5.痛い感じのかかし娘を救い出して、仲間に加える 

 俺とドラゴンを乗せて、爽やかな朝日の中をキッドは走り出した。

 森を抜けると、また一面の麦に似た植物が地平線の向こうまで豊かに実り、風に揺れている。

 しっかし、どうしようかなぁー。あの荷台の荷物。

 バニラソングを止めることも忘れて考え込む俺。

 そんなしばらく走っていると、どこからともなく、歌声が聞こえてきた。

 この一見のどかな田園地帯をしばらく進んだところで、やつは天を見上げて陽気に歌っていた。

 その麦畑に長い影を落とす、10メートルはあるかという丸太の上に、文字通り十字にくくり付けられ、とってつけたような麦わら帽子と、マンチキン達の農耕服を雑に着させられた状態で、名曲「川の流れのように」をである。

 しかも、かなりの大声で。そしてドヘタだ。

 なんで歌ってんだ、こいつ?

 太陽の光に照らされているので、顔は定かではないが、声からすると女性のようだ。

 しかも、かなり若い。っていうか、子どもか?

 ある意味、色々なフラグが立っているが、オズの国に来たからには、「案山子(かかし)」は助けるのがお約束。ちなみに「案山子」ってなんでこう書くか調べてみたら、たいして面白くなったので割愛。

 俺らの気配を察知したのか、かかし娘は、

「助けてくれー助けてくれー」

 と情けない声で叫んでいる。

 どうしようかな。

 トラブルを背負い込みそうな感じなんだけど。

 つぶやくその言葉にうなずきつつも、ドラゴンが助けてやればって顔をする。

 丸太は一抱えもある太さで地中深く突き刺さり、その10メートルほど上にかかし娘はくくり付けられている。

 どうしようかと思案していると

「おたくは、あのウイッチスレイヤーのスパイク様でねえかい?」

 見ると、マンチキンの農夫が恐る恐るこちらに近づいてきた。

「その悪い魔女をどうするんでさ?」

「悪い魔女?」

「あなた様がやっつけてくれたあの、東の悪い魔女の弟子、カーレを支配していたクーガのことじゃ」

 クーガ?あー何度も躓いたので思い出した。間違った方法でキスをすると口から弓矢を発射してくるあの神の名と一緒だな。

 その魔法使いの弟子がなんでこんなとこでかかしになってるんだ?

 素朴そうな農夫の話を聞いてい見ると、どうやら東の魔女の弟子は四人おり、東の魔女が死んだあと、跡目争いが勃発したみたいだな。

 一番かわいがられていたのが二番目の弟子のクーガで、一番弟子はそれを妬んでおり、カーレの街ごと奪い取ったそうな。

 で、魔法を封じて支配地域のマンチキン達に生け贄として差し出したと。

 魔法を封じる際に、『かかし王の呪い』というのをかけられており、その身体は布と藁にされてしまっているらしい。

 食べることも飲むことも眠ることもできないかわりに、体が燃えでもしない限り、永遠に生き続けることができるという。

 なんか、むごい呪いだな。カーレからその一帯を支配していたときは、悪行三昧だったらしいから自業自得ではあるけど。

 マンチキン達は一度はクーガを燃やしてしまおうということになったらしいが、必死に命乞いするクーガに火を付けたがる者がおらず、仕方なくここでカラス避けのかかしとして棒の先にくくり付けたんだと。

「ところで、カーレに行くにはこの道で良いのかな?」

 俺が何気なく農夫に尋ねると、

「あ、あんたがた、あんなところに行くのか?!」

 カーレと聞いて農夫の顔がひきつった。

 オズ王に会わないといけないからね。俺も自分の国に帰りたいんだよ。

「死の罠の待ち受ける街と言われておる。やめておいた方が…」

「カーレ!カーレは私の街!」

 農夫との話を聞いていたのか、クーガが話に割り込んできた。

「もし、降ろしてくれたら、カーレの街を抜ける方法を教えてやるぞ」

 上から物言う感じが気に入らんな。まあ、上にいるんだけど。

「知ってるよ。北の門を開けるには、確か4つの呪文があって、それぞれは街の権力者が知ってるんだよな?」

「な!?」

 ビックリしているようだな。悪いんだけど、俺は昭和生まれの男。小学校の頃に初版本でカーレは三度ほど攻略しておるわ!まあ、全4巻中最も難しいといわれているだけあって、一度はチートでクリアだけどw

