Act.5 ギルドマスター
銭湯といっても、江戸時代のようなものではない。どちらかというと、内装は古代ローマのものに似ている。もちろん、男女は分かれている。
店頭にいた女将に、シャーリーからもらった小銭を渡し、脱衣所に入った。手早く服を脱ぎ、指輪を1つだけ右手につけて浴場に向かった。
軽く体を洗い、湯舟に浸かる。すると、誰かが近づいてきた。
「よお、“
「・・・・ギルマスか」
お互い通称で呼び合い、顔を見合わせた。
「俺が悪かったから、名前で呼んでくれ。こんなところでまで仕事のことを思い出したくない」
そう言って、齢50過ぎにしては豊かな金髪をかきあげた男の名は、マイルズ・コルシュカ。コルシュカギルドの16代目マスターだ。
「それもそうだな。マイルズ」
「ああ。それにしても、この時間帯に来るのはめずらしいな」
「害虫駆除をしてきた」
「お前がその程度で汚れるとは思わんが・・・、シャーリーか?」
「そう。追い出された」
短く答えると、マイルズが容姿に似合う朗らかな笑い声をあげた。
「お前も苦労するなあ。うちの受付嬢は皆気が強いから。俺もやられっぱなしだよ」
「・・・・・」
マイルズの言葉が図星だったのか、ニコラスは拗ねたように湯舟に顔をつけた。
「どこの屋敷に行ってきたんだ?」
「1番街、イーストゲートのD-3番地」
マイルズの質問に、顔を上げてニコラスが答えた。
「パーファんとこか。何か変わったことは?」
「・・・・案内役を頼んだら、メイドが来た」
「いじめられてる?」
「・・・・他に男の使用人もいたのに、そいつが選ばれた。しかも嫌がってた」
「助けるのかい?」
マイルズが柔らかな口調で尋ねた。ニコラスは湯舟の中で、指輪に触れた。
「彼女がそれを求めるなら。
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ニコラスの指輪の裏側には、魔術発動用の刻印が入っている。屋敷での害虫駆除の際に空中に描いていたのも、魔術刻印だ。
指輪に描かれている魔術刻印は、形状変化であった。指輪をランドール14モデルのナイフへを変化させる。ニコラスはこのナイフを多用しているので、ナイファーと
呼ばれているのだ。
ちなみに、炎を纏ったあの技は魔術ではない。女神からもらった力で、腕の発汗機能を停止し、その代わりに油分を排出することで指輪の火花に点火しやすくしているのだ。
そんなことをすれば、腕の皮膚はとんでもないことになるが、それも女神からもらった力で、皮膚の耐久度を人体の限界まで引き上げているので事なきを得ている。
※次回更新 6月6日 21:00
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