4. はいろう!
「僕を連れて行ってください!お二方の弟子にしてください!」
シソが好きな女の子に勇気を振り絞って告白するような形相で、ベバムにお願いする。
イケメンオーラを放つ、爽やかな少年ベバムの反応は……?
「やだ」
即答だった。それはもう輝かしくも冷たい疾風の如く。
全てを捨てる覚悟で、必死に言葉を発したのだろう。ご丁寧に、頭も下げている。そんなシソの想いをベバムは思いっきりぶった斬ってしまった。
「え?えっと……何て……」
シソが困惑しながら、恐る恐る顔を上げる。
「やだ。俺はお前が嫌いだから連れて行かないし、弟子にもしない、以上だ。もう眠たいから帰ってくれ」
あらら、可哀想なぐらいはっきりばっさりと……
ふわぁぁとベバムは小さく欠伸をする。シソは私達の事を嫌っているのだから、てっきり文句を言いに来ただけかと思っていた。私達と一緒に行きたいと言うのは予想外だった。
「確かに僕は貴方たちが気に食わないですし、純粋な子供を騙し、金を得る手法は気に入りません。ですが、こっちにも事情があるので、ほんとは嫌で嫌で仕方ないけど、しょうがないから入ると言っているのです!さあ、入れてください!僕を!仲間に!この際弟子でも荷物持ちでも何でもいいです!村から出る事が出来るならば!さあさあ!」
シソはここぞとばかりにぐいぐい迫る。ベバムも変わっているとは思っているが、この少年も癖が強そうだった。私は面白い人間が大好きだ。ベバムは私だけじゃない、世界中の人を楽しませてきた。私はそんなベバムが好きだった。彼が仲間に加われば……もっと面白い事が起こるのでは?と内心期待している私もいた。
「ここまで罵倒されて、どうして俺たちがお前と行動しなくてはいけないんだ?俺はお前が嫌い、だから、一緒に行きたくない。それだけだ」
ベバムははっきりと言い放った。
「いやです!僕も行くんです!連れてって下さいよぉ!!」
おもちゃを欲しがる子供のように、シソはベバムの足を掴みながら、懇願する。
「な、何なんだこいつは……」
ベバムも困惑しているようだ。
「あの……シソ君?」
私は恐る恐る声を掛ける。
「どうしました?」
「シソ君の回想を見るに、シソ君は村での生活に不満を持っているんだよね?私達に仕事を依頼した村長は、子供たちを村に閉じ込めようとしているから嫌い。そんな依頼を受けた私達も嫌いだけど、村から出るチャンスだから、仕方なくついて行きたいとお願いしている……って事でいいのかな?」
「「っ……!」」
私が話をまとめ上げたというのに、シソだけで無く、ベバムも口をあんぐりさせている。
「え?二人ともどうしたの??私変な事言っちゃったかな?」
二人の反応に、私は間違った事を言ってしまったのではないかと心配してしまう。
「あなたまともな事言えるんですね……驚きました」
……え?
「俺も驚いたよ。フナ、成長したな」
ええ……?
シソは本気で驚いているように感じるが、ベバムに関して成長する我が子を見守るような温かい表情だった。ちょっと嬉しい……じゃ無くて!
「シソ君はともかく、ベバムが驚いてるのは何で!?」
「……我が子が成長する姿を微笑ましく見守る親の気持ちになった。まさか正しい事が言えるぐらい成長したとはな」
「言えるよ!私そこまで馬鹿じゃ無いよ!?」
そう、私は馬鹿に見えるかもしれないが、馬鹿では無いのだ!必要最低限の常識は持ち合わせている……と思う。
「えっと、そちらの男の方は、ベバムさんでいいんですよね?あなたは……」
シソが私の方を見てくる。
「私はフナ!よろしくね!」
シソが言い終える前に、私は自己紹介する。人に言われるよりも、自分から言った方が気持ちいいしね!
