Prologue『火種-Burns-』

Section1『招かれた者たち』~時系列『現在』~

 中東の某国。環境破壊のアオリを喰らい一面の砂漠と化した広大な地帯に、かつての豊かだった時代に縋りつくように寂れた街が息づいていた。

 砂を含んだ風が舞う閑散とした風景に、幾ばくかの緊張が漂う。忍び寄る嵐の気配を避けるべき守りは存在しない。

 何も知らずに日常を送る住民たちの間で、一匹の痩せっぽちの猫だけが敏感に薄暗い路地へと走りこんだ。

 この街は、テロ組織『ヴィック・バン』の隠れ蓑だと噂されている。


 欠伸を噛み殺しつつ、ターバンを巻いた一人の男が砂埃にくすんだ門扉に向かう。

 ちょうど、夕日が地平線へと沈んでいく所だった。警備のためのAK突撃銃とともに、しばしの休みをようやく得られるのだ。

 ドアに手を掛けると、建て付けの悪くなった扉が反抗する。ひとつ悪態をついて扉を蹴飛ばせば、中の誰かが罵倒を返した。

 仕方なく、男はおもむろにデザートカラーのカーゴパンツから『GARAM』と洒落た書体で表記された潰れた箱を取り出すと、煙草を一本、咥える。

 マッチを擦り、火を煙草の先端に近づけた。男はそのしばし、煙草に火を付けることばかりに集中していただろう。


 瞬間、男の体勢が傾いだ。


 直後に首筋から血を噴き出して、男は倒れる。建物の中がにわかに騒がしくなり、いくつかの声が男に叫んだ。


「敵襲かよ!?」


「待て! 開けるな! すでに近くまで来ている!」


「ちくしょう! いったいどこから接近しやがった!?」

 男は応えようとしたが、苦悶の表情を浮かべるのが精一杯だった。

 もがくように銃創に触れた指が最後の力で扉へと伸ばされて、四本の赤い筋を引く。


 赤い筋に沿ってサプレッサー付きの狙撃銃を動かした後、事も無げに男は照準器から目を離した。

 傍らの少女が面白くもなさそうに呟く。

「ヒット。一時の方向にもお馬鹿さんが一人。カイル、お願い」


 野球帽を被り、戦闘服に身を包んでいるのが先ほどの狙撃を行った男。


「了解だ、ミラ」

 ミラとよばれた髪色を赤く染めた少女は、隣で敵の動きを見定めようとしていた。

 カイル・カーティスは伏射姿勢で狙撃銃を構えていた。後頭部には機械らしき端末が鈍く緑に発光している。

 彼はヘルメットを外しつつ肩を揉んでいる歩兵を同じく殺傷する。

「ヒット、見張りは全部片付いたよ。後はあたし達が突入するだけだね」

 カイルはふぅと息をつき、狙撃銃のタクティカル・バイポッドを畳んだ。

「一分三十秒くらい休憩だ、ミラ。装備のチェックは済んでるな?」


「もちろんだよダーリン。もう全部終わってる」

 ミラが微笑みつつ自信あり気に言う。

 カイルは流石だな、と短く言い、そのまま地面にバタンと倒れた。


「ダーリン……」


「ちょっと寝る。時間来たら起こして」


 あと一分そこらで休憩は終わるのだけど、とミラは口を尖らせる。


「おれたちは三十秒睡眠の訓練をしただろう、おやすみ」

 まったく……とミラは呆れ顔。


 一分後、カイルは目を開くと反射的に身を起こした。

 水筒の水を飲み、適量を頭から被る。

 周囲に視線を流すと、ミラと一人の青年が何やら話している。彼はジョン・ヒビキ。日系の子供みたいな顔立ちの、この部隊の現場司令官。

 ジョンはカイルよりいくつか歳下だったのだが、その才能が見込まれ部隊を指揮することとなった。

 カイルは最近、それが気に入らない。


 ジョンは起きたカイルに気がつくと、突然大股で近づいてきた。顔には静かな怒りを滲ませながら。


「結構なご身分ですね、おたく! 作戦行動中に居眠りなど」

 彼にはカイルがスリープに入ってることが気に入らないみたいだ。


