2. おなかすいた!

「美味しいなぁ。美味しいなぁ。ねえ、ベバム!美味しかった?美味しかった?」


「二回繰り返さなくても分かる。美味しい」


 私は暇だったので、寝ているベバムに声をかけていた。


「だよねぇ。でもさぁ、いつも思うんだよなぁ。お腹すいたなぁって思ってから食べるのってどれだけ美味しいんだろうって!」


「……”空腹”ってやつか?大して変わらないだろ」


「そうかなぁ。変わると思うけどなぁ。おなかすいたぁって、私も言ってみたいなぁ。朝起きて、お腹が空いて朝ごはん食べて……お昼になったらお腹すいて、お昼ご飯を食べて……日が落ちて、夜になって、お腹すいて、夜ご飯を食べて……いいなぁ。私もそんな生活してみたいなぁ」


「……そうか」


「……そうかってそれだけ??」


「……ああ」


「……ああってそれだけ??」


「……そうか、ああ」


「別に言葉を増やして欲しい訳じゃ無いよ!」


「なら何をして欲しいんだ?」


「うーん。お腹空いてみたい」


「お腹空いてみたい……か。中々面白い言葉だな。だだ、俺にはどうする事も出来ない。諦めるんだ」


「ベバムなら何とか出来ると思ったのに……」


「俺を神様か何かと思って無いか?」


「神様じゃ無いの?」


「……」


 私の返答にベバムは黙ってしまう。


「私にとってベバムは神様みたいな存在だよ!」


「……神様みたいって事は神様では無いだろ。諦めるんだ」


「私はベバムの能力は神様みたいだと思うよ!空飛べるし……空飛べるし……ほらっ!空飛ぶ芸人だし!」


「空が飛べても、神様にはなれないぞ。諦めるんだ」


「もう!さっきから諦めるんだしか言わない!」


「諦めるんだ」


「またぁ!」


私はブーブーと文句を言っていたのだが、シソはしんみりした顔で一言


「……すまない」


と呟いた。



「ご、ごめん!別に謝らせるつもりで言ったんじゃ無いの!ごめんなさい!」


 まさかベバムが謝ると思っていなかった為、私も慌てて謝る。

 ベバムが私に謝るなんて相当な事だ。


「謝らなくていい。俺も色々思うところはあったんだ。腹が減らない。それだけでもうおかしいんだよな」


「……もう!そんなことないよ!おかしくなんかないよ!わたしたちがフツーなんだよ!みんながおかしいんだよ!それにさ!お腹が空くと食費がかかるし、動物たちの大切な命が失われるわけだし!そう!私お腹空かなくて良かった!良かったよ!」


「状況に応じて、ここまで意見を変えれるのは凄いな」


「えへへっ。褒められた」


「……」


 何事も前向きに、自分に有利な事を臨機応変に選択する。人間の心理なんて、簡単に変わってしまうもので、固定された考えを無理に維持する必要は無いと私は考えていた。信頼、裏切り、騙し騙されのこの世の中。たとえ、ベバムであろうと、考えを変えるつもりはない。


「何も食べなくても生きていけるのなら、極端な事を言ってしまえば、働く必要も無い。屋根のある場所で寝る必要が無いのなら、野宿すればいい。何もせず、何の生きがいも持たず、何もしなくなって俺たちは生きていけるんだ。話を少し変えるが、何もしなくても生きていけるのなら、俺たちはどうして芸人の活動を続けるんだ?」

 ベバムが私に問いかけてくる。


「私はベバムと一緒にいられるから芸人の仕事をしてるよ!ベバムが別の事をしようとしたら、私は勿論それをやるし、ベバムが犯罪者として生きようとするのなら、私も犯罪者になるよ!」


「……犯罪は良くないと思う」


「犯罪なんてしないよ!……確かに、私達は何もしなくても生きていけるかもしれないよ。でも、それって本当の意味で”生きてる”って言えるのかなぁって思ったの!」


「言えるんじゃ無いのか?」


「もう!ベバムは私の気持ちを全然分かってくれない!」


「うん……」


「私には生きる意味があるよ!ベバムと一緒にいるだけで、ああ生きてるなぁ!って感じれるから!」


「そうか……」


 ベバムは小さくそう答えた。

その後のベバムは疲れてしまったのか、そのまま寝てしまった。

 そんな二人の夜が続くのでした。


 ***


 寝静まった村の中で、特にする事も無かったし、テントの明かりをつけたままにしておくと、村人の迷惑になるのでは?という(ベバムの)心優しい配慮により、明かりは消す事にした。村の夜はとても静かだった。風の音や、木の葉が揺れる音、どこかで鳴いている動物の声が耳に入ってくる。村自体が自然豊かな環境なので、怖いぐらい自然を感じる。怖いぐらいというか、怖い。



