ツキを呼ぶ機械
「ついにダーク・マターをとらえた!」
そんな見出しが世界中でトップ・ニュースとして扱われた一週間後、その記事の主人公であった科学者は世界中から大ブーイングを受けることになる。
彼が粒子加速器をもとに作った機械でコントロールに成功した物質は、ダーク・マターではなかったから。
ただ、そのまた一ヶ月後、彼は再び世界中から賞賛されることになる。
彼がコントロールしたのは、いわゆる「運」だったのだ。
彼の発表によると「運」は「生命がまとう金色の輝き」のようなもので、彼の開発した機械、通称「ラッキー・マシーン」を使用すると、その量が可視化されるばかりか、まとう量を増やすことまでできるということだった。
初めは冗談半分に聞き流す人の方が多かった。
だが、彼の被験者達に次々と幸運が訪れるようになると、誰もが目の色を変えた。
被験者の一人が、偶然「ラッキー・マシーン」の設計図を入手し、偶然宝くじに大当たりし、二台目となる「ラッキー・マシーン」を製造したのを皮切りに、堰を切ったように世界中で「ラッキー・マシーン」が作られるようになった。
偶然難病の治療法が見つかり、偶然新しいエネルギー資源が見つかり、無能と蔑まれていた政治家の愚策と笑われた政策でさえもその政治家が「ラッキー・マシーン」を使うようになると偶然経済を発展させた。
「ラッキー・マシーン」を使用する両親のもとに生まれてくる子供たちは偶然だろうかとんでもない才能に恵まれている子ばかりだった。
もう世界全体が幸運に包まれていた。
だが、ある日を境にあちこちで「運が増えない」という声が聞かれるようになった。その声は「運が減った」へと変わり、日を追うごとにそう嘆く人々が増えていった。
ある日、誰かが気付いた。
「月が、大き過ぎやしないか?」
数日後、「ラッキー・マシーン」により二次的に発生した力が、月を引き寄せる引力として作用しているという発表があった。
月はその本来の軌道を外れ、ぐんぐんと地球へ近づいているという。
もう、遅かった。
月が落ちるのを、誰も止める事はできなかった。
<終>
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