わたしたちは空飛ぶ芸人なのだ!!

みずみゆう

1. よろしくね!

「ほらほらほらほらほら!みんな見てね!」


 私は被っていた(というより、つけていた)シルクハットを取り、観客に見せる。


「ごくフツーのシルクハット!中には、なーんにも入ってません!」


 私は”なんでもボックス”と呼ばれる箱から黒色の杖を取り出す。


「この杖で……ちょいちょいちょいっと!」


 私は杖でシルクハットを三回叩く。

 私は杖を置き、シルクハットの中をガサガサと漁る。

 そして、私がシルクハットから手を出すと……


「じゃーん!あら不思議。何もなかったはずのシルクハットからお花が出てきました!!」


「うぉぉぉ!すげぇ!!」

「どうやったんだ!?」

「かっこいいいい!」


 村の子供たちが大きな声で歓声を上げてくれる。ふふん、とっても良い気分。成功させた後の観客の反応をじんじんと感じるのが、1番心地良い。


 が、そんな純粋無垢な中にも捻くれたヤツとは存在する訳で……


「えぇ。何ですか、今の。ちょっとよく見せて下さいよ!絶対何か仕掛けがあるはずです。みんな!騙されちゃだめっすよ!これはインチキなんです!」


 ムカっ。何だこの子供は。いかにも捻くれてそうな顔をしている男の子が営業妨害してきた。


「インチキじゃないよぉ!なら、もっと凄いもの見せちゃうよ!えい!」


 私は再び杖でシルクハットを三回叩く。すると、今度は大量の鳩(5匹)がバザバサと翼の音を立てながら、シルクハットの中から出てきた。


「うぉぉぉ!こりゃあやべぇ!!すごすぎるよぉぉぉ!!」

「えええええええ!?マジで!?一体どうやったんだ!?」

「やべぇよぉぉぉぉ!!ヤバすぎるよぉぉぉ!めちゃくちゃかっこいいいい!」


 観客(村の子供たち)が今日一番の大歓声を上げてくれる。ああ、良い気持ち。最高の快感。さいここの反応の為に、私は頑張ったんだ。よしよし、良い雰囲気になった。そろそろこの辺で……!


「へぇ、鳩出せるんですね。ふ、ふぅん。ですが、小細工しようと思えば、いくらでも小細工出来るはずです。結局は小細工しないとこんな事出来るはずが無いんです!こんな下らないショー見てるだけ無駄ですよ!僕は帰ります!」


 男の子のはそう言うと、そのまま観衆をかき分けて、去ってしまった。


「何だよ、あいつ」

「あいついつもああやって捻くれた事ばっか言ってるんだよ」

「名前は……何だっけ?」

「知らね。俺も忘れた」


 子供たちの間の評判は良くないみたいだ。まあ、実際男の子が言っている事は間違ってはいない。フツーに考えて、何も無いところから何かを出現させる事なんて出来ない。必ず”仕掛け”があり、それで子供たちを騙すわけだ。


「じゃあ、今日のショーはこれでおしまい!またね!」


 私がそう言うと、観客(村の子供たち)はパチパチと盛大な拍手をしてくれる。


「次はいつ来るのー??」


 一人の子供が質問して来た。


「村長さんがお金をくれたら……じゃ無くて!みんなが忘れた頃に、新しい事を覚えて、さらに成長して来るから、それまで待っててね!」


 私はそう答え、ショーを終えた。


 ***


 オヌルラの村は各地に点在する典型的なごくフツーの小さな村だった。山々に囲まれた自然豊かな村だ。人口も少なく、これといった特徴的なモノも無いが、住民たちは平和に仲良く暮らしていた。基本的には自給自足の生活をしているらしいが、必要な場合は、近隣の大きな町まで足を運ぶらしい。村には何人かの子供が住んでいるのだが、何も無い村に不満を持っているらしく、村長も頭を悩ませていたようだ。実際何も無いしね。こんな場所に住んでたら頭おかしくなりそうとも思ったけど。


 村から少し離れた場所に、ポツンとテントが設置されている。ちなみにこのテント、ポケットサイズまで縮ませる事が出来る。


 私はショーを終えると、何でもボックスを持って、テントへと戻った。必要なモノは全て”なんでもボックス”に詰め込んでしまうので、かなり重たい。腰にくる、痛い。

 私はテントに到着する。


「ベバム〜戻って来たよぉ」


「……ああ」


 テントの中で横になっていた黒髪の男が、静かに答える。彼の名前はベバム。私は彼と一緒に二人で活動している。ベバムは私よりも身長が高く(そもそも私の身長が低いのだけれども)少し強面の屈強な体をした男だ。


「体は大丈夫?」


「……ああ」


 ベバムが答える。

 テントの中には必要最小限のものしか置いていない。必要最小限といっても、布団も机も無い。ベバムが持っていたランタンがポツンと置かれているのみで、ベバムはそのまま地面で横になっていた。


 私達は、普段は私とベバムの二人で活動している。オヌルラの村に来る前、私達はある町に滞在していた。町の中央にある広場などで、芸を披露していた。だが、ベバムが芸の最中で腰をやってしまい、痛みで動けなくなってしまうという事件が発生する。直ぐに医者に診てもらったのだが、幸い二度と動けなくなるといった後遺症は無かったものの、しばらくは休んだ方が良いと言われた。ベバムは私以上に頑張って来た。腰にも相当限界が来ていたのだろうと心配したのだが、ベバムは大丈夫だと言い張った。

 では、その時の様子を回想しますか。


 ***


 町に滞在する為、私達は宿を借りていた。宿はテントと違い、ふかふかのベッドに机、物をしまう事が出来る物入れまであった。天国!最高!!

