Act.15 グリフォン«後»


 「ちょ、ちょっと彼、大丈夫なの?」


 中の窓から見ていた化粧の濃い女が叫んだ。が、機内でそれにこたえられる者はいない。


 グリフォンが暴れ、さらに機体が右に傾いていく。


 「ええい!、私が銃座に出る!」


 「先生、いけません」


 でかい体をゆらしながら、銃座に続く梯子に手をかけたギルバートを、アレクサンドラが必死に止めている。


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 「grrrrrrrrr!!」


 ひと際大きく声を上げたグリフォンの翼がはためく。当然、先につかまっているニコラスも高度1000mで紙屑のようにはためている。


 (やべ、酔ってきた・・・・)


 ニコラスは体を丸め、転がるようにグリフォンの翼をつたって胴体に肉薄した。


 「チャオ」


 狂気に染まったニコラスの頬が歪み、ナイフが容赦なくグリフォンの眼球に突き刺さった。


 耳をつんざくような悲鳴が上がり、グリフォンの前足が機体から離れた。瞬間、ニコラスは飛行艇にへばりつき、銃座めがけて走り出した。


 ギリギリまで体を低くし、走る。それでも風の影響で少しずつ横に流されていく。


 銃座までもう少しというところで、グリフォンが離れ、機体が水平に戻った。が、その衝撃で、ニコラスの体も機体から離れてしまった。


 ナイフをしまったニコラスの指が目一杯伸ばされ、なんとか銃座の手すりにかかると、指一本の力だけで体を銃座に引き込んだ。


 そのまま機内の転がり込む。


 「ゴホッ、ゴホッ」


 低酸素状態で動き回った影響か、肺が焼けるように痛んだ。軽くせき込んだニコラスに細い手が差し伸べられた。


 「大丈夫?」


 「・・・あ、ああ。問題ない」


 顔を上げずとも、香水の匂いが漂ってきた。


 「お疲れ様。あたし、アイリ。一応踊り子やってるんだ」


 化粧の濃い女がニコラスを立ち上がらせながら言った。


 「ニコラス・アルカンジェロ。コルシュカギルドの職員だ」


 「よろしく!。それと、ありがと」


 アイリが尊敬と感謝のまなざしで、ニコラスを眺めた。他の乗客も同じような目でニコラスを見ている。


 「いいや」


 照れた様子もなく首を振ったニコラスは自分の席に座ると、また目をつぶった。すると、アイリが断りもなく隣に座ってきた。


 「・・・・ねえねえ。今度、コルシュカに寄ったときにあんたのこと呼んでいい?」


 「用があるなら、受付嬢に頼め」


 「もう、そういうことじゃないのに・・・・・」


 脈がないとわかったのか、それきりアイリは口をつぐんでしまった。沈黙が機内を浸したと思ったとたん、パイロットのひび割れた音声が流れる。


 『まもなく、イタリカに到着いたします。降下軌道に移るので、シートベルトをお締めください』

 

 ※次回更新 6月16日 21:00

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