Act.10 タバコ屋


 「・・・・・・・・」


 「・・・・・・・・」


 「あ、えっと」


 ニコラスは黙ったままだ。彼女が口を開くのを待っている。


 「あつかましいとは思うんですけど、助けてもらいたくてここに来ました」

  

 「メモ、ある?」


 「あ、はい」


 差し出されたメモを受け取り、ポケットにしまい込んだ。


 「・・・・続けて」


 「えっと、私の名前はニナって言います。この街でメイドやらせてもらってました」


 (、ねえ)


 「その、数週間前から、あそこの屋敷での仕事に耐えられなくなってメイド協会の会長さんに担当を変えてほしいって言ってたんです。バリーさんのコレクションというのが、どうしても気持ち悪くて」


 「コレクションってのは?」


 「・・・・内臓です」


 彼女は思い出してしまったのか、顔を青くしながら言った。


 (狩りかなんかで仕留めた動物の内臓か。気色悪い趣味があったものだ)


 「コレクションはもういい。それで?」


 「でも、担当は変えてもらえなくて、しかもそのことがバリーさんにバレてしまって・・・・」


 「・・・・・・・・」


 「そこから仕事量が異様に増えて、休む暇もないくらいになってしまって・・・。でも、協会の許可なく辞めてしまえばもうメイドとしては働けません。だから、我慢してたんですが、」


 「・・・・・・」


 「・・・・・・・」


 彼女、ニナが黙ったことで2人の間に沈黙が落ちる。ニコラスは相変わらずのジト目で彼女を見つめている。


 しばらくして、ニコラスが立ち上がった。それにつられるようにニナの視線が上がる。


 「・・・・・ついてこい」


 「は、はい!」


 2人して裏通りを歩き、8番街にあるニコラスの家から2番街まで来た。


 「この辺に来たことは?」


 「あ、あんまりないです・・・。その、治安が良くないと聞いたもので」


 ニナが怯えながら周りを見る。汚くはないが、きれいでもない地域だ。そこら中に酔っ払いが座り込んでいて、建物の間では娼婦が男に媚を売っている。


 「ここ、ですか?」


 ニコラスが立ち止まったのは、あるタバコ屋の前だった。窓口の呼び鈴を容赦なく連打する。


 「ニ、ニコラスさん⁉」


 ニナが驚く中、奥で布団がこすれる音がした。


 「なんだい、うるさいね」


 奥から出てきたのは、60歳を過ぎているだろう、老婆だった。よぼよぼなのに、眼光だけがやたらと鋭い。


 「なんだ、ニコ坊かい。指名依頼の件、聞いたのかい」


 「そのことで話がある」


 彼女こそがコンスタンス・シュバルツバルト。趣味で魔法大学教授をやっている変わり者だ。


 「・・・・また、厄介ごとに首突っ込んだのかい」


 ※次回更新 6月11日 21:00

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