Act.9 メイド
裏路地を駆け巡った後、ストレッチをしながら体を冷やす。シャワーをあび、スーツに着替える。
スーツと言ってもあまり固いものではなく、ラフなものだ。着替えたら、ギルドに向かう。そして、業務をこなす。
ヤクザ時代からは想像もできないほど、平和な日々だ。銃弾が飛び交う中をナイフ一本で切り抜けていた頃とは大違いである。
「あ、そうだ。ニック」
フェンリルの牙を数えていたニコラスは、マイルズの声に振り返った。
「ん?」
「コンスタンスばあさんが、指名依頼をしたいって言ってたぞ」
「やだ」
「・・・・魔法大学のお偉方にそんな口きくのはお前くらいだよ」
ニコラスが立ち上がると、別の声が聞こえてきた。
「ニコ~」
「・・・・・・・・」
「・・・・・行ってこい」
シャーリーの声だった。マイルズの横を通り過ぎ、受付に出た。すると、顔見知りの冒険者がカウンター越しにこちらを見ていた。
「よ、ニック。俺、お前のうちの前を通ってきたんだけどよ」
「?、泥棒でも入ったのか」
「いや。なんか女がドアの前でウロウロしてた。顔までは見れなかったけど」
「・・・・・・・」
「・・・・・コンスタンスばあさんかもな」
後ろから来たギルマスが言った。その言葉に、いつものジト目を少しだけ見開いたニコラスがマイルズの顔を覗き込んだ。
「休みをくれ」
「わかってるよ。俺もあの人を待たすのは無理だ。精神的に」
ニコラスはカウンターを飛び越え、重い扉を蹴飛ばして外に出た。後ろからマイルズの文句が聞こえてきたが、無視した。
コンスタンス・シュバルツバルト。魔法大学の教授であり、ニコラスにとっては魔術の師匠でもある。かなりの変わり者であり、自分の主義に反することだとすぐに魔法を使い、建物の1つや2つ、一瞬で吹き飛ばしてしまう。
建物を駆け上り、屋根から屋根へと疾走する。すぐに自分の部屋が入っているアパートが見えてきた。思いっきり飛んで、ドアの目の前で座りこんでいる人影の前に着地した。
「ひっ!」
「・・・・・あ?」
そこにいたのは、コンスタンスではなく、昨日のメイドだった。変装の意味もあるのだろう、顔を覆うほどの帽子でぱっと見、顔が見えない。
「・・・・あ、えっと、ニコラスさん、ですよね?」
「・・・ああ」
内心ほっとしながらも、ニコラスは部屋の鍵を開けて、中に入った。その後に、遠慮がちにメイドがついてきた。
「お、お邪魔します」
「そこのイスにでも座っててくれ」
彼女にイスをすすめ、ニコラスはベットに腰かけた。
※次回更新 6月10日 21:00
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