「フナさんですか。助けていただきありがとうございます」
「いいよ全然!ベバムから褒めて貰えて嬉しかったし!」
私も正しい事言えるんだから!
シソは続ける。
「僕は村から何としても出たいのです!その為にはあなた方の力が必要なのです!どうか、お願いします!僕を連れていって下さい!お願いします!」
シソは何度も頭を下げて、お願いする。
「ベバム……」
私はベバムの方を見る。
正直、可哀想に思ってしまった。シソは今ある生活を捨てる思いで、私達の所へ来たのだろう。ここで突き放すのもどうか……と私は考えてしまった。ヤジを飛ばされた時はイライラしてしまったけど、冷静に話を聞いてみれば、理解できる部分もあった。それはベバムだって、分かっているはずだ。
「ね?分かっているよね??ベバム??」
「……?何をだ?」
きょとんとした顔でベバムが話す。
「シソ君の”思い”だよ!分かってるよね??ね??」
これは遠回しに”早く認めてあげてよ!可哀想だよ!”と言ってるようなものだ。
「……思い?村から出たいという身勝手な思いの事か?そんなもの分かるわけない」
「み、身勝手……!?」
こりゃまたベバムははっきりと……!
シソの精神を抉るような事を……!
「ベバム、身勝手なんて言っちゃだめだよ!」
私はそう言うが、シソは……
「いえ、身勝手です。村の掟を破り、出ようとしているのですから」
「シソ君……!」
「何を言われても構いません。僕は村から出たい、それだけの話なんです。村を出るにはあなた方の協力が必要で、村に外部の人間が入ってくる機会は滅多にない。村から出る最高のチャンスなんです。あ……そうだ、フナさん」
「ん?どうしたの?」
シソが私に何か言いたそうにしている。
「フナさんの頑張りを妨害すりヤジを飛ばした愚かな僕の行為を謝罪します。すいませんでした」
シソが謝ってくる。
なんだ、そのことか。
「全然いいよ!ちょっとムカついたのは確かだけど、よくある事だからね!」
「よくある事……何ですか?」
「シソ君みたいに、私達みたいな芸人を気にくわない人もいるからね!詐欺師って呼ばれたこともあるし、もっとひどいことを言われたこともあるよ!ヤジだけじゃ無くて、ナイフが飛んできた事もあったよ!」
「ナイフ……!?結構シビアな世界なんですね……怖い」
「飛んできたナイフはベバムがぴゅーんっ!って投げ返してたけどね!キャッチアンドリリース!」
「もっと怖いですよ!ただの殺し合いじゃ無いですか!」
すると、ようやくベバムが口を開く。
「フナはどう思う?」
ベバムが私に聞いてくる。
「私はシソ君が仲間になったらすっごく面白いと思う!だってさ、こんなに面白い人滅多にいないよ!」
「面白い……褒められてるのかよくわからないですね」
シソは微妙な反応。
「褒めてるよ!凄いよ!シソ君のツッコミ技術!」
「褒めるところツッコミだけですか!?」
ナイスツッコミ!
私は心の中で褒め称える。
そんな私とシソのやりとりを見ていた
「そうか、ならいいよ」
ベバムはあっさりと許可を出してくれた。
「え?いいんですか?そんなあっさりと」
あっさりとしたベバムの回答に、シソは逆に驚いてしまったようだ。
「ああ。構わない。ただ、俺は弟子みたいに区別するのは好きじゃない。お前が弟子だと認識するのは構わないが、俺は弟子だとは思わない。そのつもりでな」
「は、はいっ!ありがとうございますっ!!」
「良かったね!シソ君!」
私はシソを祝福する。
「はい!スナさんのおかげです!僕、頑張ってツッコミ道を極めます!」
「よし、明日からツッコミ道頑張ろぉ!」
「「おーー!!」」
夜中なのに大声を出して盛り上がる私とシソを見てベバムは
「(頑張るのはそこじゃ無いだろ……まっいっか)」
と小さなツッコミを入れたのでした。
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