「うるさいよ。今は休憩時間だろう」

 突っぱねるカイル。彼にはまるで反省する気などない。


「ドールズ入隊の時の規約を読まなかったんです? 『作戦行動中、如何なる時間であっても警戒を怠ることを禁ず』!」


 それを聴いた瞬間、カイルの怒りが臨界点を突破した。ジョンの胸倉をおもいっきり突き飛ばし、吐き捨てる。

「お前がターゲットを隠すからイラついてんだろうがよう!」


 この作戦は通常なら考えられない作戦だった。

 現地に赴く前、少佐から伝えられた作戦指示はここに来て数名のターゲットを狙撃して来いという内容だけだった。

 ターゲットの顔、名前、性別さえも明かされなかったのだ。その秘匿性から二〇一一年に暗殺されたビン・ラディン並みのビッグネームだということだけは想像がついたが、こういう任務は危険極まりないのが定石だ。

 ゆえに神経質にもなる。


 突き飛ばされたジョンは、当然の事だがますます腹を立てた様子だ。

「あなたさ……!」


 ミラが二人の間に割って入った。

「ジョン、よしなさい。あなた現場司令でしょう?」

 彼女の言うことにジョンは口を噤む。

 ほら見ろ。カイルはそう思い、ジョンに対し人差し指で首を掻き切る仕草をした。

「おたくもですよカイルくん、少しはジョンに心を開いたらいかが?」

「はぁい」


 向き直った元カノにそう言われ、カイルはわざと小学生のような生意気な相槌を打つ。

 ポケットから噛みタバコを取り出し、口に放る。


「では、作戦について説明しますよ」

 咳払いをした後、現場司令殿は会議を開始した。


「今回の僕達の任務は世界で約一億人もの支持者を持つ国際テロ組織『ヴィック・バン』のリーダー、ヴィクター・バーンズの暗殺。彼はここ中東に四十時間前に入ったとの情報が出ています」

 それを聞いたカイルはしばし丸くした目を瞬かせ、正気に戻ると「ジーザス!」と呟いた。

 ジョンはホログラム端末を取り出すと、テロ組織のリーダー、バーンズの人物像を表示させた。


「彼は爆発的な感染力を持つウイルス兵器の取引をここで行うそうです。ウイルス兵器『ズメウ』を入手した後の彼の目的は恐らくリ・アメリカの浄化。つまりアメリカ全土にこのウイルスをぶち撒けると言うことです」

 カイルは噛みタバコをくちゃくちゃ噛み最後にそれを吐き出すと、

「今夜で長い間アメリカを苦しめてきたろくでなし野郎を地獄へ叩き落とすということだ」

「そうです」とジョン。


「同時にズメウ・ウイルスも抑えないといけない、か? ことはシンプルではなさそうだ」


「できますか?」


 カイルはすぐには答えず、脇に置いたアタッシュケースを蹴り開けた。そこには見たこともない狙撃用らしき小銃が収められている。

 エネルギー・スナイパーAS……通称『レジェンド』と言う名の、弾を粒子で放つスナイパーライフル。カイルは燃料AとBを交互にセットした。


「おれたちがやるしかないだろ、行くぞ青二才野郎」

 ジョンの問いにフッと笑いながら答えると、レジェンドを背中に背負いカイルは踵を返した。


 ラベリング降下する地点へ向かいながら、カイルはふと背中……後ろ首に手を回した。ごてっとした無機物の感触が手袋越しに感じ取れる。

 SDI……スピリットデータ・インターフェースと称されるインプラント手術の産物だった。

 彼らは戦闘用に遺伝子調整を受けて誕生した……所謂デザイナー・チャイルドだ。

 このSDIからは彼らの体力、精神力、その他のバランスを均等し今の状態を見る。負傷してるなら黄色に発光、致命傷を負っている場合は赤に点滅する。死亡、もしくは体力は十分でも精神的に再起不能とSDIが判断したならば発光が消える。

