三限と四限の間
更衣室で制服から体操着に着替え終わり、体育館に向かうところで、一人寂しく歩いていた藤ヶ谷君を見つけた
私は小走りで彼の後ろに近づいて話しかける
「覗き魔っているじゃないですか」
あまりにも唐突であり犯罪がらみの内容だったのか、いつものように聞き流してはくれずにバッと私の方を振り向いた
「相も変わらずいきなりだな。更衣室にでも出たのか」
「出たらもっと面白くなってますよ。いえ先ほど、もし私が覗くならどこから覗こうかなって思いながら着替えてたんです」
「うちの学校、更衣室が二階にあるから難しいんじゃないか。誰もいない間にカメラでも仕込むのか。女子のお前ならできそうだな」
「それじゃ盗撮ですよ。やるのは覗きです」
「どっちも同じような気もするが」
「男なのにその二つを同列に語るのですか。いいですか、覗きはその一瞬を肉眼で見て、心のカメラで保存する行為です。手を伸ばせば届きそうな場所にある美、美しく弾む肉体、バレるかもしれないスリルとの隣り合わせ、言わば覗きは芸術鑑賞なのです。翻って盗撮は、画面越しじゃないですか、生の感動を超えることはないですし、安全地帯から欲しいものだけ得ようとする考えが好かないんですよね。ぶっちゃけ学校に盗撮用のカメラを仕込むくらいなら、普通にAV見ろって話ですよ」
「……そうか」
少し長々と語りすぎて、大体の話は普通に聞いてくれる藤ヶ谷君ですら、数歩私から離れている
「まぁ話を戻しますけど、もし私が覗きをするなら掃除ロッカーに潜みますね。私結構小柄なので、中身さえどこかに片付ければ長時間入っていても大丈夫そうですし」
「長々と語っていた割にはオーソドックスだな」
「藤ヶ谷君ならどうします?」
「…これで俺が案を出したら、問題ではないのか」
「考えることと実行することは別ですよ。ほら、中学生の頃よく考えませんでしたか、クラスメイトをどうすれば皆殺しにできるかとか」
「時々お前って、俺より闇が深いよな、俺もそれなりのつもりなんだがな。そうだな、俺の体格的にロッカーは無理だろうから、無難に窓からだろうけど、あそこの窓の外は木とかないからな、だが逆に言うならば遮蔽物がないともいえる。屋上から双眼鏡でも構えるかな」
「あー、残念ながらそれは無理ですよ」
「別に残念でもないが、なんでだ」
「更衣室を利用するときって必ずカーテンを閉める決まりなんですよ。覗き対策で」
「なるほど。なら俺にはもう案はないな、別になくても一向に構わないが。…あ」
「どうかされました」
「いや、何でもない。ただ、もう一つ覗きの案を思いついただけだ」
「ほう、何だかんだ言いながら興味あるんじゃないですか。誰にも話しませんから、私に教えてみてくださいよ」
「さっきまで前提が更衣室だったからあまり思いつかなかったが、運動部、特に水泳部なんかは覗こうと思えば覗けそうだな。プールの周りには木とか生えているし、そこと併設している更衣室ならいけそうだな」
「おぉ、今日の放課後試してみます?」
「お前一人でやってろ」
呆れたように大きなため息をついた藤ヶ谷君は、いつもの覇気のない目で私を見る
「大体、好きでもない奴の着替えとか見て何が楽しいんだ。お前の着替えならまだしも」
「…へ?」
「男子は校庭だから、それじゃあな」
「ちょっと待ってください藤ヶ谷君。今のどういう意味なんですか」
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