Act.17 嵐の前


 「選抜は明日より始める。それまでは魔法師同士の戦闘は控えてもらおう。同盟を組むのは勝手じゃがな」


 車いすが浮遊し、参加者とニコラスの前に下りてきた。発動兆候すら読めない、完ぺきな魔法だった。


 「あんたが、ニコラスさんか」


 「はい」


 「ふ~む・・・・・・、あのコンスタンスが弟子を取ったときは驚いたものだが、君はなかなか興味深いね」


 「・・・・どうも」


 何とも言えない表情を作ったニコラスに、アインはしゃがれた笑い声をあげた。


 「表情とセリフがまったく一致してないぞ?、大学ではやっていけんな、君は」


 終始楽しそうに話したアインは、他の参加者に目もくれず、応接間からいなくなってしまった。


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 執事に渡された部屋の鍵を頼りに、ニコラスは部屋に向かっていた。参加者の魔法師たちはすでに牽制を始めていたが、監督役のニコラスには関係ないことだ。


 (つーか、早く寝たい)


 飛行艇での疲れを癒したい一心で、部屋を探す。ドームの脇の館には部屋が無数にあり、似たような造りなのでこんがらがりそうだった。


 「・・・・・」


 部屋を見つけたニコラスは、火を点けていないタバコを左手に下げて、鍵を右手で開けた。


 静かにドアを開け、しばらく何も起きないことを確認した。荷物を放り出すと、応接間ほどではないが、十分に凝った造りの部屋を見回す。


 まず風呂場を覗く。湯舟のカーテンを引いて中を確認し、水道をひねって水を出す。


 引き出しを全部開け放ち、ベットの下を覗き込む。一通り確認するとベッドに倒れ込んだ。


 「・・・・・・・」


 つまらなそうなジト目で、天井をにらみつける。数分目をつぶると、すぐに起き上がって、リュックから本を取り出し、読み始めた。


 こういった後継ぎ争いでは、大体魔法の技量と知能を確かめるために、謎解き系の闘争などが行われる。その途中で命を落とす者も少なくない。おそらく、今も魔法師たちは悶々とこの屋敷のことを考えているだろう。


 が、ニコラスはまったく考えていなかった。監督役として闘争に巻き込まれることはたまにあるが、もともと興味がなかった。


 だいたい、魔法と魔術はまったく起源を異にする。魔術師のニコラスがいくら頭をひねろうと、わかることは少なかった。


 しばらく本を読むと、床に寝転んで筋トレを始めた。スマホ等の暇つぶし道具に乏しいこの世界で、ニコラスは筋トレと読書で時間をつぶしている。


 ※次回更新 6月18日 21:00

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