 そうしてSDIの色を仲間と確認し合いながら戦場を駆けていく。

 彼らのようなSDIを埋め込まれた被験体は人形ドールという。


 そして彼らの所属する特殊部隊は人形たちドールズと呼ぶ。



 カイルは双眼鏡をこの地帯では比較的新しい邸宅に向けている。バーンズが潜伏している豪邸だ。

 男が一階の応接間でその巨体を高級ソファに沈めている。カイルがレンズの中央のカーソルをその巨漢に合わせると、男の名前とともに人物像プロファイルが表示された。

 ヴィクター・バーンズ ――――暗殺対象(ターゲット)


「ビンゴ、あれがバーンズだ。ここから狙撃もできるが、どうする? 少尉殿」

 カイルが隣で同じく自分の双眼鏡で邸宅を見ているジョンに問う。

 しかしカイルはこの場所からの狙撃など大反対だ。

 夜間とはいえこの場所からだと如何せん目立ちすぎるうえに、バーンズほどの男が非常用の対策のしてないとも思えない。

 カイルが彼にそう聞くのは、どれほどの男なのか見極める為だ。なにせ現場司令は隊員の命を背負って早く、そして確実な判断力が要求されるのだから。


「冗談は顔だけに。今彼を守っている窓ガラスが防弾とも限りませんので。色々不安があります。同じ理由で、マップに印をつけるのも禁止です」


「ほう? なぜだ」


「奴らはアメリカを一度滅ぼし、そして歪ませた組織です。こういう作戦は慎重かつ大胆に動かないと失敗しますよ」


 彼はカイルを見やり、

「僕が心配なのは印を付けることで、奴らが逆探知をしないのか? ということです」


 ほう、これは、とカイルは顎を撫でた。少なくともジョンはジョンなりに考えて動いているらしい。

 ジョンは軍用腕時計を見て、

「もうすぐ下に軍用車両が来ます。飛行ドローンによる掃射を合図に、それで突入しましょう」



 カラビナとワイヤーを使ったラベリング降下でビルを降りると、カイル達の目の前に砂色のハンヴィーが停まっている。

 車の中を見ると、今回の任務で使う装備が隠されていた。カイルやミラには小銃などの飛び道具系、ジョンには山刀のようなナイフがそれぞれ支給されている。


「一九〇〇に突入です。装備と道具の確認を、念入りに」

 ジョンは専用武器であるナイフ、『マニアック』を背中の鞘に収めるとそう命じた。


「今夜で最期だといいね、バーンズ」

 ミラはXM8突撃銃の点検をしつつ、カイルに問う。

 カイルは釈然としない思いだった。

 思い返すに双眼鏡でバーンズの姿を見た時の時からだ。

 彼をひと目見た時、自分の中でなにか悶々とした感情がある事に気づいた。例えるならもう少しで完成のパズルをなかなか解けないような、釈然としない違和感。

 一体何なのだろうか……。


「カイル……?」

 ミラにそう呼ばれ、我に返ったカイルは、


「あぁ、そうだな」

 と微笑みつつ言った。なるべく自然な笑みになるように取り繕ったが、彼女は眉をひそめカイルの瞳を覗き込む。

「大丈夫?」

「おうよ、ちょっとした考え事さ。気にするなよ」

 彼女から目を逸らし装う。そんなカイルにミラはふわりと笑いながらもこう言う。

「だと……いいけど」



 十八時五八分になるとジョンは無線機で指示を出した。

「こちらコヨーテ・ワン。指定ポイントへの航空掃射を要請する、オーバー」


〈コンビ21、了解だコヨーテ・ワン。ドローンによる銃撃を行う〉掃射チームの隊長の声が無線機から聞こえる。

 三人の頭上の茜色の空に、エイのような形をした飛行物体が通過する。そのどれもが遠隔操作の無人兵器(ドローン)だった。


「巣の周りのスズメバチを駆除だぜ」

 カイルはニヤリと笑ってそう呟いた。

 金槌で何度も金属を叩いたかのような、やかましい機銃の音が聞こえた。先刻の狙撃で死角などに隠れて排除できなかった警備兵を精密射撃で葬る音だ。

 ドローンの狙いは正確だ。操縦士はモニタ越しに味方以外の熱源反応を排除する。敵兵、敵関係者、罪のない野良猫までもがこの掃射の餌食となるのだ。

 味方の熱源は点滅灯がついているので誤射の心配はない。

 掃射は一分足らずで完了し、ドールズの三人はハンヴィーに乗り込んだ。


〈コンビ21。弾切れ、外の雑魚どもを片付けた。中はあんた達に任せる! ドローンチーム、離脱する〉

 ドローン群が何処かに飛び去っていく。


 ジョンは腕時計を見て一息つくと、


「一九〇〇ジャスト! 一発かましましょう!」

「ウーラー!!」

 運転席のジョンの号令に後部座席のカイルが掛け声で応える。

 ジョンはシフトを動かし、ハンヴィーを急発進させる。目標地点は五十メートル先だ。

 そのまま加速していき、邸宅の門に突っ込んだ。

 鉄格子の門扉がぶんぶんと風音を立てながら吹き飛んでいく。

 北の方にある邸宅の中からバーンズの私兵がわらわらと、AK突撃銃を手に出てきた。


 敵兵の銃撃にハンヴィーの窓にくもの巣状のヒビが入る。

「僕が弾を防ぎます!」


 ジョンがそう言って運転席から降り鞘からマニアックを抜いた。

 羽虫でも飛んでいるような高周波振動の音が聞こえ、二枚刃が小刻みに揺れる。ジョンはそれを両手で構え、振り来る突撃銃のライフル弾を全て見切ったかのように斬り落とした。

