Act.14 グリフォン«前»
「まったく、何か出たらどうするんだ」
離陸してから1時間ほどして、ギルバートが秘書に愚痴を言っていた。秘書、アレクサンドラはそれを嫌な顔一つせずに聞いている。
「ですが、護衛を雇うにはこの次の便にしなくてはなりません」
「それでは困るしな。議会に間に合わん」
ふとギルバートが窓の外に顔を向けた時だった。窓の外に醜悪なものが映って見えた。
「なんだ、あれは・・・・・・・・」
機体の右翼にくっついているそれは、まるで空を飛ぶ豚のようだった。豚のような肥え太った肉体に、翼が生えている。
バン!
突如、鉄扉を叩く音がし、乗客の誰もが音がしたほうを見た。そこにはいつの間にか席を立ったニコラスが、操縦室に続く扉を叩いていた。
『な、なんだい?』
「これに銃座はついているのか」
慌てたようなパイロットの声の後に、氷のような声が続いた。
「せ、先生!、あれはグリフォンです!」
今になって外の異物を視認した秘書が叫んだ。機内が騒然となり、化粧の濃い女が立ち上がって、窓にへばりついた。
「あ、あれがグリフォン・・・・・・」
親子は、席で体を丸めている。ニコラスを除く乗客のなかでは、一番賢い判断だ。それを裏付けるかのように機体が大きく右に揺れた。
『あ、ああ。ついているけど、銃は使い物にならない!』
「銃座を開けろ。お前からもグリフォンは視認できるだろう」
ほどなくして、銃座が錆をまき散らしながら開いた。外の空気で物が飛び交う中、ニコラスだけがスルリと、銃座に吸い込まれるかの如く外に出ていった。
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(・・・・・・っ!)
ギルバートがグリフォンを見つけるより少し前、ニコラスは魔物の存在に気づいていた。目を開き、まったく足音を立てず、前方に歩いていく。
操縦室の扉を叩いていると、乗客が騒ぎ始めた。同時に銃座が開き、ニコラスは迷うことなく外に出た。
「・・・・・・・」
風圧に耐えながらグリフォンの姿を認め、ニコラスの頬が嬉しそうに歪む。
(酸素濃度が低い。炎腕は使えない、か)
指輪をナイフに変え、両手に1本ずつ握った。迷いなく銃座から右翼に跳躍し、グリフォンに迫る。
軽くうなったニコラスの上腕が文字通り消え、グリフォンも背に無数の傷をつけた。まさか、飛行能力のない人間が飛行艇の翼上までくるとは考えていなかったようだ。
「grrrrrrrrr!」
聞き取れないほどにかすれた悲鳴を上げ、グリフォンの翼が持ち上げられた。見れば、その片方にニコラスがつかまっている。
※次回更新 6月15日 21:00
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