Act.25 魔法
(方位磁石でも持ってくるんだったな。この世界にあるのか、わからないけど)
天使が見ている方向を確認すると、すべて屋敷の裏手を指していた。この屋敷は周りをぐるっと森で囲まれているので、そこに何かしらの仕掛けをしたのだろう。
(行ってみるしかないな)
ニコラスは紙を懐にしまい、出口に向かって歩き出した。またも足音をまったく立てずに歩き、ドアノブに手をかけた時だった。
「どこに行きますの⁉」
ルイズの慌てた声が聞こえた。その声でようやく気付いたのか、魔法師たちはそろってニコラスの方に振り返った。
「聞こえてまして⁉」
「また、何かわかったのではないか?」
「だったら早く教えろ」
ルイズがヒステリックに叫び、ラッドがいやしそうに唇をゆがめ、ファビアンは相変わらず癪に障る声で怒鳴った。唯一シオンだけが黙っているが、腹の中では何を考えているのか分かったものではない。
「・・・・・・・・・」
彼らをうっとうしそうに睨んだニコラスは、一言も発さずにドアを開けた。
「
瞬間、まっすぐに伸ばされたルイズの腕から、金色に光る球体がニコラスに向かって飛んでいった。
鬼の形相で振り向いたニコラスは左手をまっすぐに伸ばし、手のひらを広げて、球体を迎い入れるように掌底を打ち込んだ。
分家とはいえ、一族の当主が放った魔法だ。当然、ニコラスの左腕は灰になり、わずかに残った肩からは滝のように血があふれて、床を濡らした。
「・・・・・やってくれたな」
その場にいた誰もが戦慄するような声だった。痛みではなく、怒りに顔をゆがめたニコラスはゆっくりと上体を起こし、ルイズをにらみつけた。
次の瞬間、ニコラスの右手がルイズの顔を鷲掴みにした。時速にして約50㎞のステップだ。反応できるほうがおかしい。
陸上短距離の世界記録は、時速にして43㎞ほどだったらしい。女神のスキルで体を自由にいじくれるニコラスにとって、腕の止血も高速移動も簡単なことであった。
鷲掴みにしたルイズを勢いそのまま、床にたたきつける。手加減したとは思えないほどに部屋が揺れ、ルイズは激痛に叫び声を上げた。
「きゃあああああああああ!!?」
(気絶させなかっただけでもありがたく思え)
ゆっくりと立ち上がったニコラスは叫んでいるルイズを部屋の片隅に蹴飛ばし、天使の視線のことをシオンたちに伝えた。
「・・・・・教えてもらってなんですが、ニコラスさんは行かなくていいんですか?」
シオンが当然の質問をしたが、ニコラスはうつむいて答えようとしなかった。
※次回更新 6月26日 21:00
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