Act.8 8番街の夜
その後、晩飯にはありつけたものの、マイルズの酒に付き合わされ、愚痴を聞いたあげく受付嬢の恋バナに巻き込まれ、ニコラスが帰路についたのは、夜0:00を過ぎていた。
(ねみい・・・・・)
途中、酒屋によって炭酸水を三本ほど瓶で買い、裏路地にある自分の家に帰った。コンクリート張りの、おしゃれとは無縁の部屋だ。
中には、机と椅子、ベットとやたら中身が充実している本棚があり、天井からはサンドバックがぶら下がっている。
殺風景な部屋だが、ドアを開けてすぐのキッチンにはそれなりのものがそろっている。冷蔵庫に炭酸水を入れ、服を脱ぎ始めた。
アンダーシャツ一枚になり、ズボンを柔らかいものに変える。そして、身軽にもサンドバックに飛びつき、足をからめて、腹筋を鍛え始めた。
1000回ほどやると、バク転の要領で着地し、腕立てやプランクなどを延々と繰り返す。
最後にサンドバックを殴り、つかみ、蹴り、訓練を終える。冷蔵庫の炭酸水をのどに流し込み、床に座り込んだ。
「ふう、」
短くため息を吐くと、ストレッチを始めた。頭の中を空っぽにして、自分の体のことだけを考える。
一通り終え、瓶を投げ出し、ベットに転がった。
(あの女、どうしてっかな)
ふと昼間のメイドの顔が脳裏によぎる。ニコラスは行く先々で、ああいうことをしては、面倒ごとに首を突っ込んでいる。マイルズからはやんわりと止められているものの、やめる気はサラサラなかった。
(せめてもの罪滅ぼしだしな。偽善もいいところだ)
疲れ果てた体と薄れゆく意識の中で、ニコラスは自虐的に笑った。ヤクザ時代の悪行の罪滅ぼしだ。褒められることではないし、自己満足だ。だからこそ、ニコラスはあるルールを決めている。
「自ら行動できる者だけ、助ける」というものだ。
ほとんど無意識に掛け布団を引き寄せ、ニコラスは心地よい眠りに身を浸した。
--------------------------
寝たのは深夜2:00ほどだが、ニコラスが起きたのは朝6:00であった。軽くストレッチをし、ジャージに着替える。正確には、ジャージに似た素材の服だが。
家を飛び出し、裏路地を駆け巡る。早朝の裏路地は、ほとんど人がいない。暴れ放題だった。
壁を蹴り上げ、建物の屋根に飛び移る。屋根から屋根へ、なるべく滞空時間が長くなるように跳躍する。時々宙返りをしたり、アクロバットに動く彼の顔は、興奮に染まっていた。
(この時間は好きだ。自由になれる)
※次回更新 6月9日 21:00
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます