Act.18 晩餐
夕方になると、ドアがノックされた。筋トレの真っ最中だったニコラスは、アンダーシャツのままでドアを開けた。
「・・・・お食事の時間でございます。応接間までおいでください」
「わかった」
手早くシャツを羽織り、ボタンをとめながら応接間に向かった。途中、参加者の青年に会ったが、無視した。
応接間には長いテーブルが置かれ、蝋燭の火がゆらめいていた。ナフキンにそれぞれの名前が書いてあり、ニコラスも指定通りに腰かけた。
周りを見渡すと、最初に来た時よりも1人増えていた。執事が車で言っていた、1人だろう。
「あの、ニコラスさんでしたっけ」
隣に腰かけた女性が口を開いた。応接間で、大男に皮肉をぶつけていた人だ。上品なナイトドレスに身を包み、ガラスの刃みたいな、儚く、鋭い雰囲気をまとっている。
「・・・・あなたは?」
興味なさげに聞くと、ちょうど食事が運ばれてきた。スープから始まる、フルコースのようだった。
「申し遅れました。私、ルイズ・スターラッドを申します。アインおじさまとは血縁関係にありますの」
「ご丁寧にどうも」
ニコラスはスープを口に運びながら、会話する気はないと暗に伝えようとしていた。が、彼女はそんなことお構いなしに話しかけてくる。
「今回の選抜、あなたもご参加されるのですか?」
「教授次第」
敬語を使う気もゼロのニコラスに、少しだけこめかみをヒクつかせた彼女は、それでも話を続けた。
「あの、これでも私、スターラッド家の当主ですの」
早々にスープを飲み干すと、見ていたかのような完璧なタイミングでサラダが出てきた。
「もう少し、お話に付き合ってくれてもよくなくて? なにか知っていることがあればお話しいただけると嬉しいのですけれど・・・・」
そう言って、上目遣いをしてくる彼女は客観的にとても魅力的だった。しかし、組のために命を捨てられる男がそんなことに揺らぐはずもなく。
「・・・・・・」
彼女の表情に向けられたニコラスの答えは、不思議なものでも見るかのようなジト目であった。それの視線もすぐにテーブルに戻っていった。
「な、なんですの・・・?」
(この肉、うまいな)
話している間に出てきたメインの肉を切り分けながら、ニコラスは満足げだった。
「・・・・・・はあ、」
やっと会話が通じないと気付いたのか、彼女も食事に目を落とした。そこには、まだ湯気を立てているスープがあった。
※次回更新 6月19日 21:00
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