Act.6 夕方のギルド


 しばらく湯舟に浸かり、ギルドに戻った。


 「おかえり」


 「ああ、」


 シャーリーに軽く返事を返し、カウンターの少し奥、つまりはシャーリー達受付嬢の後ろに腰かける。


 夕方のこの時間は、日中のクエストを達成した者や、夜のクエストを受けにくる冒険者でごったがえす。そして、中にはトラブルメーカーもいるのだ。


 (何もないのが一番だが・・・・・)


 そばに置いてあった本を手に取り、読み始める。と同時にスキルを発動させ、味覚を消す。そして、その分の処理能力を聴覚に回す。拡張された聴覚で、ギルドの状況を把握するのだ。


 「おい、俺の取り分少なくねえか」


 「当たり前だろ。後ろでブルブル震えてたくせに、もらえるだけありがたく思え」


 カウンターで報酬を受け取った5人ほどのパーティーが口論をしていた。あまり等級が高いわけでもないらしく、隅のほうのテーブルでコソコソやっている。


 「ああ?、ふざけてんじゃねえぞ!」


 「いや、今回に関しては言い訳できないでしょ。実際、魔法使ってなかったんじゃん。使ってもたかが知れてるけど」


 本から少しだけ視線を上げてみると、気の強そうな女がきつい言葉を放っていた。言われた男は、魔法師とは思えないほどに膨れ上がった体にダラダラ汗をかきながら、顔を真っ赤にした。


 ニコラスは開いたばかりの本を閉じ、席を立った。指輪を4つ装着し、足に力を入れる。


 「ふ、ふざけるなあああ!! なんなんら今ここで俺の力を見せてやるうう!」


 男が持っていた杖を振り上げる。それをめんどくさそうに眺めたニコラスの体が天井スレスレまでに舞い上がる。空中で体をひねり、ナイフを一本展開する。


 男の背後に降り立ち、肩をたたく。ここまでニコラスはまったく音を立てず、周りに気づかれることなくやってのけた。


 「ああ?」


 こんな時になんだとでも言いたげな男が振り向くと、鼻先に美しいフォルムのランドール14が突きつけられていた。


 「っ⁉」


 「・・・・・・・・・」


 ニコラスは無言のまま、ナイフで男の鼻を軽くたたいて、背を向けた。その一連の行動をギルドの職員の警告だと、誰もが理解していた。


 軽く右手を振ってナイフを指輪に戻していると、後ろで男が崩れ落ちるようにへたりこんだ音がした。


 カウンターに戻ると、シャーリーがウィンクを決めてきたので、軽くうなずき、また奥の席に座った。


 「・・・・・・金は、このままでいい」


 「そうか。じ、じゃあ、解散」


 「そ、そうね」


 そのパーティーは、腑抜けたようにギルドから出ていった。


 ※次回更新 6月7日 21:00

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