5. がんばるよ!
私たちはどうやってシソを連れて、村を出るかを考えていた。
村長さんは思ったよりも厄介な方のようで、どうしてもシソを村から出したく無いようだ。村の住民の協力を得ようにも、シソの両親含めて、みんな村長に協力的な態度をとっているし、誰も逆らえないのだろう。
「村長の意に反した村人は、他の村人から嫌がらせを受けます。物を投げつけられたり、暴言を受けたり、物を売って貰えなかったりします。徹底的に追い込んで、最後に待ち受けるのは”死”ですかね。実際に何人かの村人は嫌がらせが原因で一家ごと死んでます」
「怖いよ!?平和で長閑な村だと思ったらそんなドロドロした部分があるなんて……恐ろしすぎるよ!?」
こんな長閑な村で、そんな恐ろしい事が起きていたのか。驚きだ。
ここでベバムが冷淡な一言を。
「まあ、最悪俺たちは無関係な訳だから、シソを置いて逃げればいいしな。安心して俺たちについてきてくれ」
「前後で言ってる事矛盾してますよ!?ベバムさん!?僕の事、見捨てないで下さい!」
私達は、今日の昼頃に村から出る事になっている。「見送りなんてしなくてもいいですよ」と私達は言ったのだが、村長は「いえいえ!村人全員でお見送りさせて下さい!」と笑顔で言っていた。
「隙を見て村から出る人間が出ないように、最後まで監視するつもりみたいですね。お二方はともかく、僕は一体どうやって村から出れば……」
「村から出るのはそんなに難しい事なのか?」
ベバムがシソに質問する。
「難しい事なんです!大人たちが武装して村の周りの森を巡回してますし、村の周りには境界線が引かれていて、許可された者以外がその線を超えたらそのまま処刑対象になります」
ーー何それ!?怖いよっ!怖すぎるよ!
「そこまでするのか……最初に村に入った時も、村長と最初に会った時も全然ヤバい雰囲気なんて感じなかったんだがな」
「普通の優しそうなおじいちゃんって感じだったよねー」
ベバムの言う通りだ。最初に村に入った時も、村長は私達を優しく歓迎してくれた。そんなヤバい事をやる人には見えないんだけどなぁ。村長はおおらかで、優しい目をしていたのを覚えている。
「普通にヤバイ村なんですよ!!僕の気持ち、分かってくれましたか??」
シソはようやく理解してくれたと安心しているようだ。
「こんなヤバイ村に住んでいるんじゃ、捻くれた性格になるのも無理はないな」
「え?僕そんな捻くれてますかね?」
捻くれてるかどうかは、個人の意見なので、私から言うことは特に無い。
「可哀想なシソ君!私達が救ってあげるからね!」
「俺たちに任せておけ。面倒だが、助けてやる」
おお!私と同じように、ベバムが本気の目になった。いつもの目とは全然違う!いつもかっこいいけど、今日はもっとかっこいい!こんなベバム久しぶりに見た気がする。
「ベバムさん、フナさん……!」
シソが嬉しそうに喜ぶ。
良い展開になってきた。ベバムがシソの味方になってくれるのは、本当に心強い。
私とベバムは、シソを連れて、オヌルラの村から脱出することにした。
***
真夜中のテントで作戦会議!
「というわけでベバム!何か良い案をお願いします!」
他力本願な私は優秀なベバムにお願いする。
「良い案と言われてもな……」
私達が村から出る時は、村長や村人たちの意識は私達に向いている。この間にシソが村を抜け出して、後から合流すれば良いと考えていたのたが、難しそうだ。
「シソは大丈夫なのか?こんな時間にこんな場所に来て」
「大丈夫ですよ。別に村人の行動全てを監視したり、制限したりしているわけでは無いですから。村長が恐れているのは、村人が村から出る事。それだけなんです」
何が何でも村から出したく無い、か。
「武装した見張りがいるのは、村の周りだったよな?」
「そうです。後は村の入り口ですかね。一つしか無いですし」
森の中を道なりに進めば、自然とオヌルラに辿り着く事が出来た。出入り口は一つといっても、村から出れそうな場所は沢山ある。森に入ってしまえば、逃げ切れるかもしれない。ただ、シソ一人だとリスクが高すぎる上に、見張りがどこにいるのかすら分からない。危険過ぎる。境界線を超えた時点で、誰だろうと殺されてしまうのだから。
「村人全員でお見送り。つまり、村の周りをうろついてる連中も、お見送りに来るって事なのか?」
「どうでしょうか。村を警備している大人たちは、村長のお気に入りの精鋭部隊ですから。分からないです」
精鋭部隊……?軍隊が何かですか?
「それに、もしバレてしまったら、あの人たちが……」
「……?」
お見送りの予定場所は、私達が入って来た村の出入り口だ。そこにも、監視の人がいた気がする。そもそも、お見送りの時に、シソがいない時点で、怪しまれてしまう可能性もある。シソが村を嫌っている事、村から出たがっている事は、彼らも知っているはずだ。うーん。私が考えてもさっぱり分からない。大人たちにバレないまま、シソを村から連れ出す方法。私達が村の人たちにお見送りされながら、平和にお別れする方法。外の警備をくぐり抜ける方法。そんな理想的な方法があるのだろうか?