 て、そんな事はどうでもよくて、問題はベバムが医者から体を動かす事を止められているのにも関わらず、大丈夫だと言い張り、明日のショーをやろうとしている事だ。


「私一人でも大丈夫だって!ほら、私上手くなったんだから!見てみて!ほらほらほら!今から花をだしまーす!ほいっ!」


 ベバムはそんな私を冷たい目で見ている。


「ちょっと違う気がする」


「何が違うの?」


「……分からん」


「だったら言わないでよぉ!もう!私本当に心配してるんだよ!今日だって、ベバムが倒れた時、私もう目の前が真っ暗になっちゃって……もしも、ベバムが一生動けない体になったらどうしよう……って!」


「……あの医者が何と言おうと、自分の体は自分が一番理解している。俺の体は大丈夫だ」


「ベバムは大丈夫じゃ無いよ!ならどうして今日動けなくなったの!!今までずっと無理をし続けてたからでしょ!!」


「いや、それは……決して無理をしていたわけでは無い。今回は運が悪かっただけだ」


「運のせいじゃ無いよ!!」


私は勢いで、シソの腹を殴ってしまった。


「ぐはっ!……な、何故殴る」


「だってベバムわかってくれないもん!だから殴る!痛みでわからせる!」


「ぐはっ!ちょっ、ちょっと待て……ぐはっ!?け、結構強めで来るんだな……ぐはっ!?ちょ、やめ……!」


「私の思い、受け止めて!」


「わ、分かった!休む!休む!」


回想終わりっ!


 ***


 と、まあこんな感じでベバムは休む事になった。代わりに、次の日のショーは私一人でやる事になった。普段二人でやっている事を一人でやるのは思いの外大変だったが、何とかショーを終える事が出来た。

 ショーを終えた後、私はショーの依頼人と話をしていた。依頼人によれば、町から少し離れた場所にオヌルラという小さな村があるらしい。村の子供たちが村での生活に不満を持っていて、村長が頭を悩ませていると。あなたたちのショーをみせてあげれば、子供たちの気も紛らわす事が出来るのではと言われ、私達は次のお客さんを見つける事ができた。


 私達は色々な場所を巡り、ショーを見せて生活している訳だが、馬車などは持っていない。なら、どうやって移動しているかって?ふふん。ここが自慢ポイントだ!!


“私達は空飛ぶ芸人なのだ!!”


 芸人といっても、奇術師やマジシャンみたいな感じで、うわぁ!すっご!みたいな不思議な芸を見せるのがお仕事だ。

 空飛ぶ芸人って何?と思う方もいるかもしれないが、本当に空を飛ぶんですね。ちなみに私は空なんて飛べませんよ。飛ぶのはベバムです!!


 私に芸のやり方を教えてくれたのも、ベバムなのだが、ベバムは(なぜかは知らないし原理も知らないが)お空を飛ぶ事が出来るのだ。


 飛ぶと言うより、プカプカと空中に浮きながら、進む事が出来るのだ!凄いね!

 私達は必要最低限の荷物を持って移動する。ベバムが私を背中に担いでくれる。私はベバムにしっかりとつかまり、落ちないように注意する。

 ほら、空飛ぶ芸人でしょ?

 自己紹介はここまで。話を戻すね。


 ***


「この村の子でさ、すっごくひねくれた子がいてさ!悪口ばかり言うの!営業妨害になるからやめて欲しいよ!」


まあ、世の中色んな人間がいる事は分かっているけれど……ちょっと悲しかった。


「そうだ!ほら、これ!ショーのお礼に子供たちのお母さんからお弁当貰ったよ!食べよ!」


 私はなんでもボックスからお弁当を取り出す。


「よくよく考えたら、このなんでもボックス、欲しいものがバーンって来るんだよね、すごーい!」


「なんでもボックスは、俺の師匠から貰ったものだ。中は異空間になっていて、開けた人間にとって必要なモノが出てくる。逆に入れたいモノを自由に入れる事も出来るが、何を入れたか忘れてしまうと、取り出せなくなる可能性があるから、注意が必要だ」


「おお!説明口調の説明ありがとう!」


 ショーの報酬は、事前に村長から貰っているのだが、心優しい村人たちが、ご飯を恵んでくれた。私もベバムも色々あって、何も食べなくても生きていける身体なのだが、味覚は存在するので、美味しいものを食べれば、勿論美味しく感じる。

 ある意味娯楽のようなものだ。必要では無いけど、ちょっと欲しいみたいな。


「うん!美味しい!ねぇ、ほら! ベバムも食べてみてよ!」


「まだ夕方にもなって無いぞ。もう食べてるのか」


「どーせお腹すかないし、いいじゃん!もぐもぐもぐ。美味しいなぁ!」


「……」


 私はベバムが好きだった。ベバムと一緒にいられるのなら、何だって良かった。


 ベバムは再び横になってしまう。


 色々あったけど、今こうしてベバムと一緒に過ごせているだけで、私は幸せだった。



 これは、空飛ぶ芸人の幸せな日常の物語だ。









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