JOHNs Report『今の世界情勢』
話の途中であるが、今の世界情勢について多かれ少なかれ説明しておきたい。あくまで、僕が知る範囲で、だけどね。
2038.09.12 ジョン・ヒビキ少尉 記
本著は僕が知る範囲の世界情勢と、それを少しでも良くしようと動き、散っていった仲間についての本だ。
二〇二八年 (今からちょうど一年前。そしてこの項を書いてる月と同月、同じ頃だな)、ヴィクター・バーンズが武装蜂起した。
蜂起の演説はロサンゼルスのスタジアムが占拠され、行われた。元特殊部隊員の彼は数多くの同志とともにものの見事にスタジアムを乗っ取った。聞く話だと侵入から制圧まで一〇分も満たなかったらしい。
スタジアム内ではフットボールが行われていた。屈強なフットボール選手も、バーンズ一派が恐ろしい形をした銃を振り下げ、威嚇のRPG弾頭が射出され、そいつがスタジアムの奥の巨大な液晶ディスプレイを木っ端微塵に破壊すると、伏せて縮こまるしかできなかった。
バーンズが連れてきた戦車の上で高らかに立ちテレビ局のクルーを手招きし、呼ぶ。
フットボール選手と同じように恐れおののいた彼らは、大人しくバーンズに従うしかない。
バーンズの演説はアメリカの隠蔽されたことについての暴露放送だった。アメリカ全土に、そして世界にバーンズの演説は放送された。
「いよいよ嘘だらけのこの国に、一矢報いる時が来た! 私はバーンズ! ヴィクター・バーンズである! この国に忠誠を誓い、そして裏切られた。さて、カレンダーを三年前に戻そう。このアメリカのジュノー市で起きた事件だ。そう、『隕石落下事故』。政府はそう言っているが……皆さんには知っていただきたい! それは大嘘であると! アメリカが極秘裏に開発している兵器でテロリストの潜伏しているジュノー市を焼き払ったのだ!」
演説しているバーンズの目には、……これは僕の主観ではあるんだけど、憎しみ、失望、そして悲しみが混在していたかのように見えた。
「私がこうやって行動しているのには理由がある。ジュノーには私の妻がいた。腹には私の子供もいた。しかしそれは全部無となった。
ジュノー市では隕石の落下事故というのがあった。それはアメリカ政府が開発した衛星兵器『D.A.S.T.O.』によるミサイル、レーザー爆撃だった。
ジュノー市に
「しかしこれは始まりに過ぎない! この兵器『D.A.S.T.O.』にはあらゆる地域にも攻撃できるという話がある。国も民族も関係なく葬られる危険性のある兵器なのだ。そう、今ある生活がこの『D.A.S.T.O.』によって恐るべき危険に晒されている! だから私は自ら危険を冒してまで、たとえアメリカという強大な存在を敵に回してでも皆さんの安全を守るべく、この地を乗っ取った!」
バーンズは険しい顔で、テレビ局の持つカメラに指を突き出した。放送に向けて、という意味合いを含んだジェスチャーだったのだろうが、それだけの動作でカメラマンは恐れたように後ずさった。
「そしてアメリカ政府! もうお前たちに居場所はない! 今、全土のあらゆる地域、あらゆる場所で、
バーンズはカメラから目を逸らし、正面を向いた。
「よって我々は! このロス・アンゼルスで! アメリカ政府に宣戦布告を宣言しよう!」
そう宣言するバーンズ。静まり返ったスタジアムで、客席から徐々に歓声が上がりやがて『全部』を熱狂に包んだ。
これが事の始まりだった。アメリカでは各地で暴動が起こり、他国からの支援供給は全停止、アメリカは崩壊の一途を辿った。
僕がこの一連で不思議だったのは、証拠の薄さだった。なにしろバーンズの演説には証拠が一切なかったのだ。事実がどうあれ、ジュノー市の災害をアメリカが開発した兵器によって行われたという証拠はなかったし、それによって起こったと決めつけるには如何せん軽薄すぎた。
しかしテレビ映像の中のバーンズは、まるで僕ひとりの心の内に語りかけていると錯覚するくらいに真剣だったし、おそらく全世界の人びとも同じであろう。
これもバーンズの持つカリスマ性ゆえのものなのか、それとも国へのヘイトが溜まった人たちによるものなのか、あるいは両方か、それは僕にもわからない。
アメリカ国内はしばらく大荒れとなった。今までの鬱憤がたまった人、バーンズの放送に同調した人、ただただ暴れたいだけの暇人、多くの人が『破壊』と『殺戮』を繰り返した。
暴動は三ヶ月続いた。なんとしてでも暴徒を鎮めたいアメリカ政府は二社の民間軍事会社を頼った。
僕が元々居た『ブラック・マリーンUS』社と『スモーキング・ドッグ・カンパニー』だ。
暴動はやがて徐々にだが収まっていく。中でも国内に留まり続けたバーンズを退けたのは、『ブラック・マリーンUS』社の中年の兵士だった。
月のような銀髪を持ち、悪霊のような形相で敵を追い詰める彼はこう呼ばれていた。
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