chapter1 独立魔装部隊 要塞迎撃戦
1-1 独立魔装部隊
――独立魔装部隊へ命令。伊東家領、
「――けど、人間を食うならやっぱり雌型の方がいいな」
「卑猥だな」
「違うわ。そう言う意味じゃねえよ。だってテイルがうまい。口から吸えば舌に程よい甘みがくるし、デバイスを通じた上品なテイル摂取でも全身に快感が広がるんだ。雄型のときみたいに気分がアゲアゲになるのも嫌いじゃないけどな。こないだ褒美に貰ったやつは今首輪で繋いでウチで飼ってるんだよ。今度どうだ。病みつきになるぜ?」
「いいのかー?」
「俺のお前の仲じゃないか。しっかり躾も終わってる。怪我もしねえよ」
笑顔で〈人〉の2人が談笑中。要塞の見張りである彼らは、来ることがないだろう敵を警戒しているのでそれほど危機感がない。
故に、そこに1人、人影が現れてもさしてその警戒度を上げることはなかった。それが人間であるならばなおさらだ。
人間を目にしたとき、彼らが行ったことは、それに意識を向けず自分の持つボウガンを向け射殺することだった。
「……どした」
「なんか知らない人間が見えたから、邪魔だったし殺しといたわ」
「なんでお前は、そう殺したがるかね」
「俺は虫と人間は嫌いなんだよ。特に雄型は。だから目に入ったら皆殺しにするんだ」
「こわいねー」
撃たれた男。しかし倒れることはない。
要塞の正面を望む1人の男。齢は18。この国では珍しい18歳以上の人間の生存者だ。その手には刃でできた弓が握られている。
「は?」
射殺をたくらんだ男が急に不機嫌になる。そして再びセットしてもう一度ボウを放った。
しかし殺せない。
おかしいと思ったのだ。一応このボウは対テイル攻撃用障壁を貫通する、その〈人〉の秘密兵器であり、防ぐことはできないはずだった。
「うざ」
余りに目障りだったので、怒りが湧き上がる。
〈人〉の攻撃を止めたその人間の男。
彼の名前は
「要塞のくせにふざけた見張り。この時点で攻略難易度は目に見えているな」
「ニンゲンが何か言ってるな?」
「ああ、俺のことは敵として見なくていい。本気で抵抗されない方が楽だ」
反逆軍とは。
一言で言えば京都を本拠地に置く、〈人〉に虐げられる人間を救い、守る、戦闘のプロがいる組織だ。
所属人数は訓練生1200人、実働部隊100人、幹部10人、その他事務、開発スタッフ200人。
彼らは倭の各地を飛び回り、各地で〈人〉の圧制や迫害を受けている人間の救助や、倭で唯一、人間が収めている京都の地を守る自衛組織だ。
独立魔装部隊は反逆軍に属しているものの、トップである総統のみが命令できる実働部隊。1人1人が個人の為に特別に調整された武器を使い、実働部隊では達成が難しい高度なミッションをこなす精鋭部隊だ。人間に肩入れする酔狂な〈人〉を隊長として、反逆軍の〈人〉に対する最終兵器ともいわれている。
彼らの存在は、〈人〉のネットワークでも知られており、人間ばかりの反逆軍が守る京都の地に攻めない三大理由の1つがこの独立魔装部隊の対〈人〉戦闘における高い勝率にある。
〈人〉が統べるはずだった要塞はたった20人近くしかいない独立魔装部隊の手によって攻略された。
しかし、予定よりもやや攻略に手間取り、要塞を包囲される事態となっている。
「あらあら……やだわぁ」
巫女服を着ている女子が占領した要塞の屋上で嘆いている。
反逆軍独立魔装部隊所属、
「籠城戦なんて性に合わないわ。ねえ、この建物破滅させて使えなくしてからでいいから、敵をぶち殺しながら脱出しましょうよ?」
和幸はこの女ほど、見た目の清楚さと中身の狂気が乖離している人間を見たことない。
副隊長である和幸がこれ以上バーサーカーになる前に止めようと口を開くと、さらに別の幹部から話があがる。
「なに、敵はそれほど強敵ではない。とどのつまり、われわれで籠城戦をしても問題ないということだ」
鍛え上げられた肉体、部隊内では筋肉バカと呼ばれ喜ぶデカいヤツ。独立魔装部隊所属、2期幹部昇進生、
「なら僕ら逃げるんで後よろしくです。せんぱーい」
対して幹部の中でも最も小さい男子。身長155センチで顔がやや女顔、基本的に初対面の半数が女と間違える見目ながら性格が可愛くない幹部候補が声をあげた。
「めんどいんで帰ります。雑魚なんでしょ、1人でできるっしょ?」
独立魔装部隊所属、4期昇進生、
「しかしだな。あくまでそれは皆で力合わせてということでね」
「あーあ。弱気ですか。やだやだ。これだから万千男先輩は口だけ馬鹿ですよ」
「なぬー!」
万千男と瑠唯が喧嘩になりそうなところに、
「なぬー、じゃねえよ。口だけ馬鹿」
3期昇進生、魔装部隊でオレンジという髪色をしている倭出身の坊ちゃん、
「きさまらぁ!」
まとまりがなくなってきたので、副隊長はいよいよ痺れを切らして、隊長から承っている方針を伝えることに。
「うるせえ! いい加減にしろよてめえら。とにかく敵を釘付けにするか撤退させるかしない限りは帰れないんだよ! 腹決めろ!」
「えー」
瑠唯の文句を、和幸は黙らせる。
「何か?」
「うわ、こわ。なんでもないでーす」
「それでいい。新入りは素直が一番だ」
そして目の前の自分の後輩たちに指示を出す。
「杠はここで待機。万千男は付近を防衛しろ。俺と、他2人は出撃、この要塞に近づく連中を可能な限り排除する。部下は隊長の護衛3人を除いて好きに使え。俺は東側、瑠唯と高貴は北だ」
「え、俺アイツと組むの?」
「当たり前だ。新人の面倒を見るのは、てめーの役割だ」
高貴の一言に、ここぞとばかりに同意する瑠唯。
「いやです。アイツ嫌いなんで。だって弱いと思うんすよね、僕より」
しかし、その内容は完全に高貴に喧嘩を売るものだった。
「副隊長ぉ、瑠唯ここで死ぬかもしれない。俺の手によって」
「ふざけんなクソガキ! ただでさえ幹部は4人増えても1年以内に3人脱落する職場なのに、これ以上減らすなボケ!」
「俺もアイツ嫌い。部隊の平和のために、ここで処分しておこうぜ」
和幸は言うことを聞こうとしない部下と、今にも瑠唯に襲い掛かろうとする万千男、そして防衛に不服を示す杠を見てぶちギレる、
「とっとと行けぇ!」
さすがに副隊長が怒り心頭だったことを察した部隊のメンバーは渋々、和幸の言う通りに、各々の仕事をするためこの場を去った。
「クソガキどもめ」
文句を垂れ流しながら和幸も、要塞の周りに広がる廃街へと向かった。
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