14.火あぶりの刑とサイコな銃と蛇の名を持つ海賊

 あー、火あぶりの刑ってこうするのね。なんか、ほんとむごいわー。

 火あぶりの刑というと、魔女狩りとか、中世の西洋の絵画とかによく出てくる奴を思い浮かべるけど、実際に見るとなんかほんとむごい。

 高々と組まれた木の十字架に、両手両足を太い鉄の杭で打ち付けられ、その下には大量の藁と木が詰まれている。

 有名なのだと、「フォローミー!」でおなじみのジャンヌ・ダルクさんですかね。

 ほとんどが、火を付けられた後に、煙による一酸化炭素中毒で気絶した後に焼死するらしいけど、それにしても焼かれて死ぬって、あまりにもむごくないかね。

 カーレの城の前の広場に作られた処刑場では、グールと化したサンサス、ロータグが、文字通り十字架に貼り付けにされていた。

 グールになっているとはいえ、サンサスの美しい姿態が破れた鎧や衣服の下から露わになっている。わざとそうして、こちらの感情を逆なでしているのであろう。

 赤く染まった目と、ものすごい形相で辺り構わず牙をむきだしてうなり声を上げているが、それでもその美しさは損なわれていない。

 むしろその姿の方が痛々しく悲しみを誘う感じだ。

「やろー、ぜってーぶっ殺す」

 周りで処刑場を取り巻く群衆の中、フードの中で呻く俺。

 しっかり感情を逆なでされてますけど、なにか?

 カーレの中心にそびえる城の前面広場が刑場とされ、貼り付けにされた二人を幾重にもグールの装甲兵達が取り巻いている。

 広場を見下ろす謁見台からは、シャムと思われる人影が背もたれの高い豪奢な椅子に深々と腰掛けて、頬杖をついてこちらを見下ろしていた。

 広場でひときわ目を引くのが、さっき見たビボルダーと、慎重四メートルはあるかという巨人が二体。こいつらはジャイアントだな。たしかジャイアントの歯で召還できるんだよね。

 赤々とした夕日が沈みかける頃、城内の鐘が鳴り始めた。

「これより、反逆者サンサス、ならびに側近騎士ロータグの処刑を執行する!」

 やたらがたいのでかい全身鎧兵が大声で怒鳴った。ハイネケン准将ですか?

 グールどもが各々たいまつを持って貼り付け台に近づいて来る。

 群衆の熱気というか異様な雰囲気が最高潮に達した。

「ちょっと待ったーーーー!!!」

 ねるとん風(古い)に俺は大音声で声を上げると、フードを脱ぎ捨てて、前に進んだ。

 葉巻を咥えた赤タイツのモリモリ筋肉男に、群衆が道を譲る。まるで、モーゼの十戒の様に、人々が左右にわかれていく。

 ゆっくりと俺は処刑場に歩いて行った。

「誰だ?貴様は?!」

 近衛兵の誰何に

「東の魔女殺し!ウィッチスレイヤーのスパイクとは俺のことだ!」

 俺の登場に、おおー!と群衆がどよめく。なかなか気分が良いな。

 すると、オレの周りをグールと近衛兵とジャイアントとビボルダーが十重二十重になって取り囲んだ。お決まりのパターンね。

 オレは葉巻を咥えたまま、ゆっくりと左手を外すと、黒光りするどでかい砲身を前方へと向けた。

 最大出力で撃つつもりで意識を高めていく。レッドアイのところでご飯も食べたしお腹もいっぱいだ。これ重要。このサイコンガンってほんと撃つとお腹減るんだよね。

 前方のグールの集団とビボルダー、そして射線上にシャムの謁見台が入る形で最大出力のサイコガンをぶっ放した。

 グールの集団が光の中で消し炭のように消し飛びんだ。さながらコロニーレーザーのようだ。しかし、シャムのいる謁見台の辺りで何かに当たってはじける様に四散した。

 プリズマティック・ウォールってやつかな。

 オレの精神力がぐっと減るのがわかるがかまわず撃ち続ける。

 ビボルダーからまっすぐにオレに向けて紫の怪光線が放たれた。

 人間離れした身体能力を獲得したオレは、空中で一回転して怪光線を避けると、別の角度からサイコガンを連射する。

 同時に一斉に各所で銃声が轟いた。

 群衆に紛れていた、フランカーとレッドアイの集団が一斉にサブマシンガンやらハンドガンやらをぶっ放す。

 近くの建物からは、ライフルでサムスやその周辺の近衛兵、ジャイアントに対して狙撃を開始した。

 オレ達がこの数時間で行ったのは、現代兵器の小隊規模の訓練と編成だった。

 とりあえず前衛部隊には、アサルトライフルの使い方を一通り教え、接近戦になった場合は慣れている剣や斧で戦うように指示を出してある。

 一方で後方の建物に観測員とスナイパーをツーマンセルで数隊配置した。

 対物ライフル、バレットM82A1も一艇、キッドの中に入っていたので装備させてある。

 対物ライフルの説明はしてたっけか?まあ、歩兵が持てる最高威力のライフルって思ってもらえれば。現代戦では難しいけど、ちょっと前まで装甲車の走行をぶち抜いたり出来たライフルのこと。軽自動車なんかを撃つと車体ごと跳ね上がるくらい高威力だね。アニメだと押井守の映画版パトレイバー2に出てくる。

