Section3『二丁拳銃の自警団』~時系列『現在』~

 結論から言ってしまえば、カイルが煙草を吸い終わる頃には暴徒たちは地面に突っ伏して倒れていた。


 予想通りだったが、あまりの拍子抜けな結末にジョンは嘆息した。


「こんな結末になるくらいなら最初から挑むなっての」


 カイルも同感だったようで深手を負い、ただ倒れ呻くしか能のない屍どもに怒りを吐き捨てる。


「……まるですぐやられるクセにしつこさは天下一品なゾンビだよね」


 ミラが苦笑しながら呟いた。本当に、笑うくらいしかできないといった感じだ。


「ゾンビは違うだろ、奴らは肉を食うという生存本能があるからいいのさ。こいつらは、ただの暇人だ」


 ジョンがそう返して暴徒の一人の鳩尾(みぞおち)の部分を手加減しながらも、爪先で突いた。

 暴徒は「あぅ」と間抜けな声をあげ、吐瀉物を口から吹き出す。


 追撃するのは、反応を楽しみたいサディストなジョンの趣味でもあるが、暴徒に精神的にドールズを上位に立たせるためだ。

 上位に立たせることで今後二度と、喧嘩を吹っかけさせないための処置を施しているのだ。


 それでも、タケイを殺した報いとしては軽すぎる処置だと思ったので、ジョンは踵を使い、暴徒たちを先導していた男の股間を潰した。

 もうこの男が身体的に男性として機能することはないだろう。


「フォーエヴァ、ヴィック!」


 集団の声が耳朶を不快に打ったのは、その時だった


 路地の向こうでまた新たな暴徒が、火炎瓶や鈍器を振り上げこちらに向かってきていた。


「本当にしつこい!」


 ミラが呆れ果てたような声を上げる。


「……どうする現場司令? おれは逃げた方がいいと思うがね?」


 カイルは戦ってるうちに仕事モードに入ったのか、ジョンを現場司令呼びで問うた。


 ジョンは考える。タケイの死への怒りの発散をしたいのは山々だが、今はそういった私情よりも逃げるほうが現実的な見方だと思う。


 よって――


「ここは逃げ――」


 言いかけて、鋭い破裂音が耳を刺した。

 パンという音だったので銃声だと認識した時に、先陣をきって走り寄ってきていた暴徒が次々と倒れる。


 ジョンは銃声のしたほうを見る。カウボーイハットを被ったシルエットが民家の上にそびえていた。

 その男の両手には二銃身(ダブルバレル)散弾銃(ショットガン)が握られてある。


 男は民家の屋根から飛び降り、向かいのアパートのベランダの手すりを蹴り地面に着地する。

 三人のドールズの前に立った男の肩には、「SDC」という文字と、煙草を銜えた犬の顔がカートゥーン調の絵で描かれてあった。


 スモーキング・ドッグ・カンパニー……。ジョンにも聞いたことがある警備会社だった。元は民間軍事会社として名を馳せていた企業だったらしい。


 カウボーイハットの男は手をパっと離し、両手に持っていたショットガンを捨てる。

 そして両腰のガンベルトにセットされてあった回転式拳銃(リボルバー)を抜いて、同時に構えた。

 それは二丁拳銃(デュアルペニス)という古き時代のハリウッド映画ならまだしも、戦場でやるには実用性は皆無(ゼロ)に近い特異な技術だった。


 しかし、男はその二丁の銃を匠(たくみ)に使い分け、暴徒たちを倒していく。

 使い分けもそうではあるが、ジョンが目を引いたのは再装填(リロード)の無さだ。


 男はリロードをせずに無限に射撃をしていると錯覚するほど、リロードが早かった。


「逃げろ、ドールズ。ここはおれが引き受けよう」


 SDCの男がワイルドな声で言う。


「助かる!」


「あー、ありがとう!」


 カイルとミラが言い、最後にジョンが、


「……ありがとうございます」

 と礼を言った。


 ジョンは手前にあったドアを蹴り破り、建物の中に入った。屋内なら人目につかず、安全に移動ができるという考えだった。


「あいつ何者だろうな……」


 カイルが言う。ジョンも同感であった。


「知らなーい。でも、ヒーローみたいで格好良かったなぁ……」


 ミラがうっとりと甘いため息を漏らした。


 ああいうやつがタイプなのかというツッコミはともかく、ジョンは違和感を感じざるを得なかった。


 あのSDCの男が去り際に放った余裕のある声と、その気になれば神ですら相手にしてやると言わんばかりのあの眼だ。

 その老化を感じさせる濁った目には、しかし熱い闘志が宿っているようにジョンには見えた。

 あの大人の物腰は何から来るのだろう。何が彼を気配だけでも凄味が伝わるような大人に構築させているんだろう。

 そう思って、ジョンは何気なく中東で出会った敵・バーンズを思い出していた。出会った直後、気絶させられたのではっきりとは覚えてないが、彼の持つカリスマ性と野性的な凄味は否応なしに伝わった。


 そして思う。あのSDCの男とバーンズは、似た存在なのか? と。


「どうしたの? ジョン」


 ミラに問われ、ジョンの思考は中断された。


「いや、なんでも?」


 取り繕い、ジョンは移動に集中した。

 今は暴徒から逃げている最中だ。考えるのは後回しにしよう。

 そうは思うが、やはりジョンの脳裏のどこかには彼の気配を消せなかった。





 ジャック・フリンは二丁の拳銃で器用に全部の暴徒を排除した後、通信機を取り出しSDCの司令部に連絡をした。


「こちらフリン、エリアツー・スリィを制圧した」


〈了解。引き続き警戒しろ〉


 司令部からの返事を聞き、無線を切る。

 そして別の通信機を取り出した。

 SDCとは違う、『本業』の方の無線機だ。

 コールボタンを押し、無線に息を吹き込む。




「フリンです。例のドールズたちを助けました。……はい、その三人です。えぇ、私は大丈夫ですよ。……はい、……はい、では後ほど……ヴィック・バンのアジトで……ボス」

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