おまけSS 健一の話

※最終話まですべて読了後にお読みください。



〈健一編〉


 息子が生まれて今日で一年。

 つまり、一歳になる。

 スマホの画像ファイルを開いて、この一年を遡る。

 フォルダは、息子の写真で埋まっていた。毎日欠かさず撮っているからだ。

 別に、親バカだからじゃない。この子が本当に、自分の子なのか、確信が持てなかったからだ。

 自分のDNAの片鱗を探すのに、必死だった。

 美津はいい。確実に、自分が母親だ。

 でも俺は? もしこの子の父親じゃなかったら。

 泣きたい。いや、そんなものでは足りない。

 死ぬかもしれない。

 息子は、可愛い。

 俺を見てよく笑うし、なんせ、初めて喋った言葉が「パパ」だ。

 それに、俺と美津が並んで手を広げたら、俺のほうにやってくる。

 そんなの、可愛くないはずがない。

 愛しい。愛してる。この世に生まれてきてくれてありがとうと、毎日感謝している。

 でも、ふとした瞬間に、というかいつでも俺は、考える。

 この子は本当に、俺の子なのか。

 あのときの相手が父親だったら。

 いや、もしそうでも、俺はこの子を守るし、愛し続けると誓う。

「お子さんですか?」

 背後から、スマホを覗き込んで、部下が言った。

「おう、今日で一歳。可愛いだろ?」

「可愛いっていうか」

 部下が口を押えて、はははっと笑った。

「な、なんだよ、何がおかしい?」

「いえ、だって、おかしいですよ。マネージャーそっくりだもん」

「……ほ、ほんと? ほんとに? なあ、俺にそっくり? そんなに?」

「マネージャー、童顔ですよね」

 可愛いです、と適当感たっぷりに付け足して、肩を叩いて励まされた。

 俺は腰を上げると、部下を強く、抱きしめた。

 認めよう、俺は親バカだ。


〈おわり〉

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