私がうーんうーんと悩んでいると……
「……シソ、村を出る準備はもう出来ているか?」
ベバムが急に話す。
「え、あ!はいっ!必要な物はちゃんと家から持って来ましたから。いつでも村から出れる状態ですよ!ほら、見てください!」
シソは嬉しそうに(いかにも)高貴そうな鞄から(いかにも)高貴そうな箱を取り出す。話を聞く限り、村の中ではシソは裕福な家庭なのだろうか。
じゃーんと言いながらシソが見せてくれたのは……
「なんだそれは?」
ベバムも困惑した様子だった。
箱の中には綺麗な入っていた。
「僕自慢のナイフです!どうですか?」
とびっきりの笑顔でシソが言う。年相応の無邪気な表情が可愛らしい。
「ツッコミ道にひねくれた性格、ヤジヤジ君……キャラ的にはもう充分だろ……更にキャラ付けする気か?欲張りだな」
「別にそんな意図は無いですよ!」
「シソ君は本とかが好きな真面目キャラじゃ無かったの?てっきり本を持ってくると思ってたよ。まさか持ってきたのそれだけ?」
私が聞く。
「これだけですよ。僕は別に勉強が特別に好きって訳でも無いので、優秀だとは思いますがね。おかしいですか?」
「少しはまともかと思ったら、やっぱり厄介なキャラだったか……」
「僕はフツーの常識人ですよ!!」
***
「それで、何でいきなり村を出る準備ができてるかなんて、聞いたんですか?」
「いつでも村を出る事が出来るか確認する為だ。シソを連れ出した時点で、どう頑張っても奴らとは敵対する事になる。仮に奴らにバレなかったとしても、俺たちが疑われるのは間違いないからな。金を貰ってる立場でこんな事はしたくないが……まあいいや」
ベバムは少し間を置いて、こう言った。
「今から村を出よう」
ふぇ?あまりに唐突だったので、私も驚いてしまう。
「え?今から??」
「ああ」
「今からって今?三人で??」
「ああ」
ベバムはそう答えた。
「良い方法があるの?」
「本当は三人で逃げたいが……ちょっと重量オーバーなもんでな。体力もあって、走るのも早い、身体能力が高いフナなら……きっとやってくれると信じてる」
ベバムは私に期待してくれているようだが、方法については教えてくれない。
「うん!頑張る!……で、すっごく期待されてるけど、何をやればいいの?」
私の質問にベバムは答えない。
その代わり、ベバムは私にある質問をする。
「……フナ、俺たちは何と呼ばれている?」
「え?私達って名称みたいなので呼ばれてたっけ?」
「そっか。あれは俺たちが自称していただけか。別に他者から呼ばれる程の知名度じゃ無かったな。すまない」
「あ!私、分かったよ!”空飛ぶ芸人”だね!なるほど!今から空を飛んで逃げるんだね!私とシソくんの二人を乗せるには”アレ”が必要だけど、ベバムの調子が悪いから、私は走って逃げろと!なるほど!ベバム頭いいね!」
私はベバムが言いたい事を完全に理解したつもりで答えたのだが、ベバムは悲しそうな表情をしている。
「……何故だろう、この虚しい気持ちは」
そんな私達を見ていたシソは心の中で……
「(折角”空飛ぶ芸人”に絡めて説明しようとしたのに、勘違いを指摘されて、なおかつ全部説明されちゃうなんて……ベバムさん……)」
と、ちょっと同情したのでした。
***
「俺は空が飛べるんだ」
「急に言われましても、信用出来ませんよ」
「信用なんてしなくていい。俺もシソの事は信用していないから安心するんだ」
「仕方ない事ですけど、結構傷つきまよ!?信用されてないってはっきり言われると!」
「俺も信用してないって言われたから傷付いたぞ」
「……すいません」
ベバムの計画は、こうだった。
ベバムがシソを背負い、そのままビューンと飛んで、村から脱出する。恐らく、警備の村人に気づかれるから、そのまま引きつけておく。人数は10人いるかいないかぐらいらしい。多少は人数が減るだろうから、その間にフナが警備を掻い潜り、村から脱出する。
森を抜けた先で合流する予定だ。あらかじめ、行く方向は決めておく。気づかれないのが一番なので、シソの助言で、フナは人がいなさそうな場所から出る事にした。
「まあ、どうなってもシソを差し出せば全て解決する話だ。皆、気楽に行こう」
「皆って僕も含まれてますよね!?僕、不安しか無いんですけど!」
「大丈夫、ベバムを信じよ!ね!」
私は心配そうなシソを励ます。
「大丈夫、俺を信じればきっと多分頑張れば上手く行くかもしれないから、なんとかがんばろう」
「(不安だ……)」
シソは不安を隠しきれないようだが、真夜中のオヌルラの村大脱出作戦(?)が始まった!頑張るよ!
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