ヘレナ  4


「ねぇ、そういえばルイーズのお姉さんて侯爵家当主だったわよね?」


 洗濯ものを干しているとオリヴィアがふと聞いていた。


「ええ、そうですよ」


 今は家から出ているし、きちんと国にも届け出ているけれどね。


 なんて、ルイーズの内心の呟きがオリヴィアに聞こえるはずがない。

 本来ならば侯爵家の娘が家を出たなど醜聞も甚だしく、貴族中を駆け巡る話題だが、それを恐れた父によって秘密裏に進められたので知っている人はほとんどいない。ほとんどの貴族の認識は、ドゥルイット侯爵家の次女はあの獣人の屋敷で見張りとして遣わされている、というもの。


 意図的に広めたそれも含めて、最初は3人にも歓迎されていなかった。


「どんな人なの?ほら、私が長女でお姉ちゃんやってたでしょ?ロビンからお兄さんの話は聞くけどお姉さんの話はないから、他の家のお姉さんてどんな感じなのかと思って」

「そうですねぇ。オリヴィアともまた違った感じなので、私の姉だけならばになりますけど・・・責任感のとても強い真っ直ぐな人ですよ。不器用な方なのでそこは心配ですけど、夫になった方はしっかりしているのできちんとフォローしてくれるはずです」

「ふぅん・・・。お姉さんのこと、好きなのね」

「――はい、幸せになってほしいです」


 照れくさそうに笑うルイーズを微笑ましく思うオリヴィアは見つめ、無駄に大きなお屋敷のある部屋の窓を見上げた。

 オリヴィアの視線に気付いたのか、窓辺にいた存在はさっとカーテンを閉めて逃げたようだ。


 主様も恋をしたなら素直に伝えたらいいのに。


 主様のほのかな想いに気付いているのはオリヴィアとアルマさんだけだ。くそ鈍感なロビンは一向に気付きもしなければ、言ってもあの主様がまさか!と信じようとしないバカだ。

 実はルイーズがもしかしたら番ではないかと、オリヴィアは密かに思っているがそれに関してはアルマさんも否定するので、それは違うのだろう。


 ま、番様が現れるのが一番いいんだけどね。


 なにを隠そうオリヴィアもおとぎ話の幸せな結末に憧れていた一人なので、自分の食い扶持は自分で稼ぐのも本心ではあるが主様と番様が出会う瞬間が見たいと期待してこのお屋敷で働くことを決めたのだ。

 そんな日が早く来ればいいのになあと思いながら、洗濯物を干し終えたルイーズと一緒にオリヴィアはお屋敷に入っていった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夜の箱庭に歌う 都築 はる @fdln007

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