元ヤクザ、異世界でギルドに就職する

春風落花

第一章 星と天使

Act.1 雑用クエスト


 ギルド。そこは冒険者に依頼クエストを紹介する場である。物語では、大体駆け出しの冒険者がゴブリン狩りなどの簡単な魔物狩りを受けているだろう。


 しかし、ギルドのクエストには部屋の掃除だったり、害虫や害獣の駆除だったりも含まれる。初期の冒険者はそういうクエストも受けてくれたりするのだが、1か月もたてば、効率がいい魔物狩りにいってしまう。


 つまり、そういった雑用依頼がギルドにたまっていくのだ。そして、それを消化させられるのは、他ならないギルド職員である。


 「ニコ~、ちょっといい?」


 「・・・・・・」


 受付の奥でクエストの薬草を数えていたニコラスは、相変わらずのジト目で声がした方向を見た。


 「ニコ~?」


 「聞こえてる」


 作業を中断し、ドアを開ける。ドアを開けると、昼間から冒険者でごった返している酒場や、依頼受注用のカウンターが見える。


 「このクエスト、もうすぐ期限切れだから行ってきて」


 そう言って、ニコラスに薄っぺらい紙を押し付けてきたのが、シャーリー・ブラウン。このコルシュカギルドの受付嬢だ。


 「俺、まだ仕事が、」


 「それは私がやっとくから。そのクエスト、できるのニコくらいしかいなんだから、よろしく!」


 ウィンクしながら去っていった彼女をうらめしそうに眺め、紙に視線を落とすと、そこにはデカデカと「害虫処理」と書かれていた。


 (あの女、自分が嫌だからって俺に押し付けたな・・・・・)


 めんどくさそうに頭をかいたニコラスは、そのままの格好でギルドを出た。灰色のシャツに、黒いズボン。ネクタイは外しており、腕もまくっている。


 短く刈り込まれた黒髪に、黒い瞳。彫りが浅いその顔は、日本人特有のものだ。身長は170㎝後半ぐらいだろうか、この世界では低いほうに分類される。


 「よお、ニック。また雑用かい?」


 表通りにいた冒険者が話しかけてきた。


 「まあな」


 「お疲れさん」


 「そっちもな」


 ギルドを出てすぐに、ニコラスは裏路地に入った。途端に雰囲気が暗くなり、浮浪者が増える。表通りの、ファンタジー世界の理想みたいな街並みとは大違いだ。


 ゴミが散乱している通りをジト目でにらみながら、歩く。こういっては何だが、ニコラスにはこういう場所のほうが似合っているようだった。


 (・・・・1番街、イーストゲート。D-3番地か。それなりに距離あるな)


 ニコラスは、建物の窓についている錆びだらけの手すりに手をかけ、逆立ちの要領で飛び上がり、3階建ての屋根まで上った。


 (こっちのほうが早いわな)


 なるべく屋根のレンガを壊さないように走り始める。


 ※次回更新 6月2日 21:00

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