第3章 稀れ人と薬師の病み王子談義
第1話 親友たちのお茶会
「はーーー……」
今日もミステリア魔王国の巨大城に暖かな日差しが降り注ぐ。
ここは侍従や執事、薬師など王族以外の魔族たちが暮らす、使用人寮。
数百人が個別の部屋を持ち、家族で住めるよう小学校や市場も併設されていて、まるで1つの街のよう。
市井で生まれ育った先々々々代の国王が作り、『
今日はクリード殿下に仕える侍女、クレアがお休みの日。
偶然わたしもお休みだったので、ふたりだけのささやかなお茶会を開くことになった。
いつもより上質なミミィ草のお茶を片手に、クレアは極楽とばかり長い息を吐く。
「いつもお疲れ様、クレア」
「それはあなたもでしょ、メイシィ」
侍従の仕事は大きく2種類に分かれる。
巨大城のエリアごとに割り当てられた部屋の管理担当。清掃や調度品の管理、新調、食堂であれば配膳も。
もう1つがクレアが担当する王族付き。これは選抜された優秀な人材が採用されるもので、王族のお世話をする。
クレアは2年前からクリード殿下担当の1人だ。
「侍女ってすごいよね。殿下の部屋の掃除や体調管理だけではなくて、約束なしで来た貴族たちの相手とかもするんでしょう?」
「貴族を追い返すのはほとんど執事やアンドンさんがやってるけどね。まあ、体力も頭も求められるから楽ではないわ」
「わたしには無理だよ。思えばクレアは昔からお世話してもらいっぱなしだったなあ」
「本当にね!」
クレアはいつものまとめた髪形とは違い、何も結わずウェーブのかかった毛先をそのまま遊ばせている。
それは学校に通っていたころと変わらない懐かしい姿だった。
「あなたが薬師の勉強ばっかりして飲み食いを忘れる度に、説教して作ってあげてたもんね」
「うう……それは助かったよ……」
薬師になるつもりで学校に入学したわたしは、寮で同部屋になったクレアと出会った時にはもう勉強に没頭していた。
このミリステア魔王国で魔法薬師になるには卒業すべき学校は2択だ。
それは王族や中流貴族が通う学校。
そしてわたしが通った下流貴族から一般民が通う学校。
わたしは前者の学校に入る予定だったけれど、実際に討伐隊に参加して実践経験を積めるという理由で、無理矢理後者の学校に入った。
言葉では簡単に聞こえるけれど、両親から許可をもらうまでは家を飛び出し、市井にどっぷり浸かり、いろいろな攻防戦があった。
長くなるから思い出すのは次の機会にしよう。
「思えば、観察力はあなたのおかげで養われたわ…」
「お役に立てたのならよかった」
「自信満々に言うんじゃないわよ」
「ごめん」
わたしの自由な言動と物事に集中しすぎるところ、クレアの面倒見の良い性格と頭の固いところが互いの弱さを補填している、そんな釣り合いの取れている関係がわたしたちだ。
本音で言い合うけれど互いの意思を尊重する、心地よい距離感だと思っている。
それはそうと、とクレアは持っていた白いカップをソーサーに戻し、わたしの作った薬草カップケーキを掴んで言った。
「ところで?」
「……ん?」
脈絡ないクレアの発言に、わたしは若干ドキッとしながらも首を傾げた。
ジト目でこちらを見据えて、はあ?と言われる。
ついついその態度にも気づかないふりをしていれば、クレアは大きくため息をついた。
「何か悩み事があるんでしょう?そうでもなければ、こんなお茶会に誘うことなんてないじゃない」
……さすが親友、お察しの通りで。
今の今まで勇気が出ずにいたわたしに、わざと手を差し伸べてくれたようだ。
恥ずかしさでむず痒くなり思わず耳たぶに触りながらうなずくと、クレアは口角を上げた。
「クリード殿下のこと?そろそろ限界?」
「いや、殿下のことは……まあ、悩みではあるんだけど、今回はそうじゃないの。
ああでも……そうだといったらそうかな……」
「はっきり言ってよね」
わたしは反射的にごめんと謝り、ひと呼吸する。
両手を握りしめて、なんとかその悩みを言葉に出した。
「最近、花びらが止まらないの!」
は?
クレアは持っていたティーカップを落としかけた。
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