Act.12 飛行艇
今回の教授選は、天文科のらしい。現教授の屋敷で行われる後継ぎ争いの、監督及び結果確認の依頼だった。
「・・・・・・・・・」
すでに何度も目を通した依頼書を机におき、荷物を用意し始めた。簡単な着替えや細々としたものをバックパックに詰め、指輪を装着する。マイルズに都合してもらった飛行艇のチケットと瓶の炭酸水を片手に部屋を出発した。
空港に向かうのだが、まずニコラスはコンスタンスのタバコ屋に寄った。
「おや、これから行くのかい」
めずらしく本人が店番をしていた。
「ああ。一応行く前に挨拶しておこうと思ってな」
「なら、1つだけ忠告してやろう」
コンスタンスの口調が、あたかも講義をするかのようなものに変わった。
「星座に気を付けたまえ」
「・・・・・・了解」
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コルシュカギルドがある街を、カーマという。ここは1番街から10番街に地域が分けられており、ニコラスの家は8番街。ギルドと空港があるのが6番街だった。
空港に着くと、まっすぐターミナルに向かった。粗末なイスに腰かけると、周りにも同じ行き先の客が数人いた。
「お母さん、お腹すいた」
「今買ってきてあげるから待っててね」
顔色の悪い親子が、それでもほほえましく会話している。
「先生、飛行艇が出るのは13:22だそうです。あと30分ほどございますが、いかがなされますか」
「飛行艇に乗り込むことはもうそろそろ可能だろう?、わしは先に乗っておる」
「かしこまりました」
一目でそれとわかる、豪華なスーツを着たふくよかな男性が鋭い刃のような秘書風の女性に何かしら命じていた。呼び方からも、政治家らしいことが伝わってくる。
「・・・・・・・・」
手足をだらしなく伸ばして、宙を見つめている女性がいる。露出が多く、化粧も濃いが、飛行艇に乗るくらいだ。娼婦ではなかろう。
この世界での飛行艇は小型のものが多く、乗客もせいぜい10人乗れたらいいほうだ。それも5本に1本は行方不明になるという楽しい特典つきだ。
それでも鉄道などは開発されておらず、なぜか飛行艇だけが存在していた。
『皆様、機体の準備が整いました。D-201便は、搭乗を開始いたします』
突如、ひび割れたアナウンスが響く。当然、ターミナルのロビーでくつろいでいた人たちは、こぞって立ち上がった。が、ニコラスは新たなタバコに火を点け、静かに煙をくゆらせていた。
全員が乗り込んだのを確認し、腰を上げる。移動式通路の入り口にいる係員にチケットを見せ、飛行艇に乗り込んだ。
※次回更新 6月13日 21:00
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