アイビー。
永山愛衣
第1話 陽だまり
コトコト。グツグツ。ポタポタ。ある家のキッチンから零れる生活音。廊下を走る、小さな音と大きな音。これが私の日常だ。
「ママ。見てみて。」
「うん?どうしたの。二葉。」
「パパにもらったの。ママの大切なもの!!」
そう言って、小さな手の平には、お守りが握られていた。それを見た時、懐かしい記憶を思い出した。娘の視線に合わせ、私はこう言った。
「そうよ。これはママのすごくすごく大切なものなのよ。でも二葉にあげる。二葉なら大切にしてくれるよね。二葉を守ってくれるお守りだよ。」
「守ってくれるの?すごいね。大切にするね。」
「よかったな、二葉。大切にするんだぞ。」
「うん。」
二葉は、ニコリと笑った。リビングでお守りを握りしめながら遊び始めた。
「ごめんな。二葉が急に引き出し開けちゃってさ、あのお守り見つけちゃったんだ。」
「大丈夫だよ。それって、二葉のすごい才能じゃない。宝探ししているみたいね。」
私がそう答えると、夫はゲラゲラと笑い出した。不思議そうな顔をしていると、
「相変わらずだな。昔から何にも変わっていないな。そんなところが好きなんだけどね。」頭を撫でてきた。その行動の意味がいまいち理解できていなかったけれど、この日常がとても居心地や良い。突然、風がヒューと部屋に入ってきた、生暖かい心地の良い風。そして風と共に優しい光が家の中を照らしてくれる。
私がこの幸せな生活を送れているのは、あの人のおかげだ。
あれは…もう。14年前のことになるだろうか。あの桜満開の並木道。新しい希望を持ち、新たな門をくぐった。あの陽だまりの日。
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