 レッドアイ隊の方から銃声が轟き、放物線を描いた12.7x99mm NATO弾がジャイアントのかぶるヘルメットに直撃。

 貫通はできなかったものの、衝撃でジャイアントのでかい体が地響きを立てて地面に倒れ込んだ。

 城内からも新手の兵達が参戦して、刑場はまさに乱戦へと突入した。

 そこかしこで混戦に持ち込んでいるが、こちらの方が圧倒的に人数が少ない。

 二人を救出次第、すぐに撤退する手はずだ。

 その際は、アサルトライフルで牽制しつつ各隊を順番に後退させる。

 しんがりはライフル隊だ。彼らは群衆に紛れて撤退する予定だ。

 俺の方は、ビボルダーの相手にかかりきりなっている。

 この身体能力がなければ、とっくの昔に復活不能の例の怪光線に焼かれていたことだろう。

 ビボルダーは、様々な魔法を駆使して攻撃してくる。

 口から何か歯のような物を吐いたと思ったら、それが見る間に骸骨の戦士、竜牙兵となって襲いかかってくる。

 頃合いをみて、グールどもを跳ね飛ばしながら、運転席の天井にドラゴンを乗せたヒノノニトン、キッドがサンサスの足下に急停車する。

 ドラゴンが辺りにブレスを一斉射すると、グール以外の生身の人間達は流石に後方へと下がった。

 荷台からレッドアイの別働隊達が飛び出し、貼り付け台を切り出すべくチェーンソーを柱に当てた瞬間。

 サンサスとロータグの貼り付け台が虹のように霧散して消えた。

「なに?!」

 ドラゴンですら驚いているのがわかる。ってか、器用なは虫類だな。

「罠か?!」

 俺も思わず叫んでみる。

 すると、シャムの高笑いが辺りに響き、虹色に包まれた魔法壁が俺たちの周囲を取り囲んだ。

「スパイクよ。ずいぶんと容姿がかわったようだな」

 上空からクリスタルの防壁に包まれたシャムがゆっくりと降りてくる。

「君ほどじゃないさ」

 俺は葉巻に火を付けて、すっかり様子の変わってしまったシャムを見上げた。

 その姿はまさに紫の悪魔。もともと美人だった容姿は凄みを増し、どす黒いオーラを放っている。長かった髪の毛は四方に放射状に分散してゆらいでいた。そしてその周辺をクリスタル状のバリアが覆っていた。

 周囲をチラリと見回すと、サムスを始めとしたレッドアイの部隊、フランカー、ドラゴンとキッドが撤退を魔法壁に阻まれ、グールやジャイアントに追い詰められている。

「スパイクよ。貴様、私たちの仲間にならいか?その戦闘能力は実に惜しい。もし我々の傘下に加われば閣下と呼ばれる地位を与えるぞ」

 ゆっくりと俺の目の前に降り立ったシャム。その目は炎のように揺らいでいる。これはマジでやばいかもな。

「は、あいにく性格の悪い上司には飽き飽きしてるんでね。遠慮しておくよ」

 俺は葉巻の煙をゆっくりと吐き出す。

「で、どうする?ディナーでも招待してくれるのかい?」

「ふふふ、スパイク。貴様、異世界人とは言え、この私を前にしてその胆力。ますます気に入ったぞ」

 美人に言われると嬉しいんだけど、どうもこの人はおぞましいねぇ。

「まさか、夜のお誘いって訳でもないだろうに」

 俺がおどけて言ってみる。

「その勇気があるなら私の寝床に夜、入り込んでくるが良い」

 俺は黙って方をすくめて見せた。

「残念ではあるが、貴様達には死んでもらおう。ノーム王との契約により手に入れたこの力で」

 空中に浮き上がったシャムに光が集約していく。

 俺は無駄とわかりつつ、サイコガンを撃ってみると、エネルギーの壁にはじき返されてしまった。

「わ、ちょっと待った!ご飯くらいならご一緒してもいいぜ?」

 慌てて言う俺に、

「残念だけど、時間切れよ」

 シャムから光の束が四方へと照射される。

 逃げ遅れた住人や兵達がその光にさらされると、あっという間にグールへと変貌して、周囲の人達を襲いだした。

 俺は光を避けつつ、サイコガンを撃ち続けるがすべてはじき返されてしまう。

 ドラゴンもフランカーもサムスもクーガもみんな光を避けるのに精一杯だ。

 そのうち、俺たちは光の高い障壁の隅に追いやられてしまう。

 シャムを先頭に、ビボルダーとジャイアント、竜牙兵、グール、その他色々が俺たちをすっかり取り囲んだ。

「助さん、格さん。懲らしめてやりなさい!!」

 皆、俺に不審な視線を投げかける。助格と印籠が今欲しい。

 万事休す。これはグールになるしかないか。グールになって後生を美人の魔法使いの奴隷として生きるかね。まあ、会社でクソみたいな役員の奴隷として働くのとおんなじか。

 俺はサイコガンをしまうと新しい葉巻に火を付ける。

「わかった。ひと思いにやってくれ」

 ニヒルな笑いをシャムに向ける。

 シャムが満足そうに微笑み、光を放出しようとしたその時だった。


To be continude

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