Act.29 慈悲深く


 「だ、大天使?、じゃあ、どうやって倒せばいいんだ⁉」


 シオンの慌てたような声が、ファビアンとルイズにも聞こえてきた。が、2人はまったく動こうとしない。


 「天使の倒し方なんて知るか」


 「そ、そんな・・・・」


 「ていうか、攻撃するから攻撃されるんだ」


 「え?」


 茫然としているシオンの目の前で、ニコラスは道に戻った。天使の像を仰ぎ見ながら、ゆっくりと歩き出す。


 「あ、おい!」


 目をつぶったシオンの脳裏に、ニコラスがかけらも残さずに死んでいく様子がありありと浮かんでいた。


 「・・・・・・・?」


 シオンが恐る恐る目を開けてみると、ニコラスは天使像の向こう側に行っていた。天使像は微動だにしていない。


 「え、え?」


 「ほら、言っただろう? お前も早く来い」


 「あ、ああ」


 シオンが一歩踏み出した時だった。天使の眼が光り、雷が放たれた。


 (やはり一度でも攻撃してしまえばダメなのか!)


 ニコラスは右手に持っていたタバコに魔力を込め、シオンのほうに飛ばした。タバコは目に見えないほどのスピードで天使像とシオンの間に飛んでいき、魔術が発動された。


 「うわ⁉」


 天使の眼から放たれた雷は、シオンの数メートル先で弾かれたように向きを変え、花畑に直撃した。タバコに仕込んであった一回限りの魔術結界だ。


 「走れ!」


 シオンが転びかけながらも、なんとか天使像の向こう側に走り込んだ。すると、天使像は振り返ることなく、そのまま地面に潜っていった。


 「・・・・・・・」


 「・・・・・な、なんだったんだ、あれは」


 「神の使徒だろ」


 (ここまで来たはいいが、正直教授になるなんてごめんだからな・・・・)


 -------------------------


 「なあ、あいつらゴールしそうだぞ」


 道の入り口で止まっているファビアンが、独り言のようにつぶやいた。が、ルイズは動こうとしない。


 「私はもう、教授位は要りません。行くのならあなた一人で行きなさい」


 「・・・・・腰抜けが」


 ファビアンは唾とともに吐き捨て、ずんずんと道を歩き出した。途中で天使像が出てきたが、気にせずに足元を通った。


 「・・・ちっ、脅かしやがって。このデカ物!」


 ニコラスたちに後れを取ったことがよほど悔しかったのだろう。走り出す前に、天使像を一回蹴飛ばした。


 (あいつみたいなガキに遺産を渡してたまるか!)


 走り出したファビアンは、どんどんニコラスたちとの距離が埋まっていくことに快感を覚えていた。


 「おい!、てめえら!。ちょっと、まち、ゴホッ」


 (痰でもからまったか・・・・?)


 「・・・は?」


 何か熱いものが喉からこみあげてきたので、口に手を当ててみると真っ赤な液体がたっぷりとついていた。


 ※次回更新 6月30日 21:00

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る