第2話 陽だまりその2
そう。私は、家から30分程のところにある高校に通うことになる。中学からの同級生2人と待ち合わせをし、自転車で学校へと向かった。待ち合わせはいつも8時5分。3人の中間地点である大手車屋さんの前。大体時間通りに集まる。自転車でほぼ一本道。少し傾斜のある坂道を登って下ると桜の並木道。並木道を抜けると、校舎が姿を現す。自転車置き場に置き、学生用玄関まで向かう。
「今日はね、部活の勧誘会が午後予定されているらしいよ。」中学からの同級生、宮野沙月が言った。
「楽しみだね。2人は入ろうかなって考えている部活あるの?」
「私は、ダンス部!」ともう一人の同級生、羽鳥風花が言った。
「沙月もダンス部希望だよ」
「2人とも、中学からダンスやっていたもんね。すごいなぁ。」
2人とも実のところを言うと、幼稚園からの付き合いである。幼馴染ってものにあたる。
「なーはさ、中学の時バレー部だったじゃん。バレーは高校ではやらないの?」
「うーん。バレーは今でも好きだけど、高校生活は違うことやりたいなって考えているかな~。」
「なんか珍しいね。なーは時々思い切った行動、発言があるよね。」
「えー、そうかな。」
3人は楽しく会話した。
私は小学生から中学終わりまでバレーボールを続けてきた。母の勧めで習い事は何でもやってきた。習字、そろばん、バレーボール、英会話、水泳、バスケットボール、バレエその他にもたくさんやらせてくれた。特に自分がやりたいと思うことはなかったため、言われたことは何でもやることにした。苦しかったことはない。でも今この新しい学生生活。新しいことに挑戦してみたくなった。そう思ったのはこの気温、季節のせいなのか。春というものは、何かと考えさせられる。新しい挑戦をしたくなったり、自分の新たな可能性を求めたくなる。人間としての性なのだろうか。そう思いにふける。
「おい。お前ら。」
突然声が聞こえた。つい話が止まらなくて井戸端会議のように話し込んでしまった。タイムリミットのチャイムの音に気が付かなかった。
「うわ、遅刻になった?!」
「遅刻に決まっているだろう。」
「最悪だ。」
遅刻するとは思わなかった。今までしたことはない。ああ。なんてことだ。
「すみません。話しが盛り上がってしまって、遅刻してしまいました。」
つい正直に答えてしまった。誤魔化せることもできたのに。沙月と風花はやっちゃたなという顔をしていた。私に冷たい視線が来たのを感じた。
恐る恐る声をかけてきた先生の顔を見ると、
「高校生にもなって会話が弾んで遅刻しましたで、すんなり許してもらえると思うか。義務教育じゃないんだぞ。まあ、時間も過ぎているから教室に向かいなさい。」
正論を真顔で言ってきた。怖いというか、威圧感なのか、反論する余地もなかった。
「なー、行こっ。」
沙月が私の手を引っ張っていた。
「うん。すみませんでした。」とりあえず。謝ることしか私の頭の中にはなかった。
「いいから行こう。」
引っ張られながら、学生玄関に着いた。ついてそうそう、沙月が。
「なんなの!?朝からなんであんなに言われなきゃいけない訳?」
「あの先生ほんと感じ悪かったね。」
2人とも怒ってそうだった。
「ごめん。私が正直に答えちゃったから、2人に迷惑かけてしまった。」
「なーは悪くないじゃん。なーは嘘つけない、素直なだけよ。」
「うん、全然悪くない!あの先生の言い方がきついだけだよ。」
「うぅ。さっちゃん、ふーちゃんありがとう。2人とも大好きよ。」
2人に抱き着いた。
「とにかく、お互いの教室いこう。じゃあまた午後ね。」
そう言ってお互いの教室に向かった。あの朝の出来事、たわいもない新しい日常になりつつある日に正論を真顔で答えるあの人に出会ったのはあの温かい、陽だまりの日だった。
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