Act.27 庭園
(それにしても、左腕がない状態で森には行きたくないんだがな・・・・・)
止血し終わった左肩を眺めながら、ニコラスはそんなことを考えていた。しかし、行かなくてはならない。なぜなら、ニコラスは監督役なのだから。
「・・・・・損なクエストだ」
ぼそりとつぶやき、部屋のドアを開けた。後ろからは、ルイズの足音が聞こえてくる。
「あ、あのお」
「なんだ」
後ろを振り返らず、淡々と歩きながらニコラスは言った。
「わ、私も行っていいんでしょうか?」
「・・・・・・・・」
(それはお前が決めることだろ)
ニコラスは返事をせずに、歩き続ける。屋敷を出、裏手の森に向かっていく。
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(足跡か。たぶん先に行った3人の分だな)
森の入り口で3人の足跡を見つけたので、それをたどるように森に入った。森には、動物が一匹もおらず、鳥のさえずりさえ聞こえてこなかった。
(・・・・不気味なとこだ)
赤信号を出している本能を義務感で抑え込み、なおも歩き続ける。途中、歩きながらタバコに火を点けた。
煙で空中に魔術刻印を描く。魔術は魔法より発動時間は長いが、その分隠密性と操作性に優れている。つまり、探索等には向いているのだ。
空中の刻印が甲高く、かすかな音を立てて、500m直進したところに何かがあるらしいことをニコラスに伝えてきた。
「あと500mぐらいだ。歩けるか?」
「え、あ、はい」
ルイズは不思議そうな顔をして、ニコラスを見つめた。彼がルイズに気を使ったのが、よほど意外だったらしい。
きっちり500m歩くと、いきなり視界が開けた。
「わあ、きれい・・・・・・」
そこには一面の花畑が広がっていた。淡いピンクのバラが咲き乱れ、中央には東屋のような建物が見える。シオンたちはその東屋へと続くまっすぐな道の前で立ち尽くしていた。
「あ、ニコラスさん・・・・」
見てみれば、ラッドがいなかった。シオンに視線で理由を尋ねると、言いにくそうに答えた。
「我々がここについた時に、ラッドさんがいきなり走り出していかれて。ファビアンさんが一度肩をつかんだんですが、鬼気迫る表情で怒鳴り散らしたかと思うと、彼の手を振りほどいて、走っていってしまいました」
「それなら、選抜は終わったのか?」
若干口元を緩めながらニコラスが聞くと、シオンは首を振った。
「あのおっさん、道の半分くらいでいきなり出てきた石像に殺されちまったんだよ」
「石像?・・・・・まさか、さっきの天使像か?」
※次回更新 6月28日 21:00
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