Act.16 後継者候補
イタリカの空港に降り立ち、外に出ると、黒塗りの高級車が停まっていた。
「うわ~、あのギルバートとかいうやつのかな?」
ちゃっかりニコラスの横にいるアイリがつぶやいた。すると、運転席からでてきた白髪の執事が、まっすぐこちらに向かってきた。
「お迎えに上がりました」
「ご苦労」
「え、ええ?、えええええええ⁉」
ニコラスに頭を垂れた執事とニコラスを交互に眺めながら、アイリが驚愕の声を上げた。
「では、お乗りください」
状況に追いつけていないアイリを置いて、ニコラスは車に乗り込んだ。氷の上を滑るスケーターのように、滑らかに車が発進する。
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「参加者は来てるのか?」
「1人だけ、遅れています。旦那様は、ニコラス様が到着なさってから説明をするとおっしゃっていました」
「そうか」
数時間ほど鬱蒼とした森を走ると、いきなり視界が開けた。そして、目の前に魔法大学、天文科教授のアイン・スターシュタットの屋敷が見えてきた。
屋敷は主に3つに分かれており、真ん中にプラネタリウムでもできそうなドームがある。その横の館に、使用人用の部屋や、生活する場が設けられているのだろう。
「どうぞ」
執事が車のドアを開け、ニコラスは屋敷内に案内された。一階、ちょうどドームの下階にあたる場所が応接間のようだ。
きらびやかなシャンデリアに、星を模した宝石がちりばめられた床。どれもが、キラキラと輝いており、占星術や宝石類に詳しいものなら生唾を飲み込む造形だろう。
(・・・・目がチカチカする)
が、そんなことが元ヤクザにわかるわけもなく、貧相な感想しか出てこなかった。生前なら何のためらいもなくその感想を口にしていただろうが、目の前でくつろいでいる集団がそれを許さなかった。
「やっと来たのか、ノロマめ」
ニコラスと同じような雰囲気をまとった大男がどなるように言った。
「耳元で怒鳴らないでいただけます?、あなたみたいに頑丈じゃありませんの」
妖艶な笑みとともに皮肉を放った女性が紅茶のカップを傾けている。
「まあまあ、そんなカリカリしないでよ。監督役さんなんだから」
穏やかな口調で2人をなだめた好青年が、手をつないだ少女の頭をなでている。血縁関係でもあるのだろうか、顔の造りがよく似ていた。
「ほっほっほっほ。若いのは元気がいいのう」
上からしゃがれた声が降ってきた。全員がそちらに目を向けると、車いすに座った老人が、長く伸ばしたひげをなでていた。
(・・・・・アイン・スターシュタット)
※次回更新 6月17日 21:00
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