 シソが必死に弁解しようとするが、声色の変わりようを見るに、相当焦っているのがわかる。これでは、余計に怪しまれてしまうだけだ。


「何が違うんだ」


「その、あれはちょっと魔が刺したというか、感情が昂っていたというか、キャラが定まっていなかったというか」


「おい、最後本音出てるぞ」


 シソはふと下を確認してみる。自分が今どれぐらいの場所を飛んでいるのか、知りたかったからだ。


「うわぁ!知らない内に結構高い場所まで飛んでたんですね!?僕高いところ苦手なんで、びっくりしましたよ」


「唐突に話を変えるな……まあ、いいが。その割には随分楽しそうに見えたがな」


「あれぐらいの高さなら……ってあれ?ベバムさん??」


 シソが驚いたような言い方で、ベバムに話しかけてくる。


「……?どうした?そんなアホみたいな顔芸して。全然面白く無いぞ」


「アホみたいな顔芸って何ですか!?僕は真剣に……!じゃ無くて!見て下さい!後ろ!」


「後ろを見ろと言われてもな……前向いてないと危ないし……」


「そういう問題じゃ無いです!ほらっ!!もう森出ちゃってますよ!?フナさんの脱出を助ける為に、を引きつけるんじゃ無いんですか!?」


 ベバムは下を確認する。


「なっ……!?いつの間に……?全く気づかなかった……」


 ようやくベバムが気づいてくれた。


「ベバムさん!フナさんが!」


「ああ、分かってる」


 ベバムは進行する向きを変え、村の方角へと戻る。スピードを少しだけ早めたので(とはいえ、体感スピードはそんなに変わってないけど)、シソもしっかりとベバムに掴まる。


「あの、もう少し早くスピード出せないんですか??何がどんどんスピードが落ちてる気がするんですけど」


「”気がする”だけだろ。気のせいだ。ふわぁぁあ……疲れた」


「今疲れたって言いましたよね!?休憩した方がいいんじゃ……」


 疲労によって、飛行速度が落ちているのだろうか。まあ、寝ているところを起こしてしまった原因は、シソなんだけど。


「シソが思ったより重かっただけだ。フナを乗せている時は平気だったんだが……」


「僕そんなに重いですかね??」


 シソとしては、村の子供たちと比較すれば、小柄だと思っているのだが。


「……正直言って重い……いや、シソが重いんじゃ無くて、フナが軽すぎただけだ。シソは悪くない。安心しろ」


「安心出来ませんよ!一回休憩した方が……」


「いや、大丈夫だ。早くフナを助けに行かないと」


「大丈夫じゃ無いですよ!休憩を……!」


 ***


「警告!警告!そこは特別警戒区域である!立ち去らねば、攻撃対象に指定する!」


「うひゃあ!?え!?何!?」


 急に呼び止められ、私は驚いてしまう。振り向くと、物騒な武器を持った三人の男がいた。暗くて、顔は良く見えないが、体つきや声から恐らく男だと判断した。


「む?お前は、村長が呼んだ芸人の女……!そこで何している?」


「いやあ、えっと!そのぉ……」


 こういう時、ベバムなら適当な言い訳をして、言いくるめる事が出来るだろうが、私はそこまで口が上手く無い。

 動揺していた事もあり、うまく喋れないし、何を話すかが頭に浮かんでこない。これでは私はやましい事がありますと言っているようなもので、疑われるのも当然だ。


「村から許可なく立ち去る事は禁止されている。お前は既に特定警戒区域に許可なく入っている。重大な違反だ。一緒に来て貰おうじゃ無いか」


 ぐいぐいと男が近づいてくる。


「うう……」


 ど、どうすれば……このまま全力で走って森を抜ければ……!逃げ切れるか?私の足で……!


「抵抗しなければ、危害は加えない。さあ、大人しく来るんだ」


「うう……大人しくしろと言われて……大人しくする人がいますか!?」


「な、何だと!?」


 私は決意を固めて、男に向かって叫んだ。


「来いと言われてへらへらついて行く人がいますか!?いいえ!いません!では、そういう事で!さらばっ!」


 ビューン!

 私は捨て台詞を吐き、全力で逃げた。


「あっ!待て!おい!お前ら、追うんだ!」


 森の外まで、逃げ切ってやる!









  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る