6. とぶよ!

「じゃあ、今から空飛びたいと思いまーす」


 ベバムはキャラに合わず随分と気軽に宣言する。


「そんなに軽い感じで飛べるんですか?」


「飛ぶのに軽いも重いも無い。飛ぼうと思った時に飛ぶだけだ」


 私達はテントを片付けて、村を出る準備を進める。

 必要なモノを鞄に詰め込み、いつでも出られる状態に。私達はテントがあった場所に集まる。


「さて、まあ……これから頑張って村を脱出する訳だが……とりあえず一言言わしてくれ」


「「どうぞ」」


「頑張ろう、俺たち」


 ベバムが一言ガッツポーズと共にそう言った。


「いや、何ですか今のは」


「恐怖と絶望と血に塗れた悪夢の村から逃げだそうとする男と少女と少年の三人。彼らに待ち受ける運命は如何にーーー頑張ろう、俺たち的な」


 ベバムがカッコいいセリフを話す。


「おおっ!かっこいい!!」


 どんな困難な運命にも立ち向かう勇敢な少年少女みたいでかっこいい!


「いやいや、何ですか、今のは」


 シソは納得してくれない。かっこいいのに。


「全く……仕方がない。シソには終盤で犠牲になって貰おう」


「いやいやいや!それって、”お前の死は無駄にはしない……!”ってヤツですよね!?仲間の成長の踏み台にされるヤツですよね!?」


 シソが素晴らしいツッコミをベバムにする。


「いやぁ!シソ君のツッコミはキレが良くて、ほんっと心地良いなぁ。聞いていて爽快だよぉ」


 私がシソのツッコミを褒めてあげると、シソは少しだけ頬を赤らめて、恥ずかしそうにプイっと目を逸らす。可愛い。


「こんな事で褒められても、全く嬉しく無いです!」


 その割には、少し嬉しそうに見えるのは、私の気のせいだろうか。


「前置きはこれぐらいにして……じゃあ、今から空を飛ぶよぉーー」

 

 ベバムが再び空を飛ぶ宣言をする。

 随分とふわふわした感じで。


「ベバムさんのキャラが、ますますわからなくなってきましたよ……」


「キャラなんて時が経つにつれて変わっていくものなんだから、気にする必要は無い」


「あれ……?ベバムさん僕の事、余計なキャラ付けとか言ってませんでしたっけ?」


「気のせいだ。とっとと行くぞ。フナ、俺たちが警備を引きつけるまで、少し待っていてくれ」


「うん!分かった!」


 私は元気よく返事をする。


「じゃあ、シソ。担ぐから、ほら、こっちこい。こいこーい」


 ベバムは悪の道へと引き込む悪魔のような怪しげな口調で、シソを誘導する。


「ペットみたいに言わないで下さい!もうっ!」


 微笑ましい光景だ。ベバムとシソは案外相性が良いのかもしれない。でも何だろう、ちょっと悔しいようなもやもやした気持ちが私の中に残っていた。

 シソにベバムを奪われてしまった……そんな感覚が……


「フナ?何をぼーっとしているんだ?」


 唐突にベバムが聞いてくる。


「え!?あ、いや!何でもないよ!」


「……?そうか」


 つい動揺してしまった……。


 その後、ベバムがシソを背中に担ぎ、飛ぶ準備をする。


「……小さな頃、お父さんにやってもらったのを思い出しました」


「そのお父さんともお別れしなきゃいけないんだが、本当にいいのか?引き返すなら今しかないぞ」


「大丈夫です。そんなつもり全くありませんから。行きましょう!」


「分かった。フナ、また後でな」


「うん!ベバムもシソ君も気をつけてね!」


 ***


 ベバムはシソをしっかりと支えて、シソはベバムの体をガッチリと掴み、飛行準備の最終段階に入る。


「じゃあ、行くぞ」


 ベバムがそう話すと同時に


「うわぁっ!?」


 ドンとした強い衝撃をシソは感じた。シソは、思わず反射的に目を瞑ってしまう。次に感じたのは身体中を引っ張られるような感覚。

 フワフワした感覚がある。これは、まさか……何だか心地良い強い風を感じる気がするし、やっぱりフワフワしてる。

 怖い、けど見てみたい。小さな好奇心は、勇気を引き出す。ゆっくりと目を開けてみると……そこに待っていたのはーーー


「と、飛んでる……」


 そう、シソは飛んでいたのだ。広大な空を!恐る恐る下を見てみると、地面から遠く離れている事が分かる。奥にはオヌルラの村の家々が見えている。目の前には大きな大きな月。見上げる

 事でした見れなかった月をこんな風に見れるなんて……!

 まさか本当に飛べるなんて……!


「ほら?だから言っただろ?俺たちは”空飛ぶ芸人”だって」


 ベバムが誇らしげに話す。


「空飛ぶ芸人……!」



 ベバムの言葉にシソは感動してしまった。フナとベバムはこうやって世界中を回っていたのか。凄いなぁ……!!

 空を飛んでみたいと思った事は誰だってあるだろう。そんな非現実的な事出来るわけが無いと諦めていた。諦めていたというより、飛ぼうとすら思わなかった。

 絶対に無理、絶対に出来ない、絶対に有り得ない。不可能だと思っていた”空を飛ぶ事”が出来た以上、この世界でやれる事は沢山あるのではとシソは考えた。ジイさんの本でしか知らなかった世界を、この目で確かめて、シソは世界を……!


 シソにはある目標があった。到底不可能だと誰もが思うだろう。だが、可能性はゼロじゃ無い。

 チャンスはこうして手に入れたのだから。




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