第3話
「どっか行ってくれたらいいんですけど…」
岩瀬は眉をひそめ声を震わせる。これは彼女だけじゃなく全員に当てはまった。
「びっくりしましたよね…今の…」
梨奈は全員を観察する。皆、視線がドアの方に向いている。
ドアの前に立つ小林を先頭に全員が息を殺してドアを凝視する。誰かさんが入ってこないようにするために。
ドンドンドン…
ドアを叩く音がまた始まった。
「いやっ」
木村が声を上げた。隣で岩瀬は嗚咽を漏らす。梨奈は黙ってじっと見つめる。
小林はドアへ手を伸ばそうとするも躊躇したのか手を胸元まで引っ込めた。
ガチャっと鍵が開くような音が聞こえた。
その時、山小屋中の電気が消えた。一面の闇に包まれる。
誰と誰のか分からない悲鳴がコーラスを奏でた。そのコーラスが梨奈の耳に刺激を与え、思わず耳を塞ぎたくなった。
他の人の悲鳴かもしれない…もしかしたら悲鳴を上げたのは自分自身かもしれない…全員の悲鳴かもしれないし…いや…その内一人は悲鳴も上げられない状態だったかもしれない…
皆がパニック状態の暗闇の中、一つの明かりが見えた。小林が懐中電灯を携えている。
「小林さん…どうしたんですか…それ…」
伊藤が小声で尋ねる。小声でも喋りから彼が泣きかけているのが分かる。
「山小屋を予約した時に管理人から教えてもらったんだ…どこに非常用の懐中電灯があるかって…」
「ちなみに…変な話とか聞いてないですか…?」
木村が言う。彼女の声は恐怖と怒りが混ざり合っている気もした。
「何も聞いてないよ…」
「そんなわけないじゃないですか…ここまで来たら何かあったとしか言えないですよ。」
木村は非難するように小林を見た。彼女は心臓を貫きそうな眼差しをしている。
「でも…実際何も聞いてないんだ…それよりドアどうなった…?開けて様子見てみようか…」
「やめてください…‼」
岩瀬が金切り声で叫ぶように非難した。
パーン
耳を塞ぎたくなるような破裂するような音が響いた。ラップ音だ。
後ろの廊下の方でギシッと物音がする。皆反射的に後ろを振り返った。
各々の悲鳴が飛び交う。
虚ろな目をした女が、先程窓の向こうに見えた女が立っていた。
「きゃああああああああ」
木村は顔に大きな皺が出来るほどの悲鳴を上げた。
伊藤は逃げ道を探すかのように壁際まで寄り掛かった。
岩瀬は嗚咽しながらその場にうずくまった。
梨奈は茫然と見つめた。
食堂の明かりがパッと点いた。
眩しさに目がやられる。
「皆さん。いい悲鳴でしたね。」
小林の突拍子もない声が聞こえる。
全員驚き恐る恐る顔を上げた。
小林はニコニコと立ち参加者たちを見下ろしている。一同を挟んで反対側に立つ女はが明かりが点いた状態で見るとメイクをした生きた女性だ。さらに女の後ろにテレビカメラと音響器具を持った数名の人間が並ぶ。
集団の後ろから中年の男が出てきた。
「おじさん…もしかしてあの時のおじさん…車乗ってる時に道教えてくれたおじさん…」
木村は泣き顔のままだが中年男性に対して台詞が録音再生のように何度もポロリと出た。
男はケラケラと笑いながら言う。
「皆さまお疲れ様です。我々はわかばテレビです。」
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