この話は時代の過渡期だからこそいいんですよね。
これが人口子宮がもっともっと一般的になった時代の話であればまた変わってくるし、人口子宮が出始めた頃だと主人公の苦悩や戸惑いは当たり前の意見になってくる。
この時代設定が秀逸なんですよね。
実際にこれからこんな未来が待っているかもしれない。
その時に、母親が母親になる瞬間はいつなのか。
ある瞬間に変わるのではなくグラデーションがかっているのか。
僕は男なので想像することしかできませんが、
やはり男性と女性で感覚は違うんだろうなぁなんて思います。
こうやって読み終えた後にもやもやと色々考えさせられるのは優れた作品だからですね。
面白かったです。まる
作者からの返信
お読みくださり、ご評価をいただきありがとうございます!
社会が変わっていくとき、人の感情は大きく動くものなのだろうと思います。
代理母の問題や生殖医療の倫理など、命の周りには考えることが山ほどあるかと思います。
書くことを通じて思考してみたかった、というのがこの小説の始まりです。私としても、答えはまだ出せていませんが……。
編集済
私ごときが夏野さんの作品について語るのはほんとにおこがましいのですが、今回も、さすが、と思わされてしまいました(笑)
まず設定。人工授精からさらに進んだ「人工子宮」。私は存じ上げなくて検索してしまったのですが、開発段階ではあるけど実際に研究が進められている技術なのですね。主に途上国の女性の妊娠、出産に伴うリスク減少、及び乳幼児の生存率向上のために考えられているらしいのですが、それを近未来の日本で働く女性が時間的な拘束から逃れるために活用している、という設定に置き換えている。新しい技術に対するアンテナの張り方とアイディアがすごいとしか言えません...
もちろん内容も凄まじいです。僅か1,5000字の作品にそれこそ社会の縮図のような、様々な価値観や各々の状況を抱えた人たちが出てきます。至るところに対比像があります。由実と菜月、由実と誠、由実と部長、由実と西尾さん。それぞれがどういう対比になっているのかを書くととっても長くなってしまいそうなので、それは省略しますね。ぜひ読んで確かめてください(笑)
そして、これだけ多くの人たちの思いが入り乱れているのに、少しも読みにくくないのです。なんで?と思ってしまうような無理な展開がなく、こういう人っているよな、こういうことってあるよな、と自然に思わされてしまう。この作品はSFに分類される、まさしくフィクションであるのに、現実に存在するようなリアリティーがある。この世のどこかにこういう話ってあるんだろうな、って思わされてしまう。これって本当にすごい事だと思います。
そして題名。
「鉄とガラスの子宮」。妊娠や出産、さらにはその先に待つ子育てが持っている、冷たくて脆い、そんな危うい幸せの側面を的確に表しているな、、とため息しかでません(笑)
最後に少し。
人にはたくさんの「顔」があると思います。側面、と言ってもよいでしょうか。例えば由実について言えば、働く女性としての顔、母としての顔、(菜月の)友人としての顔、妻としての顔、あるいはここには書かれていませんが娘としての顔、などなど。そして、そのどれもが独立してはいられない。全てが同時に存在していて、事情は複雑に絡み合っている。これから由実は、店長として働き、妻として夫を支え(また支えられ)、友人(ママ友になるのかな?)として菜月と付き合い、母として子どもを育ててゆく。嫁姑関係何かも含めてしまうと、もう複雑も複雑。ちょっとしたカオスですよね。それでも、「明日には嵐が来るかもしれなくても、この瞬間のおだやかな船出を忘れ」ずに、確かに感じていた子どもと夫に対する愛を忘れずに、強く生きていってほしいな、なんて思いました。無責任に。(笑)
今回も素敵な作品でした。
弟子名乗らせてください(笑)
作者からの返信
ありがとうございます!
何度読み返してもニヤニヤするばかりで、気の利いた返信が思いつきません!
どう見ても真空パックな羊さんの写真は忘れられそうにないです(笑)
最初は教科書で見た気がしたんですが、発表年を考えると全くもってありえませんでした。どこで拾った情報なのか……。
一種の思考実験のような書き方をしたので、破綻なく読んでいただけたようで安心しました。
生命の発生のまわりには、本当に色々な感情が渦巻きますよね。
タイトルちょっと不安だったのですが、気に入っていただけてよかったです!
大人になればなるほど、多くの役割を演じなければいけなくなりますよね。そして現代は、多くの役割を器用にこなすことをよしとする向きもありますから、大変だと思います。
由実への応援もありがとうございます! お読みくださったうえに、こんなに感想をくださって、ありがたいかぎりです。
弟子だなんて……なにもお教えできることはございませんが、そんなふうに言っていただけて嬉しく、光栄に思います。
編集済
夏野けいさんの作品始めて拝読したのですが、心情描写がたくさん編み込まれているのにあくまで淡々として、抑えがちな語り口がなおさら読む側の想像力をかきたてて…まとまらないですが、そんなひんやりした文体がとても美しいなぁと思いました。
この作品、さまざまな「対比」(母親と父親、子宮と人工子宮、異性愛と同性愛…そのほか色々)が描かれつつも、安易に「対立」につなげることのないストーリーが、現実世界ってこうだよな〜と思ったり。安易に二項対立に持ち込めるほど単純ではないよな、と。
ひとつだけ、主人公の名字が佐伯から篠原に変わっているのが誤植なのかかどうかが気になりました。(けっこう勢いよく読んでしまったので、私の見落とし・見間違いでしたらすみません)
素敵な作品に出会えてよかったです。タイトルも美しい。
作者からの返信
はじめまして。ありがとうございます。
語りが静かなのはよく言われますので、美しいと言っていただけて嬉しいです。
産むことに対して色々と考えながら書いたお話でして、思索の過程もそのまま出ているなと読み返して思いました。対比が多いのはきっと、考えるための引っかかりとして使ったからでしょう。リアリティのために効果があったならよかったです。
そしてご指摘ありがとうございます。確認して唖然としました。最初につけた名前を忘れて最後に新しくつけてしまったようです。何度か見直したはずなのですが……さっそく訂正しました。
ありがとうございました! 読んでいただけて、ご評価までくださって本当に嬉しいです。