Act.7 バー・コルシュカ


 そんな風にあわただしい夕方が過ぎると、今度は騒がしい夜がやってくる。受付カウンターはクエストの斡旋を夜19:00には締め切って、酒場へと早変わりする。


 受付嬢の何人かがバーテンダーとしてシェイカーをふり、他は厨房やフロアへと行く。ちなみに、ニコラスは厨房だ。


 「ニコ~、ラッシュラビットのステーキ、五人前~」


 「ん、」


 フロア要員のマキナ・シュタットが軽い口調で言った。シャーリーの落ち着いた茶髪とは違い、派手な赤い髪をしている。


 ニコラスは手際よく肉をさばき、香辛料をふり、焼いていく。ここはギルドであり、レストランではない。だからというわけではないが、食材は大体そのままで保存されている。よって、肉や魚はさばかなくてはならないし、野菜も泥を落としたりしなくてはならない。


 「ほら、ステーキ五人前」


 「さっすがあ、早いね」


 ふとバーカウンターに目をやると、シャーリーが忙しそうにカクテルを作っていた。その横では、ギルマス、つまりはマイルズが客と楽し気に会話をしている。


 (てめえも手伝えよ。会話担当なのはわかってっけど)


 「ニコ~」


 「はいはい」


 「次は、サーモンのグリル4人前~」


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 日本の酒場では朝まで飲む輩がいたりするが、この世界ではほとんどいない。というか、ギルドの酒場そのものが夜の23:00くらいには終わってしまう。


 翌日の仕事に備えるためだ。中にいた冒険者がいなくなると、とたんに職員が座り込んだ。


 「今日も疲れた~~~~~」

 

 「ほんと、それ」


 「あ~~、帰りたい~~~」


 休憩も挟むとはいえ、一日中冒険者の応対をし、夜は酒場。結構ハードな仕事である。


 残った酒を手にダラダラしている受付嬢たちの横で、ニコラスは皿を洗っていた。ヤクザの下積み時代は、24時間ぶっ通しで立ち番をやっていたこともある。この程度ならまったく問題なかった。


 「お疲れ、ニコ」


 水場から顔を上げると、酒瓶を片手にグダーっとしているシャーリーがいた。


 「お疲れ」


 「ニコは飲まないの~~?」


 「いや、仕事あるし」


 「いいじゃん、今日くらいは付き合ってよ~~」


 「・・・・もう少しで終わる」


 「はいは~い」


 手早く厨房の掃除も終わらせ、ニコラスはフロアに出た。エプロンで手を拭いていると、肩にもたれかかってくる人影があった。


 「・・・・重い」


 「・・・それ、絶対に女どもには言うなよ」


 「あんただから言ったんだ」


 「そうかそうか。それならよし!」


 顔を赤らめてガハハハと笑うマイルズの機嫌は、相当いいようだった。


 ※次回更新 6月8日 21:00

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