 弾をはじきながら、一歩、一歩と敵兵に近づいていくジョンとそれに合わせ後退する敵兵たち。

 その様子を防弾仕様で覆われた車内から見たカイルは、


「おれらの出る幕でもなさそうだ」

 と噛みタバコを口に入れながら苦笑交じりに言い放った。


 地面を蹴り、ジョンが走る。相変わらず彼に向かってくる銃弾はきっちり一発ずつ真っ二つにされ、ジョンは高く跳躍し着地と同時に敵兵の一人を斬りつけた。

 斬られた敵兵はしばらく呆然としていたが、一拍遅れて頭から股間の部分まで人体模型のような真っ直ぐな線が入ると、そこから鮮血を撒き散らしつつ膝をついた。

 降りかかる返り血を気に留めず、次の敵兵に走り寄り頭を撥ねる。次は刺突で殺す。その次は叩き斬る。

 ジョンはそうやって次々と敵兵をマニアックのカモにしていった。

 バタバタと倒れゆく敵兵。ジョンは最後の一人の後ろに回り込み、逆手で刃をそいつの喉元に持っていったその時、


「そこまでだ」


 カイルはそう叫んだ。車を降り息も絶え絶えの敵と、カイルの言った通り静止するジョンに歩み寄る。

「少尉殿、お楽しみのところ悪いがそいつには人質役をやってもらおうと思う」


「こいつの運命は僕が決めます。下がって、カーティス准尉。僕が隊長ですよ」

 奇妙なほど落ち着いている声でそう諭すジョン。返り血で真っ黒に染まった顔の双眼にはいたって真剣であった。まるで与えられた仕事を真面目にこなしている職人のよう。

 しかしカイルには落ち着いて任務を行う軍人というよりは殺戮に生き甲斐を感じている悪魔の目に思える。「僕が隊長」の部分がとってつけたかのような声音だったからだ。

 彼の中の獣性が目覚めたかのようだった。


「ああ、そうだ。お前が隊長だ。いいか、隊長なんだよ。落ち着いてそいつを殺す損得を考えろ」

 ジョンの目が徐々にいつもの神経質な色に戻っていく。

 カイルが安心しかけたその時、せせら笑いが聞こえた。ジョンではない。彼が拘束している敵兵からだ。

「幻想の国に尻尾を振り続ける人形ども……」


 拘束されている状況なのにも関わらず敵兵は嘲りの目をジョンへ、そしてカイルに向ける。

 カイルがなんだと、と聞き返すと、

「おれらは死など恐れない。恐れるものなどない。貴様らはどうだ?」

 そう言うと敵兵は「フォーエヴァー、ヴィック」と短く呟き、マニアックの刃に首を擦り付けた。あまりにも素早い動作なもので、止める暇もない。

 鮮血が上がった。カイルとジョンは急いで飛び退く。敵兵は動脈から血を吹き出しているにもかかわらず、ホルダーに収まっている手榴弾のピンを抜く。

 カイルは耳を塞いで伏せた。ジョンを心配する暇などなく、手榴弾が敵兵ごと破裂した。

