Act.3 害虫駆除


 ニコラスは無言で階段を上がり始める。タバコをくわえ、着ていたシャツを脱ぐ。階段途中の手すりにシャツをひっかけ、Vネックのアンダーシャツ一枚になった。


 バリーからある程度離れたところで、ニコラスは口を開いた。


 「壊しちゃまずいものはいってくれ。それだけいい」


 「わ、わかりました・・・・・」


 まず、一番階段に近かった部屋のドアを無造作に開けた。すると、中には害虫が数十匹ほどうごめいていた。


 (やっぱ、ゴキブリか)


 正確にはゴキブリという名称ではないらしいが、似ているからそう呼んでいる。ニコラスにとって、名前などどうでもよかった。


 再びタバコの煙をふるい、部屋の中で淡い光の軌跡を描く。無言でメイドのほうを見ると、メイドは震える体を自分の腕で抱きながら、首を振った。


 それを確認すると、部屋の中にタバコを放り込み、ドアを閉めた。瞬間、轟音が鳴り響く。


 ガガーン!!


 ドアの隙間から爆煙が漏れてきたが、気にせずドアを開ける。すると、中から香ばしいにおいが漂ってきた。


 (まず1部屋)


 中の虫が1匹残らず丸焼きになったことを確認し、他の部屋にも目を向けた。


 (・・・・・あと3部屋か)


 ドアを開け、メイドに確認をとり、魔術付与したタバコを放り込む。2部屋ほどそれを続けると、最後の部屋でメイドが難色を示した。


 「こ、ここは虫だけを駆除していただけると、ありがたいです・・・・・。その、ご主人様の肖像画があるので」


 普段のジト目に不快感をにじませながらも、ニコラスはうなずいた。そして、メイドに手を伸ばし、軽く頭をたたいた。


 「・・・・え?」


 「離れてろ」


 メイドが呆けたようになりながらも、言われたとおりに最後の部屋から離れた。それを確認し、ニコラスはポケットから指輪を4つ取り出した。


 無骨なデザインのそれを両手の人差し指と中指につける。握ったり開いたりを繰り返して手になじませ、ドアノブに手をかけた。


 思いっきり開き、人差し指と中指をこすりあわせた。指の間で生まれた火花が一瞬で大きくなり、ニコラスの両腕を覆った。

 

 羽音を立てて飛んできた虫を、炎を纏った手刀でなでるように焼いていく。足元に落ちた虫は、鋭利な刃物で裂かれたように真っ二つになっており、断面は炎で焼かれているので、体液もこぼれていない。


 (多いな・・・・)


 高速で手刀を繰り出しながら、ニコラスは顔をしかめた。部屋ごと燃やしたい衝動に駆られながらも、無言で作業をこなしていく。


 10分ほど手刀を振り続けていると、羽音が止んだ。それと同時に両腕の炎も小さくなっていった。


 ※次回更新 6月4日 21:00

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る