「なんで、お前が…しかし、その4つの呪文は覚えてはいまい!それに、カーレを抜けるには幾つもの罠を…」

 おまえなんかに聞かなくても、スマホで調べちゃえば…

 俺はポケットからスマホを取り出して見た。

 あ、充電切れてるわ。キッドのシガーソケットから…アダプターがねぇ。

 それ以前に、オズの国に電波がきているわけないか…

 手のひら大の黒い板と化したスマホを握りしめ、しばし考える俺。

「なあ、私を連れて行けば、何かと役に立つぞ。今の私は魔法を封じられているし、お前達に危害を加えることもできない」

 なんか、嫌な感じしかしないんだけどなぁ。

 悩む俺を尻目に、頭上からドラゴンが飛び立つと、農夫が持っていた農作業用の鎌を奪ってかかしの方に舞い上がった。

 鋭く、かかしの辺りを飛び交うこと数回。

「わっわっ!ちょっとまっ…わぁー!!」

 ドサリと言う音共にかかし娘ことクーガが落ちてくる。

 まあ、布と藁なんだし大丈夫でしょ。

 むくっと立ち上がったクーガを見て、今度は俺がぎょっとする。

 布と藁で出来た、文字通りかかしを想像していたが、外見は普通の人間だ。

 というか、背の低い小娘だ。しかも、落下したときに農夫の格好が脱げたその姿は、ビキニにショートパンツ、膝上まである縞のタイツ、赤いスニーカー。長いピンク色の髪を2箇所で結んでいる。ツインテールって言うのか?キョロキョロとよく動くかわいらしい大きい目がこちらを見上げていた。はっきり言って俺の趣味ではない。俺は麻生久美子みたいなお姉さんが好き!時効警察最高!って、もとい、

 これが、布と藁なのか?

 俺は小娘の頭をぽふっと叩いてみた。

 うわ、ほんとだ。布に詰め込まれた藁の感触。なんだろう、この外見でこの質感、すげー気持ち悪いんだけど!!

 すると、小娘クーガはこちらを向いたまま、じりじりと後ずさっていった。

「ぎゃぁああああーーーーー!!!」

 叫ぶと同時にそのまま後ろを振り返ると一目散に走り出す。

 布と藁のくせになかなかの走りっぷりだ。

 黄色い道を俺たちがやって来た方面へどんどん逃げていく。

 面白いのでしばらく眺めた後で、

「キッド!」

 俺がおもむろに言うと、

「御意」

 キッドが猛然と走り出した。

 キッドに簡単に追いつかれ、麦畑に向かって一度跳ね飛ばされるクーガ。

「ぎゃあああっーーー!」

 布と藁だけあって軽いらしく、なかなかの飛びっぷりだ。

 そのまま、畑を走り出すのをキッドが更に追いかけて跳ね飛ばす。

 俺とドラゴンと農夫は、農夫の出してくれた香りの良いお茶をすすりながら、キッドに跳ねられ、叫びながら空を舞うクーガを眺めて一息ついた。

 数回跳ねられ諦めたのか、荒い息を吐きながら、四つ這いになって動かなくなる。

 暫くした後、とぼとぼと、後ろからキッドに小突かれながらこちらに戻ってきた。

「おう、どうした、もう終わりか?」

「お、お前なんか、私が魔力を取り戻した暁には…」

 涙目でこちらを見上げる小娘。体のあちこちから藁が飛び出しているのが痛々しい。

「暁にはなんだ?」

 キッドに目配せする。心得たもので、ドルンッ!とその自慢のN04C-WE、クリーンディーゼルエンジンを吹かす。

「あ、いえ、ごめんなさい。二度としません」

 下を向いて棒読みで言う。

 まあ、旅は道連れ世は情けって言うしな。

 こうして、かかし娘こと、クーガが旅の仲間に加わった。

 なんのこっちゃ。

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