 地面に伏せたカイルの頭上に血液と粉塵が降り注ぐ。砂埃に奪われる視界に我慢ならず、サーモグラスをかける。


 グラスの中の熱源探知機能が自動的に起動し、カイルは視界を正面に移しジョンらしき影を探した。


 グレーに覆われた視界に橙色のシルエットが見える。ジョンはマニアックを片手に静止していた。


 マニアックの刃で榴弾の爆発の破片を防いだらしい。カイルは口腔で軽く舌打ちすると、立ち上がった。


「すごい忠誠心ですね。自らの首を切りつけ自爆など」

 ジョンがあちこちに擦り切れもはや原型を留めていない敵兵の死体を見下ろしつつ言う。

「『人質になるくらいなら死を選ぶ』かな? 噂に聞いてはいたけれどどんな人なんだろうね扇動者は」

 いつの間にか隣に来ていたミラが言った。

 カイルは先刻から嫌な予感がしていた。この敵兵の気持ちがわかるような気がしたからだ。


 バーンズが「凶悪ながらもカリスマ」と評される所為である。全世界を脅かす類を見ないテロリストでありながらも、人望、人徳、人脈を確立していったバーンズ。

 カイルは一度、彼のような人物に関わりがあった。それこそ、「この人の為なら命さえ投げ出す」と思わせるような人物に。

 そして今、そのような強大な勢力を俺たちは相手にしている。


「時間がない。急ごう」

 カイルは不安を振り払うように敵兵の死体に踵を返した。



 邸宅の応接間。本物の蝋燭が使われた照明の中、バーンズは一人ヘビの肉をまんべんなく乗せたピザを食べていた。

 窓の外の夜闇には石でできた建築物が無秩序に並んである。いつも通りの同じ風景。

 その「いつも通り」を疑問に思わない者がどれほど世の中に居るだろうか。自分は寝ている間でさえ、そのセンサーを張っていると言うのに。


 突如銃声が聞こえ、その後に悲鳴が続いた。バーンズにはわかっている。その銃声の主が最新型のドローンのモノであることも。その悲鳴を上げた部下の名前も一人ずつ言える。

 肩の力を抜き、食事に取り掛かる。『お客』は今、正面玄関を突破したところだろう。


「そろそろ来るか? また会えるのを楽しみとしているよ、ミハエル・カーティスくん。いや、今は『カイル・カーティス』かな?」

 バーンズは丸太のように太い腕につけてあるアナログ式の時計を見た。一九一〇。ちょうど秒針が五十九から〇秒に切ったところだ。

「まぁ……三分後、というところか」


 そして三分後、バーンズの背後のドアが勢い良く開く。

 この時を待っていた。待ちぼうけの中、相手が来たかのようにバーンズは笑顔で振り向いた。

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