第二章

 とある新月の夜、少女は悪魔と相対する。


 いつの間にか、蝋燭の火は消えていた。けれど、何故か現れた悪魔の姿は鮮明に見える。


 不自然な闇に包まれた屋根裏部屋で、少女は椅子に座ったまま、目の前の美丈夫を眺めた。吊り上がり気味の目を、上から下へゆっくりと動かしていく。



「……その羽根、邪魔じゃないの?」



 ぽつりと放たれた一言に、悪魔は、血のように赤い瞳を瞬かせる。


「気になる部分はそこですか?」

「駄目なの?」

「いえ。ですが、大抵の方は、私の姿や目の色、この黒い空間についてなどへ意識を向けられるものですから」

「そう。それで、どうなの? 邪魔じゃないの?」

「時と場合によりますね。普段は特に気になりませんが、狭い場所や物の多い所へ行く必要がある場合は、多少疎ましく感じます。ですがそういった時は、このように――」



 と、不意に、蝙蝠のような黒い羽根が消えた。

 体も縮み、美しい青年が、紅顔の美少年へと変わっていく。



「――姿を変化させれば、問題ありません」

「ふぅん。便利ね、悪魔って」

「お望みならば、あなたにも同じ能力を差し上げますよ」

「そんな事も出来るの? 私、ただの人間だけど」

「勿論出来ます。あなたが望むのならば、どんな事でも、どんなものでも」


 美しい青年の姿に戻った悪魔は、口角を持ち上げる。



「但し、それなりの代償が必要ですが」


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