1-2 各幹部隊員の迎撃模様

 夜。特に関係のない情報だが、星が綺麗に見えるくらい晴れている。


 要塞の敷地の外には、壊れた住居ばかりが数多く存在している。廃街という表現が最も適していると思われる。


 敵の接近は未だ確認できないものの、瑠唯と高貴は廃街の中を走っていく。


 しかし、その道中はいくら敵を引き付けるためという言い訳があったとしても、その言い訳が通らないほどにバチバチに戦っている。


「待てよぉ」


 高貴は目をガン開きしながら瑠唯を後ろから攻撃している、両手に全自動小銃型の光弾銃を持って、瑠唯に攻撃を仕掛けている。自分のテイルをできる限りセーブしながら瑠唯を仕留めるべく攻撃する。


「泣いて喜べー? 先輩が遊んでやるんだからさぁ」


 テイルを使った遠距離攻撃は、弾速、威力は想像によってどうにでもなる。旧時代とは違い、銃が最も強い遠距離武器というわけではない。この時代ではそれぞれの道具の特徴によって使い分けられている。


 道具を使わない分コストが安く済む、光弾を直接空中に出して撃ち放つ方法、長く弦を引けばひくほど高い威力を実現する弓矢、そして銃身自体のコストが高い代わりに、弾丸に様々な特性を付加できる銃の3種類がよく使われるものだ。


 自動小銃を使う高貴は、自分から放つ光弾に追尾機能を設定している。これにより弾道は曲がり、直線だけではなく、やや遠回りの弾道を描きながら別角度から瑠唯に襲い掛かる。


 弾丸にはもう1つ、任意のタイミングで減速したり、停止したりできる特性を付与しているため、その調整によって、多方面から同時に光弾が襲い掛かることもしばしば。


「いたいいたい」


「痛いなら倒れろよぉ!」


「ニコニコしながら後輩いじめとは、人間性を疑いますー。さすが先輩、外道さでいえば〈人〉の皆さんよりも優秀」


「うぜえな。もう少し撃つか」


「そろそろ待機地点ですよーやめてくださーい」


 ライトブルーの障壁を展開しながら、弾丸を防いでいたが、その攻撃に耐えきれずいよいよ瑠唯の体に光弾が直撃する。


 しかし、彼は全く傷を負わない。弾丸はまるで何もなかったかのように貫通していく。


「てめえ、何か使ってやがるな」


「当然ですよー、だって先輩ごときに殺されたくないしー」


「先輩がわざわざこうして遊んでやってるんだから、泣いて、敬いながら倒れろよ!」


「きもー。その笑顔、一生モテないだろなー」


 口喧嘩をしながら、2人の攻防は続く。


 実は敵はすぐに迫っていたが、その光景を見てその狙いが分からず、並みの兵士では手を出せない状況となっていた。



 


 和幸は単騎で、テイルによって実体化させた刃の弓を使い、矢は撃たず敵を斬ることで、使用テイルを節約しながら敵を葬り続けていた。


「さて、狙いは本家レベルの敵だが、どうもこっちじゃないっぽいな……雑魚しかこねえ」


 要塞を少人数で落としたのは、言ってしまえば『俺たちはそこらの雑魚とは違うから強いヤツが倒しに来い』と言うアピールでもある。いくら雑魚狩りをしても、敵の数は膨大であり、そうすぐには数が尽きたりしない。故に、総大将を討って、士気が低下した兵士をこの要塞から撤退させるのが今回の狙いだ。


 独立魔装部隊は少数精鋭と特殊な武器による通常の人間を圧倒する攻撃性能が特徴。反逆軍の通常実働部隊とは、そもそも相手にする敵や必要とされる場面が異なる。特に〈人〉の中でも領地を管理する一族は強者である傾向にある。そのような強敵を相手するのも、独立魔装部隊の役割だ。


「さて、もう少し敵が片付いて、エネミーがここの侵攻を諦めたら――」


「ああああああ!」


 何者かが空から吹っ飛んできた。


 その人影をよく確認すると、味方だった。


「どうした!」


 それは本来、戦場には出ていないはずの部隊長の護衛だった。


「誰にやられた!」


「た、隊長に……!」


 和幸の頭はいったんフリーズする。


 信じられない言葉を聞いた。


「何?」


「そのぉ、大変悪い夢をご覧になったらしく、スカッとしたいからホームランされろと仰せになって、俺をここまでぶっ飛ばしました……」


「はぁ?」


 和幸が横暴極まる隊長の野蛮な行為に言葉を失っていると、


「あああああああ!」


 同じような声を出して情けなく飛んでくるのは同じように、隊長の護衛を負かせていた部下だった。


「どうした! 誰にやられた」


「た、たいちょうに……」


「はぁ、またか! またホームランか!」


「そのぉ、おやつのポテトチップスが割れていて苛々したからぶっ飛ばさせろって言われ」


「は……?」


 和幸の顔は目に見えて、不機嫌になる。目にしわが寄っている。


「おぃ……!」


「あああああああ!」


 そしてそこに、さらにもう1人、同じように吹っ飛んできた者がいた。その存在の正体は、もはや言うまでもない。


「どうした!」


「た、隊長に……」


 和幸が大変激怒した様子で舌打ちをするのを見て、部下3人は思った。『オレら死んだ』と。


「あんのぉ……! クソ隊長ガァアアアアアアア!」


「ひいぃいい」


「ふざけやがってぇ! このクソ忙しい時にぃ!」


「あ、副長、後ろ……!」


 和幸が大声を出した瞬間、それを見計らったかのように敵が10人以上、同士討ち覚悟で一斉に攻撃を仕掛けてくる。


 しかし。


「ああ……? 俺は今」


 和幸は敵を見ることなく、右手に着けていた指輪型のデバイスに必要な量のテイルを装填する。


「機嫌が……悪いんだァア!」


 そして次の瞬間。


 敵を皆巻き込む暴風と共に風の刃が発生し、敵を一掃したのだった。


「すげえ……弓を使わずして……」


「当たり前だ。こんな雑魚にコストの高い弓なんか使ってられるか。それより隊長に、ふざけたこと言ってないで手伝えと言ってこい! クソが! ともな」


 部下を置いて再び任務に戻るため廃街を駆ける和幸。


 しかし部下は思う。


 言ったら殺される……と。 





「独立魔装部隊か……」


 覚家からの援軍が到着し、覚家本家最強と呼ばれる次期当主の戦闘隊長が要塞陥落の報告を聞いている。


「ふん、人間如きに無様を取りやがって。貴様らの処分は後だ。ここからは俺が出る」


「どちらへ」


「まずは真っすぐこっちに向かっている2人組から片付ける。〈人〉である俺達を舐めた人間のゴミ風情は俺自ら、罰を下さねばなるまい」


 覚家の次期当主である彼が、不敵に笑い、己の武器を確認する。

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