Act.2 バリー・パーファ


 ダン!!


 石畳に音を立てて着地し、あたりを見回す。


 (・・・・・ここか)


 1番街はどちらかというと富裕層が多い。というか、富裕層でもなければ害虫駆除など人には頼まない。


 ピンポーン


 インターホンもどきを押すと、中から慌てたような足音が聞こえてきた。


 「はい、ただいま!・・・・・・・どちらさまでしょう?」


 ニコラスは無言で依頼書とギルドの職員用身分証を突き出した。すると、応対したメイドは神様でも見るかのように目を輝かせた。


 「ありがとうございます! もう我々も限界で、直接ギルドの方に言いに行こうかとも考えていた次第で」


 (・・・・やめてくれ。絶対に俺が白い目で見られる)


 「それで、どこから?」


 「あ、はい。今ご案内したします」


 屋敷内に入れてもらうと、屋敷の主らしき巨体の男が両手を広げていた。その後ろには、使用人と思しき人たちが頭を下げている。


 「ようこそいらしゃった。この屋敷の主、バリー・パーファだ。さ、とっとと駆除してくれ」


 「・・・・・・・・・」


 ニコラスは主を軽く見ただけで無視すると、階段に目をやった。そこは魔法陣がしかれてあった。


 「・・・・結界か?」


 「ああ、そうだとも。いかんせんギルドに依頼してから2週間はかかると言われたからのう。結界だけは冒険者にやってもらったのだ」


 ギルドへの依頼は、2週間で期限切れとなり、よほどの高難易度でなければ、ギルド職員が対処することになっている。


 「・・・・害虫の種類は?」


 「そんなものは知らん。ある日、目覚めたらわしのコレクションがボロボロになっておったのだ。その日のうちにコレクションを移動させ、結界をしいたというわけだ」


 「案内役を1人、付けてほしいんだが」


 ニコラスの言葉に、その場にいた者の表情がこわばった。


 「な、なぜ」


 「いやならいい」


 ニコラスは依頼書の「手段は問わない」という項目を指さしながら言った。


 「ま、待ってくれ!」


 主たちの脇をすり抜けて階段の魔法陣に触れようとすると、必死に止められてしまった。


 「ちょっと待ってくれ。今、相談するから」


 (命令の間違いだろう、豚野郎)


 彼らが話している間、ニコラスは階段の欄干にもたれかかり、ポケットから取り出したタバコに火を点けた。


 「・・・・・・・・・」


 「待たせたな。決まったぞ」


 煙を遠慮がちに吐き出しながら目を向けると、目に涙をためた別のメイドが震えながら立っていた。それを無表情に眺めたニコラスは階段に目を向けた。


 手に持ったタバコに魔力をこめ、タバコから出る煙を媒体として魔術を発動させる。煙が淡い光を伴って模様を描き、魔法陣を粉砕した。


 ※次回更新 6月3日 21:00

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