「ねぇ、ベバム」


「……」


「変な音が聞こえたんだけど……」


「……」


 村の住民が多く住んでいる場所からは随分離れているはず。

 なのに、足音のような男がするのだ。


 ガザガザ……


「っ!?」


「ひっ!?」


 音に驚いたのか、ベバムも飛び上がる。こちらを向いてくれないので、表情は見えないが、きっと私と一緒で驚いているのだと思った。


「……」


 ベバムはしばらく起きていたのだが、何事も無かったかのように寝てしまう。


「ちょっ、ちょっと!ベバムぅ!」


「今度はどうしたんだ?」


「どうしたんだ?じゃ無くてさ!ベバムも今の足音聞いたよね?!」


「……ふむ……聞いてない」


「嘘だよ!絶対聞いた!じゃあ何で起きたの!?」


「……ふむ……トイレ?」


「絶対嘘だよ!トイレ?って私に聞かれても困るよ!」


「……ふむ……気のせいだ、寝よう」


 そう言うと、ベバムは再び眠りについてしまう。


「ああ!寝ないでよ!気のせいじゃ無いってば!ベバムぅぅ!!」


 私が泣きつくと、ベバムはやれやれと言った感じで、起き上がる。


「……じゃあ、俺が見てくる」


「私も行くよ!」


「何でそんな嬉しそうに目を輝かせて言うんだ……」


「大丈夫っ!ベバムと一緒なら!お化けだろうと殺人鬼だろうと何とかなる気がするの!」


「その自信はどっから来るんだ……」


 ベバムと私はテントの中から外の様子を確認するのだが、真っ暗で何も見えない。暗くて様子を確認する事が出来ない。


「何にも見えないなぁ……」


「いや、何かいるな」


「ふぇ!?さっすが、ベバム!”第三の目”か何かで敵が見えたんだね!すっごい!」


「第三の目か……悪く無いな」


「え?!本当にあるの??見せて見せて!」


「違う。今度のネタに使えそうだと考えただけだ。俺に第三の目は無い。目は二つだけだ」


「そっか。私も第三の目欲しいなぁ」


「私もと言われても、俺は二つの目で十分だし、第三の目なんて何の役にたつんだ?」


「うーん。目からビームが出るとか?」


「それ第三の目必要か?普通に今ある目で出せばいいだろ」


「え!?ベバム、ビーム出せるの!?」


「出せない」


「出せないのかぁ。でもさ、第三の目っておでことかにあるイメージだけど、頭の後ろに第三の目があったら、前も後ろも見えるって事かな?」


「なるほど。頭の後ろに第三の目が出現して、前も後ろも見る事ができる男か。ネタになりそうだな」


「もう!何でもかんでもネタネタって!」


「人々の笑顔を招く為には、常に人々がどう喜ぶかを考える必要がある。どんな時でもネタをつくる事が、世界平和に繋がるんだ」


「きゃあ!かっこいい!さすがベバム」


「……」


 なんて私達がわちゃわちゃしていると……


「あの……」


「っ!?」


「ひゃあっ!?」


 いきなり暗闇から一人の男が現れた。私もベバムも驚き、一歩下がってしまう。び、びっくりした……

 うん?ただ、この男。いや、男の子と言った方が正しいだろうか。男の子は、私よりも身長が低いように見える。私はこの男の子に見覚えがあった。


「あなたは、さっきのうるさい子 …」


私がそう呟くと、ベバムは……


「うるさい子は失礼だ。俺は人を笑わせる人間は好きだが、人を驚かせて、一歩下がらせるような人間は大嫌いだ。うるさい子じゃ甘い。もっと酷い名前を……」


「ヤジヤジくんとかは?」


私はベバムに提案した。


「おお、いいな。それ。言いやすいし。それでだな、ヤジヤジくん」


ベバムがそう言って、黙っているヤジヤジくんに声をかける。


「ヤジヤジくんって何ですか!?まさか僕の名前ですか!?」


 男の子が華麗なツッコミをしてくれる。心地よい。


「中々良いツッコミだね!ベバム、この子才能あると思うよ!」


「何ですか、ツッコミの才能って……」


 男の子は困り果ててしまったようだ。私達は男の子の話を聞いてみる事にした。





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