Act.22 魔法陣


 「皆さん、なにかわかりましたか?」


 シオンのよく通る声がドームに響いた。が、その問いに答えられる者はいない。


 「暗号文のほうはまったくわかりませんわ。ただ、石柱の下にある魔法陣は、それぞれの血を垂らすことで作用することはわかりました」


 「しかし、誰がどこに血を垂らすかが問題ですな。間違うと魔法陣が壊れかねない」


 ラッドが魔法陣に触れながら言った。唯一黙っているファビアンはつまらなそうだった。


 「古代の記録・・・・・、普通に考えれば、歴史か神話。魔法学的に考えるのならば、聖遺物でしょうか」


 「ですが、聖遺物は無数にあります。それからどうやって絞ったものか・・・・」


 「人類最古の発見とあります。一番古い聖遺物ではなくて?」


 「魔法学において、時代はまったくあてになりません。近代のものが古代に影響を及ぼすことだってあり得ますから。オーパーツなどがいい例です」


 オーパーツ。古代の遺跡等で、ロケット型の置物や、どうみても携帯のような物体が見つかることが稀にある。そういった時代を越えた物体を総じてオーパーツと呼んでいるのだ。


 異世界でもそういったことは起きているようだ。


 「では、どう意味なのでしょうか・・・・・」


 またもシオンの声だけが響き、それにこたえる声は上がらなかった。が、突如として、ある石柱が地響きのような音を立て始めた。


 「な、なんだ⁉」


 ラッドがいち早く振り向くと、いつの間にか魔法陣のそばにしゃがみこんだニコラスが血を垂らしていた。


 「ちょ、ちょっと! なにを勝手な行動をしてるの!」


 ニコラスの肩に手をかけようとしたルイズは、驚愕に目を見開いた。近づいたことで、魔法陣が正常に作動していることが視認できたのだ。ラッドにも見えたようで、口をあんぐりと開けて、立ち尽くしていた。


 -------------------------


 (こいつらどうしよう。どうせ教えてやっても聞かないだろうしな。・・・・・・うん、先にやっちまおう)


 論争している彼らの脇を、物音一つ立てずにすり抜け、水瓶座の下にある石柱、その魔法陣に触れた。その時、ルイズの「魔法陣は血を垂らすことによって作動するもの」という言葉が聞こえてきた。


 心の中で感謝しながら、ニコラスはナイフを展開して、指の先を切った。一筋の血が魔法陣に吸い込まれていき、儚い光を放ち始めた。


 ニコラスはスキルを発動して傷をふさぎ、石柱から距離を取った。石柱が振動し始めるとともにようやく気付いた魔法師たちが騒いでいたが、ガン無視した。


 ※次回更新 6月23日 21:00

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る