EpisodeⅠ『理想郷-Utopia-』
Section1『現状と希望』~時系列『現在』~
テディ人形を抱いた可憐な少女の顔面に金属バットが突き入れられた。
少女が母親らしき物言わぬ体のすぐ横に倒れ込む。
その横で本当に即席で作ったと思われる安っぽい火炎瓶を手に、暴徒が四人駆け出していった。
「ヴィック、フォーエヴァ! ヴィック、インフィニ!」
集団が群れを作り、その中の誰もがカルト宗教の教徒のように呪文を唱えていた。
逃げ惑う女子供はすべて服を引き裂かれ、身も心も蹂躙された。
彼女らの骸のすぐ頭上のビルは窓ガラスが割れ、大して機能してないようだ。
警備隊はバリケードを張り、迫り来る暴徒に電撃銃(パルスショット)で黙らせている。
「負傷者の手当を!」
「リロード!」
「カルトどもめが……」
「増援、なにやってんの!」
機動隊の面々はほぼ悲鳴に近い声音で飛ばしていた。
これが今のアメリカ。もう、ホットドッグをかぶりつきながら街を見て回ることも、薄汚い浮浪者(ホームレス)にいたずらすることも、遠い昔のようだった。
ああいうバカどもに入り混じって革命ごっこするのも楽しそうだが、アメリカを守る僕らはそうはいかず、ただ外の景色を眺めながらスカトロビデオを見ながら薄汚いイチモツをシゴイたり、そのすぐ隣でマクドナルドのバーガーをかじりながら「うわ、汚い」とか言ったり……ああ、もう!
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ジョンはスピーカーから流れる汚らしい排泄音で、パソコンのワード作業を中断した。というより、せざるを得なかった。
「うるさいですね! そんなにクソに興奮するのか? えぇ?」
思っていることを叫ぶ。
排泄物を放り出す女優でマスターベーションをしていたカイルは、
「だってよー。神秘だぜ? こんなカワイコちゃんがクソするところなんて……おお、今度は一本糞だ!」
と言ってオナニーを再開した。
ミラはミラでチーズバーガーを齧りながら、「カイルばっちいぃ……」とか言いつつもホログラムのテレビを見てもぐもぐと咀嚼している。
こいつら、本当におかしい。ジョンは改めてそう思った。
「ンァァ、イキそっ」
カイルは凄まじい速度で手を上下させる。
射精するまえに、この部屋から退室しようとジョンは動いた。
「どこいくのー?」
ミラがバーガーを食べ終わり振り返る。
「屋上に行きます! お前ら、本当に頭おかしい!」
「おれもイクぞ! ん、ンァァァ!」
ジョンは急いでドアを開け、部屋を出た。
屋上に続く通路を歩いてるところで、ジョンはとある部屋の前に止まった。
立体映像式のネームプレートには「WILLIAMS」の表示が出た後、「退去」の文字が切なく踊っていた。
「フィオラ……さん」
元ドールズのメンバーでカイルとは、同じ狙撃手として良いライバルだった凛々しい少女の名前をつぶやく。
ジョンもなんだかんだで彼女のことは慕っていた。婚約者のエリザベス・パークスが居なかったら、彼女を選んでいたと確信するくらい。
彼女はドールズを裏切った後、バーンズ側の組織についた。裏切りの理由は「アメリカの現状に辟易した」とのこと。
隊を退く時に彼女はジョンにこう言う。
『ジョン、なるべくクールな判断で隊を導いて。あなたはとてつもない可能性を持っているよ。その気になれば国が動くみたいに』
ジョンはその言葉の理解ができなかった。しかし強く頭には残った。
屋上に出ると、自販機でペプシコーラを買った。
遠くから群衆の轟きがこちらまで聞こえてくる。
「まったく……」
ジョンはうんざりして遠くの群衆を見た。セントラルパークの向こう側でまた一つのビルが炎上していた。
「暇人どもめ……」
機動隊や雇われ自警団のバリケードに包まれた安全地帯(ようさい)。
ここがドールズの本拠地だった。
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屋上から自室に戻ると、チーズの甘ったるいニオイが鼻孔についた。
ジョンはもしやと思い、廊下を渡り部屋に行く。
ミラがソファにくつろいだ様子でチキンカレーピザを食べていた。
「お前なぁ」
ジョンの声でミラはにししと笑う。
「さ、食べて食べて! ジョンの分も取っておいたから」
ミラは我が物顔でソファに沈み、油の塊を口に運ぶ。
ジョンは渋々、ミラの隣にドスンと座り、宅配容器の上のチーズの硬くなったピザを取った。
それを一瞥して、勢いよくかじりつく。
「美味し?」
ミラは聞いた。
「冷めてるけど、なかなかだよ。おまえの健康状態の方が心配でな」
「なんでさ?」
「バーガーの後にピザとか、もはや最強コンビだろ」
「あの時はエロビデオのせいで味わえなかったの!」
「カレーピザ食ってる時にスカ話はエヌジー」
他愛もない話をしていると、ジョンの懐の携帯端末が振動した。
取り出し、ホログラム情報を引き出す。
「あ、あたしの携帯もだ」
ミラはピザを食べながら首に下げてある携帯を片手で取った。
ホログラムにはこう書かれてあった。
『バーンズがまた動いたわ。できるだけ急いで司令室に来て。アンジェリカ・クラーク』
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